最底辺からひっくり返す

剣道といえば、くさい!きたない!きつい!3Kおなじみの嫌われがちの武道だけれど、それを超えるぐらいワクワクした経験をたくさんした。今回は一番印象に残っていることを紹介する。

毎年恒例GWイベント

私は高校のころ剣道部に所属していた。一応、中学校から剣道は始めていたけれど、正直あれは剣道というよりチャンバラみたいで...、まともに練習もしてこなかったし、いわゆる弱小校だったと思う。それでも親に高い防具を買ってもらった負い目もあって、高校でも続けることに。その高校の剣道部が私にとってかなり鬼だった。

稽古は基本週7。顧問の先生は、全国1位になった教え子がいるほどの師として凄い方でもう、中学校の稽古とのギャップがすごすぎてついていくの精一杯だった。なにより一年間での一番の目玉はゴールデンウィーク。PL学園の遠征!PLと聞くと野球のイメージが強いかもしれないが、剣道も全国トップクラスで、もちろんその遠征に集まるのも全国大会出場経験ある学校のみ。うちの高校を除いて。私が行っていた高校は良くて県大会出場どまり、その遠征に呼ばれたのは先生同士のつながりで。そのためその遠征に集まってくる高校の中で最も弱いのがうちだった。

もう当たり前だけど、どこを見ても全員強い。県大会の決勝見てもこんなに強い人いなかった人がうじゃうじゃいた。少なからず自分の中にあったプライドなんてものは初日の稽古でズタズタで。どんな技を打っても返される、タイミングを変えてもダメ。自分の中で出来る応用技をしても一本にならない。もう何をしてもダメな状態。でもこのくだらないプライドがなくなったおかげで初心に戻り、自分がこの集団の中で優位に立てるわけがない、むしろこの最底辺の状態で相手に一本でも打ったらそれってかなりかっこいいんじゃないか...?とひそかにメラメラ闘志をもやすきっかけにもなった。

剣道は運動神経にあまり左右されない競技

私は正直なところ運動神経はない。走るのは遅いし、機敏でもないので。他のスポーツ、全くできません。でも私が剣道に夢中になれているのは運動神経がすべてじゃないところがあるから。

剣道の試合では、初対面の相手に対して"4分間"という短い間の中、相手の特性(スピード、癖、出す技、呼吸法など...)を知り、その中で相手の弱点を突き一本取る道筋を立て、実行に移せた早い者勝ちが勝者になれるものだと私は考える。(他のスポーツも同じような部分はあるかもしれないが、比較しても運動神経が必要とされる割合は剣道はかなり少ない方かなと。。)

今回は試合ではなく遠征ということで、その4分間という縛りが3日間の稽古時間に伸ばされたということ。行く前はかなりこの3日間が苦痛に感じていたが、明確な目標、そして意味のある猶予期間ができたことにより、自分が今やるべきことが明確になりとても楽しくなったのを覚えている。

全国選手を二太刀で

遠征最終日の最後の試合稽古。

遠征初日は、「こんな強い人たちの中にいる弱い自分が恥ずかしい・・・」、「すごい人たちの貴重な稽古時間をわざわざ私が相手してもいいものなのか」と恐れ多く、意味もなく委縮していたが、3日目になるとだんだん環境にも慣れてくる。相手の速さにも目が慣れてきた。

正直最後はあれこれ考える隙間はなかった。体力も限界であったし、一試合終わればまたすぐの試合、反省する時間もなく、まさに「無我夢中」字の通りだった。今考えると、「疲れる」「辛い」「痛い」「勝てない」たくさん負の感情が出てきてもおかしくなかったと思う。それでもその時考えていたことは「実力差が離れている相手に対してどのように勝つか」のみ。ただひたすら考え続け行動にうつし続けることの繰り返しだった。

"その時"は唐突で、頭で考えてしっかり整理されてそれを行動に移せたわけではない。勝手に身体が動いただけだった。試合開始直後、出頭面で一本。その直後にまたノーガード面で一本。2本勝ち。試合終了。

あまりにもあっけない。試合時間10秒もなかったと思う。正直何が起きたその時は分からなかったが、100人以上がいる体育館がしんと静まり返ったことは未だに覚えている。

お呼ばれ扱いであった高校生が、全国相手に対して二太刀で打ち勝ってしまった、あってはならない状況ができてしまった。

相手も、私が相手だったと言うことで油断していただろうし、休憩気分でやっていたとすれば本調子ではなかったかもしれない。

それでも、格上の相手に対して一本取った感触は今でも鮮明に覚えているし、この時が一番ワクワクした瞬間であった。

絶対無理だと思われるようなことも行動し続けていれば思いがけないときに達成できること、考え方次第で嫌なこともエネルギーに変えられること、逆境に立たされた時の対処法は剣道を通してたくさん教えてくれた。

これから社会人になるが、仕事においてもこれぐらい夢中になってワクワクできるものにしたいと思う。