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(6)雇用指標をどう見るか

<情報のご利用に際してのご注意>
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 雇用指標といえば、失業率を算出している総務省統計局の「労働力調査」と有効求人倍率を算出している厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」ということになります。前者は世帯単位のアンケート調査、後者は業務統計(役所の業務で得られたデータを統計化したもの)です。どちらもわかりやすい統計ではありますが、若干、誤解が生じている場合もあるので、注意が必要です。

総務省統計局「労働力調査」

 最近は人手不足なので聞かれなくなりましたが、「労働力調査でいう失業者とは、ハローワークで求職している失業者の数だから、ハローワークに行っていない失業者はカウントされない」というような話をときおり耳にします。 しかしながら、これは誤解です。失業者、失業率を算出している総務省統計局の「労働力調査」は、約4万世帯を 対象とした標本によるアンケート調査であり、ハローワークにおける求職者の実数を集計した厚生労働省の業務統計である「一般職業紹介状況」とは関係ありません。

(調査の概要)
 労働力調査は、調査対象として選定された世帯に、調査員が調査票を配布して記入を依頼、後日、インターネットまたは紙で回収するというアンケート調査の方法をとっています。 調査票では、調査世帯にふだん住んでいる15歳以上の人すべてについて、
*月末1週間に仕事をしたかどうか
*仕事をしなかった場合、仕事を探していたかどうか
*仕事をした日数、時間
*勤めか、自営か。勤めの場合、勤め先における呼称
*雇用契約期間
*勤め先の経営組織、事業の内容
*仕事の内容
*勤め先企業(全体)の従業者数
*(仕事をしなかった人で、仕事を探している場合)仕事があれば、すぐ就くことができるか
*(仕事をしなかった人で、仕事を探しており、すぐ就くことができる場合)仕事を探し始めた理由
などの項目について、記入を求めています。

(失業者の定義) 
 このうち、
1.仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった。
2.仕事があればすぐ就くことができる。
3.調査週間中に、仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)。
の3つの条件を満たす人を「完全失業者」と定義しています。なお、「通学のかたわら」にする仕事、「家事などのかたわら」にする仕事を探している人も、完全失業者に含まれます。

資料出所:総務省統計局「労働力調査」

(原数値と季節調整値)
 わが国の労働力調査を用いる際に、やや混乱しやすい点としては、総務省の毎月発表している失業者数と失業率の代表的な数値が、失業者数は季節調整前の原数値、失業率は季節調整値である、ということがあります。 経済指標が改善したか悪化したかの判断は、原数値の場合は前年同月との比較、季節調整値の場合は前月との比較が基本となります。従って、季節調整値を主に用いる失業率の場合は、前月との比較ができますが、失業者数のほうは、原数値のままでは前月と比較することはできません。

(詳細集計)
 「労働力調査」では、さらに四半期ごとに「詳細集計」をとりまとめ、以下のような状況について、データを提供しています。
*潜在労働力人口:就業者でも失業者でもない者(非労働力人口)のうち、 ・1か月以内に求職活動を行っており、すぐではないが2週間以内に就業できる者(拡張求職者)
・1か月以内に求職活動を行っていないが、就業を希望しており、すぐに就業できる者(就業可能非求職者)・・・求職活動をあきらめてしまっている場合など
*追加就労希望者:就業時間が週35時間未満で、就業時間の追加を希望しており、追加できる就業者
*不本意非正規雇用者:「正規の職員・従業員の仕事がないから」非正規の職員・従業員の仕事に就いた者

厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」

(統計の概要)
 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」は、ハローワーク(公共職業安定所)における求人、求職、就職の状況をとりまとめたもの(新規学卒者を除く)です。
 代表的な指標としては以下のようなものがあります。

新規求職申込件数:期間中に新たに受け付けた求職申込みの件数
新規求人数:期間中に新たに受け付けた求人数(採用予定人員)
新規求人倍率:②÷①(単位は「倍」で、パーセントにはしない)
月間有効求職者数:前月から繰越された有効求職者数と当月の「新規求職申込件数」の合計数
月間有効求人数:前月から繰越された有効求人数と当月の「新規求人数」の合計数
有効求人倍率:⑤÷④(単位は「倍」で、パーセントにはしない)
*なお、このうち最も重要視されているのが有効求人倍率で、主に季節調整値で判断されます。新規求人倍率はその先行指標ということになります。
*大雑把に言えば、有効求人倍率、新規求人倍率が1倍を上回れば人手不足、下回れば就職難ということになります。

(区分)
 「一般職業紹介状況」では、全体(全数)のほか、
*常用
*パートタイムを除く常用
*(うち)正社員
*パートタイム
*(うち)常用的パートタイム
などといった区分ごとに集計が行われています。
 なお、それぞれの定義は以下のようになっています。
常用:雇用契約において雇用期間の定めがないか又は4か月以上の雇用期間が定められているもの(季節労働を除く)
正社員:パートタイムを除く常用のうち、勤め先で正社員・正職員などと呼称される正規労働者
パートタイム:1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用されている通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べ短い者
常用的パートタイム:パートタイムのうち雇用期間の定めがないか、又は4か月以上の雇用期間によって就労する者

(正社員) 
 景気回復の初期に、全体の有効求人倍率が1倍を超えているにも関わらず、正社員の有効求人倍率が1倍に達していないことを根拠として、「景気回復は本物ではない」というような言い方をされる場合があります。 
 しかしながら、正社員の有効求人倍率の算定式は、
  正社員の有効求人数 ÷ 「パートタイムを除く常用」の有効求職者数
となっており、分母が正社員ではありません。定義上、
  パートタイムを除く常用 > 正社員
となりますから、正社員の有効求人倍率は分母がやや大きく、そのために数値が低めになる傾向があることは、認識しておく必要があると思います。
 ちなみに2023年6月の有効求人倍率(原数値)は、以下のようになっています。
全数                       1.23
パートタイムを除く常用              1.20
正社員(分母は「パートタイムを除く常用」と同じ) 0.99

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