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タイムマシンに乗れないぼくたち

7つの短編で構成されている【タイムマシンに乗れないぼくたち】。

どのお話も印象深かったけれど、共通しているのは、「住んでいる世界から少し外れた場所で何とかがんばって生きている人たち」が主人公だという点、そして、何か大きな事件やハプニングが起きるわけではないけれど、その主人公たちが自問自答しながら悩み、他者との関わりの中で、不確かではあるけれど「道」を見出していく、という点です。

だからこそ、読者として共感できるところや、自分自身の過去の出来事と重なるところがあり、「そうだよね。そういうことって、あるよね。」と思いながら読み進められる本でした。

あと、読み終わってとても気になる部分はというと、『タイムマシンに乗れないぼくたち』に登場する「男」です。この「男」は不思議な存在ですが、でもなんだかリアルさがあり、最後のシーンは個人的にすごく大好きです。

『深く息を吸って、』は、話者が「きみ」という人物の様子や内面をずっと最後まで語り続ける異色のお話ですが、自分が脇役だと思って自信のない生活を送っている小中高生にぜひ読んでもらいたいと思いました。

『対岸の叔父』は、とにかく「マレオさん」が気になりますが、
「いや、ヌートリアはさすがに人間は襲わないけど、草とか川の貝とかいっぱい食べちゃうから生態系が壊れるんだって。ぼくも昨日調べて知った」「・・・駆除、されるんですか」「そうだね。そうなるね」
という言葉が、一番心に残りました。

『コードネームは保留』の「南さん」はユニークな人ですが、すごく共感できます。読んでいると、応援したくなります。

あと、どの短編にもクスっと笑ってしまう表現(言い回し)が必ずいくつもあって、初めて読む作家(寺地はるなさん)の本でしたが、とても楽しめました。

                          書いた人:H.K

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