見出し画像

聖女BATTLE!/第4話「開催」(中編)

家に帰り、お風呂を出てパジャマに着替えたマオミーは自分の腹をぷにぷにと揉んでいた。

「ショック……一ヶ月も経ってないのにウエスト増えてた……」

「体幹をもっと鍛えなさいって言われたね」

 ミーミーも腹の肉をぷにぷにと揉む。二人とも楽しい高校生活で少し太っていたらしい。

「おねえはさ、いいよね。バストアップもしてたじゃん!」

「えー、大きくても重いだけだよ……ダンスしてても邪魔だし……」

 むーとマオミーは自分の胸を触ってから立ち上がり、ミーミーの後ろに回ってえいやと胸をたぷんと持ち上げた。

「そんな事言うおっぱいはこのおっぱいか! えい!」

「や、やめてよ! マオミー恥ずかしい!」

 ミーミーの大きいおっぱいをたぷんたぷんと後ろから手で持ち上げるマオミー。

「やったなー!」

「にゃ!?」

 お返しと言わんばかりに、ミーミーはどすんとマオミーに倒れ掛かった。突然のことでマオミーは支えきれず、二人一緒に後ろへ倒れてしまった。

「あと、二日しかないんだね」

「明日から、がんばろうね」

「……うん」

 えへへと二人で笑ってしばらく二人でくっついて寝転がる。するとお互いの体温でしだいに眠たくなってきたようで、目がトロンとしている。

「今日はもう寝よっか」

「おやすみ、マオミー」

 おやすみーと言いながら、マオミーは自室へ戻っていった。

聖女BATTLE!/第4話「開催」(中編)

小説:ぷよつー
原案:聖女BATTLE!制作委員会

 学業以外の残りの時間全てを練習につぎ込み、二人は当日を迎えた。

 その日は皆朝から浮き足立っており、マオミーが廊下を歩いているとなんだか見られているような気がした。

 落ち着かない半日を過ごし、準備のため全生徒は12時半に授業が終了すると帰宅させられる。

 マオミーとミーミー、そして宮川さくらは残り当日の打ち合わせをする。

「今回のバトル内容はダンスです」

 全員がざわめく。そしてその中で三人はほっとしていた。一体どんな内容なのだろうとずっとやきもきしていたからだ。

「バトルテーマがダンスであることは15時にネットでアナウンスされます。それまで皆さん口外しないように」

 おそらく無理でしょうけど、と責任者はふんと笑う。現場監督など、責任のあるスタッフなら守るかもしれないが、一般スタッフは何人かSNSにアップしそうだからだ。

 

