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(浅井茂利著作集)2019年闘争にかける思い

株式会社労働開発研究会『労働と経済』
NO.1633(2018年12月25日)掲載
金属労協政策企画局主査 浅井茂利

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 金属労協では12月5日、
*「3,000円以上」の賃上げ
*企業内最賃引き上げ額2,000円以上
*一時金は年間5カ月分以上を基本
*働き方改革関連法への対応
*60歳以降の就労において、60歳以前の世代との均等・均衡待遇を確保、労働の価値にふさわしい賃金・処遇
*外国人技能実習生の「日本人が従事する場合の報酬と同等額以上」を労働組合がチェックできる体制整備
*正社員と非正規労働者の「同一価値労働同一賃金」の確立
*産別や企連、大手労組による中小労組の交渉環境整備、交渉力強化支援
などをはじめとする2019年の闘争方針を決定しました。
 2014年闘争以降、JC共闘は全体として賃上げを獲得、大手と中小の格差是正、非正規労働者の賃金・労働諸条件引き上げにも前進を果たしてきました。しかしながら一方では、実質賃金は横ばい、最近では低下傾向となっており、中小組合では継続的な賃上げを得ていないところも少なくありません。
 金属労協では、「強固な日本経済」は「強固な金属産業」から、「強固な金属産業」は「強固な現場」から、そして「強固な現場」は、働く者の生活の安心・安定から生まれる、との観点に立ち、マクロの実質生産性の向上に見合った実質賃金の向上という考え方を基本として「生産性運動三原則」の実践を図り、「人への投資」の拡充と社会的相場形成に向け、強力な闘争を展開していくことにしています。                                 

「強固な現場」、「強固な金属産業」の構築に向けた「人への投資」

 金属産業では、現場の従業員の技術・技能やノウハウ、判断力と創意工夫、それらを発揮することによる技術開発力、製品開発力、生産管理力などの「現場力」が産業・企業の競争力の源泉となっています。「現場力」は雇用と生活の安定、適正な賃金・処遇、能力開発、そして職場のチームワークと職場全体のモチベーションによって培われ、かつ最大限発揮されます。急速に進展する第4次産業革命の下においても、このことに変わりはありません。
 わが国の付加価値生産性は諸外国に比べ低位との指摘がありますが、時間あたり人件費は生産性以上に低く、そのため労働分配率は主要先進国中最低となっています。仮に「時間あたり人件費がイコールになる為替レート」で換算すると、わが国の付加価値生産性は主要先進国中最高水準となりますが、このことは、賃金が労働の価値に相応しい水準となっていないことを如実に示しています。
 わが国の産業・企業がグローバルに展開される第4次産業革命を主導し、世界市場をリードしていくためには、「人への投資」の拡充を図り、労働の価値に相応しい賃金水準、生産性の向上を反映した賃金の引き上げを実現し、そうした賃金が働く者の能力の向上と発揮、職場全体のモチベーションの向上を促して、さらなる生産性向上、一層の高付加価値を実現する、「強固な金属産業」をめざしていかなければなりません。
 なお、「人への投資」には、基本賃金だけでなく、諸手当、一時金、その他の労働諸条件も含まれますが、生涯生活設計における安心・安定の確保が、「現場力」発揮につながるという観点からすれば、まずは基本賃金が基軸となります。 

                                

