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法人企業統計で見る企業業績と配分の動向

2022年12月5日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利

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 12月1日、2022年7~9月期の財務省「法人企業統計」が発表されました。すでに新聞報道がされていますが、その特徴点を簡単にまとめたあとで、「法人企業統計」で見た1990年代後半以降の主要ステークホルダーに対する配分の状況を見てみたいと思います。

経常利益はすでに2018年10月の景気後退前の水準となっている

 コロナ禍という大災厄がありましたので、すっかり忘れ去られた感がありますが、第2次安倍内閣の下での景気回復が終了したのが2018年10月です。
 そこで、2022年4~6月期、7~9月期の売上高、経常利益、人件費について、景気後退突入直前の2018年4~6月期、7~9月期と比べてみると、次のような状況となっています。
*全産業(金融保険業を除く)では、2022年7~9月期の時点では、売上高はいまだ2018年7~9月期の水準まで回復していない。ただし、コロナ禍突入前の2019年7~9月期を上回っている状況にある。一方、経常利益は、すでに2018年7~9月期に比べ8.3%の増益となっている。人件費は、この間4.5%減少している。
*このうち製造業では、売上高でも2018年7~9月期を上回っている(5.2%の増収)。ただし企業規模別で、資本金1千万円以上1億円未満の企業では、減収が続いている。経常利益は、2018年7~9月期に比べ全規模(規模計)で実に43.3%の増益となっており、円安効果の大きさが窺われる。規模別でも、資本金10億円以上の企業で55.4%増、1千万円以上2千万円未満で108.5%増となっているのをはじめ、下記図表の規模別の区分けのすべてで増益となっている。これに対して人件費はマイナス3.5%(全規模)となっており、景気後退前の水準まで回復していない。
非製造業(金融保険業を除く)では、前年同期(2021年7~9月期)に比べれば増収増益となっているものの、2018年7~9月期の水準には達していない。経常利益では、2022年4~6月期に一時、2018年4~6月期を上回ったものの、7~9月期には再び下回る状況となっている。

主要なステークホルダーへの配分では、企業業績、競争力、付加価値創出の「源泉」に対する配分が増えていない

 法人企業統計で、主要なステークホルダーに対する配分について、長期的な動向、具体的には、人件費の抑制・変動費化がはじまり、かつ、「失われた20年」に突入した1990年代後半から、今日の2020年代に向けた変化を追ってみることにします。
 主要なステークホルダーと、各ステークホルダーへの配分項目については、以下のように整理しました。
従業員への配分:従業員給与、従業員賞与、福利厚生費
役員・株主への配分:役員給与、役員賞与、配当金計
企業自体への配分:ソフトウェアを除く設備投資、現金・預金の積み増し
政府への配分:法人税・住民税及び事業税、租税公課
 もちろん、企業のステークホルダーは、これらに限られるわけではありません。消費者、バリューチェーン企業、地域社会なども重要なステークホルダーですが、これらへの配分を法人企業統計から算出することは困難なので、ここには含まれていません。
 また、「企業自体への配分」については、いろいろな考え方があると思いますが、最も狭義なもの、設備投資と「現金・預金の積み増し」のみとしています。なお、ソフトウェアも設備投資に含めるべきではありますが、2000年度以前のデータが得られないので、「ソフトウェアを除く設備投資」を用いています。
 
 まず全産業(金融保険業を除く)で見ると、1990年代後半(1995~99年度平均)に273.7兆円だった「主要ステークホルダーへの配分合計」は、2020年代(2020~21年度平均)には325.9兆円に、52.2兆円増加しています。しかしながら、このうち「従業員への配分」は、1990年代後半には62.6%を占めていたのが、2020年代には53.8%に低下しました。これに対して、「役員・株主への配分」の割合は12.8%から16.5%、「企業自体への配分」の割合は14.7%から20.5%に上昇しています。ただし、「企業自体への配分」の割合の内訳を見ると、「現金・預金の積み増し」がマイナス0.7%、すなわち持ち出しとなっていたのが、プラス7.3%へ大幅に拡大しているのに対し、「ソフトウェアを除く設備投資」は15.4%から13.2%に低下しています。実額で見ても、この間、「現金・預金の積み増し」が25.8兆円増となっているのに対し、「ソフトウェアを除く設備投資」は0.7兆円増に止まっています。従業員と設備投資は言うまでもなく、企業業績、競争力、そして付加価値創出の「源泉」であり、そこに配分されていない、ということは明らかです。

 企業規模別に見ても、同じような傾向となっていますが、とくに資本金10億円以上の大企業では、「従業員への配分」の割合が59.2%から45.5%へ、「ソフトウェアを除く設備投資」の割合が26.2%から18.3%へ、大幅に低下しています。実額では、「主要ステークホルダーへの配分合計」が25.3兆円増加しているのに対し、「従業員への配分」は0.7兆円の減少、「ソフトウェアを除く設備投資」も2.5兆円減少しています。
 また資本金1千万円未満の企業では、「主要ステークホルダーへの配分合計」が36.7兆円から42.5兆円に5.8兆円増加しているのに対し、「従業員への配分」は0.4兆円減少し、「主要ステークホルダーへの配分合計」に占める割合は、53.7%から45.4%に低下しています。

 製造業を見ると、1990年代後半と2020年代とで「ステークホルダーへの配分合計」はほぼ同水準(実額で0.3兆円減)に止まっていますが、「従業員への配分」の割合は66.4%から54.0%に低下しています。その分、「役員・株主への配分」の割合は10.0%から15.5%に、「現金・預金の積み増し」の割合はマイナス0.9%から6.6%に上昇しています。
 非製造業では、「主要ステークホルダーへの配分合計」が実額で52.5兆円増加していますが、「従業員に対する配分」は15.4兆円の増加に止まり、この結果、「主要ステークホルダーへの配分合計」に占める割合は60.7%から53.7%に低下しています。「ソフトウェアを除く設備投資」も0.6兆円の増加に止まり、割合は15.8%から12.5%に低下しています。

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