「皆さんも知っているでしょうが一応説明しますね。

まず、19時から一般客が会場に入り、20時からネット中継が始まります。可☆愛と宮川さくらには軽くトークをしてもらいます。

そして20時半からくじ引きで先攻・後攻を決め、3人は一時退場。そして21時からバトル開始です」

 説明をしている責任者がちらっと三人を見る。宮川さくらは慣れているのか自信満々の顔で見つめ返したが、マオミーもミーミーは不安そうな顔しかできなかった。

 それを見て、責任者はふむと少し考えるそぶりを見せたが、すぐに三人から目をそらした。

「以上です。あとはそれぞれの指揮官に詳しい内容を説明してもらってください。あと、アイドル候補生三人はバトルの流れを決めますので残ってください。では、解散!」

 責任者がそう言うと、他の人は一斉に立ち上がる。

 そして皆それぞれの現場へと向かっていってしまった。広い部屋で三人だけが座っている。

「宮川さくらと可☆愛ですね?」

「「は、はい!」」

「はい」

 二人は慌てて返事をしたが、宮川さくらは落ち着いている。

「一応確認しておきますが、トークはできますか?」

「はい」

「え、え~と……」

 きっぱりと返事をしたさくらに対して、二人はしどろもどろだ。責任者はふぅとため息を吐いた。

「おそらく、好きなものやスリーサイズ、趣味、チーム名の由来、好きな芸能人など聞かれると思いますので、あいている時間にメモをしておくといいでしょう」

「あ、ありがとうございます!」

 そんなことを聞いて、何になるのだろうと思ったが黙っておく。

「バトルは最初一人一分ずつ踊り、続いて先攻が一分、後攻が一分、続いてチーム対決、これは一チーム三分、そして同じ曲で同時に踊ってもらいます。

わかっているとは思いますが、踊った後はわきにはけてください。あとリハーサルは流れはしますが、実際ダンスは踊りませんからね」

「同じ曲で……? 一緒に踊るの?」

「はい、今から曲のデータを渡しますので、待ち時間は練習してください」

「そ、そんな」

「突然課題曲を渡されいかに踊るかもバトルの一つですから」

 責任者はCDの入ったケースをマオミーと宮川さくらに渡す。

「以上。では19時半には舞台裏に衣装を着ていてくださいね。解散!」

「「「はい!!」」」

 責任者はにっと笑って行ってしまった。

 残された三人は渡されたCDをじっと見つめていたが、さくらが先に立った。

「勝つのは、私よ」

「さくらちゃん……わ、私たちだって、負けないよ!」

 マオミーの言葉に、さくらはふっと笑って部屋を出て行った。

 マオミーとミーミーはさてどうしよう? と顔を見合わせる。その時だった。

「マオミー! ミーミー!」

「かずみん!?」

 部屋にマネージャーのかずみが入ってきた。

「何とか仕事終わらせて来たわよ!」

「あ、ありがと~~」

 かずみの顔を見るとほっとして泣きそうになる。

「何泣いてるの! これから戦うんでしょう? 涙はその後に取っておきなさい」

 目尻に少しだけ溜った涙を服の袖で拭い、マオミーとミーミーは心強い味方に笑顔を浮かべたのだった。

 かずみに先ほど説明された事を自分達なりに説明した。

「なるほどね。たぶんそのトークもアイドルとしては必須だろうから審査対象になるわよ」

「え、え~」

「そう言われても……」

 人のプロフィールなんて聞いて、何になるのだろうか。そう思う二人はどうしてもトークというものに力を入れることができない。

「あのね、まずあなた達はアイドルとして知られてないの。あなた達だって、知らない子を応援できる?」

「う、う~ん」

「で、でも歌声を聴いて好きだな~ってファンになる場合もあると思う」

 ぴょんとうさ耳を立ててミーミーが言うとかずみは苦笑した。

「確かに歌声に惹かれてファンになる場合もあるわ。でもね、その子の好きなものや、趣味、何故アイドルになりたいのか、チーム名の意味。

その子のプロフィールに共感がもてたり、いいなって思えたらさらに好きにならない? トークっていうのは、いわば転校生の自己紹介みたいなものよ。

にわかファンじゃなくて、深く自分達を愛してくれるファンを捕まえなくちゃいけないの。きっかけは一つでも多く作るべきだわ」

「な、なるほど」

 二人は納得したのか、メモ帖を取り出し何個か書いていく。

 そして書いたものをかずみに見せた。

「ふんふん、なるほど。他にもカラオケの十八番とか書いておいてもいいんじゃないかしら?」

「いいね、それ!」 

 二人がある程度メモを書き終えると、かずみはふぅとため息を吐いた。

「しかしダンスバトルか。たぶんデータによると宮川さくらはシアタージャズで攻めてくると思うわ」

「シアタージャズ……あのミュージカルとかバレエっぽいやつ?」

「そうそう、正解よ」

 かずみはにこっと笑ってから、険しい顔をする。

「マオミーはオールドスクール、ミーミーはガールズヒップホップでいきましょう」

「二人ともバラバラなの?」

「ミーミーにオールドスクールは厳しいわ」

「みゅ~、ごめんなさい……」

 うさ耳を垂らし、ミーミーはしゅんとした。

「人には得て不得手があるから。それより、今日発表された課題曲が気になるわね」

「ラジカセで聞いてみようか」

 三人は会議室を出て、更衣室へ向かう。そして体操服に着替え、ロッカーに入れてあるラジカセを持って校舎裏へと向かった。

 ラジカセにCDを入れて、音楽を流す。それはヒップホップ系の曲だった。

「なるほどね、じゃぁ最後は二人でガールズヒップホップを踊るにしましょうか」

「「了解!!」」

 かくして、時間制限つきのレッスンが始まった。

 校舎裏で練習をしていると、途中かずみのスマホに電話がかかってきてた。かずみはごめんね、と言いながら離れていった。

 