「生産性運動三原則」の実践

 バブル崩壊以降、労働分配率の低下、格差の拡大、将来不安など、働く者に対する配分構造の歪みが顕著となっています。生産年齢人口の減少を背景に、政府は「生産性革命」を推進していますが、「生産性運動」とは単に能率・効率を向上させるということではなく、現状をよりよくしたいとする人間性の尊重を基礎としたものであり、働きがいが実感され、豊かな生活を実現するものでなくてはなりません。配分構造の歪みは、こうした生産性運動の本質を損なうものと言わざるを得ません。「生産性運動三原則」は、生産性向上に向けた
①雇用の維持・拡大
②労使の協力と協議
③成果の公正な分配
の必要性を政労使で確認してきたものであり、三原則の実践によってはじめて持続的な生産性向上が図られるということを、強く意識していく必要があります。
 「生産性運動三原則」のうち「成果の公正な分配」については、 「生産性向上の諸成果は、経営者、労働者および消費者に、国民経済の実情に応じて公正に分配されるものとする」とされており、マクロ経済の状況を反映した適正な成果配分が求められています。賃金や労働諸条件は、マクロ経済の状況を反映し形成された社会的相場という幅の中で、産業の動向、企業の業績や体力、労働力需給などの要素を加味し、それぞれ具体的に決定していく必要があります。
 2016年度の労働時間あたり実質GDPは、全体で賃上げに取り組む前の2013年度に比べ1.7%増加していますが、賃金水準は、名目では緩やかに上昇しているものの、実質では2013年度を下回って推移しています。仮に消費税率引き上げ分を除いたとしてもほぼ横ばい、最近では低下傾向となっています。実質賃金の維持・向上なしに、本格的な消費拡大が経済をリードする「強固な日本経済」を望むことは困難です。
 わが国の基幹産業である金属産業として、マクロの実質生産性の向上に見合った実質賃金の向上という考え方を基本に、社会的相場形成に向けた役割を果たしていく必要があります。当面、消費者物価上昇率が1%程度で推移していることを踏まえた、実質賃金の維持が不可欠です。

                                

バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の構築

 金属労協は、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築の取り組みを推進しています。バリューチェーンを構成する各プロセス・分野の企業で適正に付加価値を確保し、それを「人への投資」、設備投資、研究開発投資などに用いることにより、新たな付加価値を創造し、強固な国内事業基盤と企業の持続可能性の確保を図っていく取り組みです。
 各産別では、賃上げ獲得組合の拡大、大手を上回る中小組合の賃上げ回答引き出しの環境づくりが強化されてきましたが、こうした活動をさらに強化していくとともに、業界団体による「適正取引自主行動計画」や経団連などの「長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言」などの遵守状況についてチェックし、商慣行などの見直しについても検討していく必要があります。                                   

底上げ・格差是正と「同一価値労働同一賃金」の原則

 JC共闘ではこれまで、大手と中小の賃金格差是正、非正規労働者などの賃金底上げに強力に取り組み、その結果、2017年、2018年と中小の賃上げ額が全体として大手を上回る成果をあげています。しかしながら一方、賃上げ獲得組合の比率は、中小では6割に止まっており、すべての組合での賃上げ獲得がきわめて重要な課題となっています。また、賃金水準の規模間格差の縮小が見られないことから、上げ幅のみならず賃金水準での社会的相場形成が重要です。
 さらに、地域別最低賃金の3%程度の引き上げが続いた場合、平均が1,000円に達する2020年代初頭を見据えた企業内最低賃金、特定最低賃金の取り組み強化により、賃金の底上げ・格差是正を図っていきます。
 政府は、短時間・有期雇用労働者に対する不合理な待遇解消のための指針策定を進めていますが、明確でない部分、指針の対象外とされている問題など、労使で解決すべき課題が残されています。
 2016年策定の金属労協「第3次賃金・労働政策」では、性別、年齢、働き方、雇用形態、グループ企業内などを問わず、あらゆる働く者の間で「同一価値」の職務遂行能力を必要とする労働に対し「同一賃金」を適用していく「同一価値労働同一賃金」を打ち出しています。政府の「指針」を満たすとともに、労使自治の取り組みにより、あまねく「同一価値労働同一賃金」の原則を確立し、賃金・労働諸条件の底上げ・格差是正を実現していく必要があります。                                   

「良質な雇用」の確立に向けた働き方の見直し

 政府の「働き方改革」では、働く者の健康確保、仕事と子育て・介護との両立、生産性の向上といった観点がクローズアップされていますが、豊かさや働きがいの追求という観点も忘れてはなりません。
 金属労協では、わが国の経済力やものづくりにおける世界最高水準の技術・技能にふさわしい賃金・労働諸条件、働き方をめざす「良質な雇用」確立に取り組んできました。労働時間については、1986年の「前川リポート」以来、年間総実労働時間1,800時間が国民的合意・国際公約として打ち出されてきましたが、現状は2,000時間台に止まっています。
*1日の労働時間は8時間以内が基本であり、恒常的な所定外労働は解消されるべきであること。
*週休日、国民の祝日とその振替休日、その他の休日を休日とする完全週休二日制が基本であること。
*年次有給休暇は完全に取得すべきものであること。
などを改めて再確認し、そこを出発点として、ワーク・ライフ・バランス実現の具体的議論を進めていくことが重要です。

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