「結構疲れたね」

「練習時間が短すぎるよぉ~」

 体力が尽きたのか、二人はぺたんと座り込んだ。

 練習のしすぎか、全身が火をつけたように熱い。二人で手で顔を扇いでいると、人影を感じた。

「あ……」

 ふと顔を上げると、あの時文句を言いに来た三年生のうちの一人が立っていた。

 スタッフTシャツを着ているから、スタッフとして参加しているのだろう。

 二人は不安そうな顔で三年生を見上げる。

「……上の人たちは、ほとんどが宮川さくらが勝つって言ってたわよ」

「そ、そんな……」

 わざわざそんなことを言いにきたのか。二人の顔がさらに不安に曇る。

 三年生は下唇を噛んで黙っていたが、きっと顔を上げて二人を睨んだ。

「だから、そんなヤツらをあっと言わせるのよ! 私は……あんた達を応援してるから」

「え?」

 かぁぁと三年生の顔が赤くなる。

「べ、別に認めたとかじゃないから! ただ、あの日から必死になって練習してたみたいだし……宮川さくらより、親近感があるだけよ! それだけ!」

 そう言って三年生は行ってしまう。

「あ、あの!!」

 マオミーが声をかけると、ぴたっと立ち止まる。

「ありがとう!!」

「がんばるね!!」

 二人の声に、三年生は振り返らず手を振って立ち去っていった。

 一般の入場客が会場に入ってくる。人数はマオミーが予想していたものと違い、それほど多くない。一応会場は埋まるという程度だ。

 やはり三人にそれほど知名度がないためだろう。

「次のバトルの時は、いっぱいのファンの人が来てくれるといいね」

「おねえ……うん! そうだね」

 むっちりとした太ももをさらけ出したジーンズのホットパンツに、タータンチェック柄の長袖シャツを腰に巻きつけ、

キラキラとしたストーンが散りばめられた白のタンクトップを着たミーミーが励ましてくれた。

「おねえ、似合ってるね!」

「う~ん、ちょっと恥ずかしいんだけどな」

 そう言って胸を隠す。ミーミーの大きな胸や体のラインが強調された衣装になっている。

「マオミーも似合ってるよ!」

「えへへ、ありがとう」

 黒のホットパンツに銀のストーンが散りばめられた黒のタンクトップに丈の短い黒の革ジャン。

 お互いステージ衣装に身を包み、舞台裏で出番を待っている。

「そうだ、自己紹介の紙、もう一度見とこう」

「そうだね、うぅ~緊張する」

 邪魔にならない場所に立ち、二人でメモを一生懸命見る。いくら見ても緊張のせいかまったく頭に入ってこない。

 舞台袖からでも会場のざわめきが聞こえてくる。あの三年生はほとんどのスタッフが宮川さくらが勝つと予想していると言っていた。

 もしかしたら、お客さんも宮川さくら目当てなのかもしれない。一応ツイッターで一週間ずっと宣伝しておいたが、皆が皆来るわけではない。

 ドクンドクンと早なる鼓動を感じ、二人のそわそわは止まらない。

「……緊張してるわね」

 いつの間にか、隣にさくらが立っていた。こちらの方を見ず、客席をじっと見つめている。

「ルナアイの時は、こんなものじゃなかったわ」

 その目は過去のバトルに向けられているようだ。 

「スタッフになれば、タダでバトルをその目で見ることができる。運がよければだけどね。だから私はスタッフとして参加したの」

「そういえば、スタッフの中に結構生徒が混じっているよね」

「チケット、結構高いから一般の人もソレ狙いでスタッフになるのよ」

 テキパキと動き回るスタッフの中に、どれだけ今回のバトル目的の人がいるのだろう?

 さくらはふぅと深呼吸をすると、マオミーの方を向いた。

「いつか、自分もルナアイのように会場を人手埋め尽くしてみせるとあの時誓ったわ。だから、私は負けない」

「さくらちゃん……うん、私達も負けないよ!」

 その時だった。ビーーー! という大きな音が鳴り響く。それと同時にタキシードを着た男が舞台に上がった。

「はい、皆様こんばんは! ただいまよりお待ちかねの聖女バトルチャンネルの時間です!」

 会場の客がいえぇぇぇい!! と盛り上がる。いよいよ始まったのだ。

 舞台でMCの男が元気よく話し出す。BGMは軽快なものでそれと同時に会場の雰囲気も盛り上がっていく。

「さて、今回戦うのはミュージカルもお手の物、宮川さくらと新人アイドル可☆愛です!! では三人に入場してもらいましょうか」

 ビクンと二人は跳ね上がる。するとスタッフが行って下さいと手で合図する。

 宮川さくらを先頭に三人は舞台へ小走りで躍り出た。会場のお客さんは拍手で迎えてくれて、三人は横並びになった。

「こんばんはー! 宮川さくらです!! 今日は宜しくお願いしまーす!!」

 通る声でさくらが元気よく挨拶をする。二人は驚いたが、顔を見合わせ、せーので口を開いた。

「こんばんはー! マオミーだよ!! よろしくにゃ!」

「こんばんミーミー! ミーミーです! よろしくね!」

 耳をぴょこんとさせながら挨拶をすると会場は拍手を送ってくれた。

「元気がいいですねー。では三人にはトークをしてもらいましょうか」

 MCの言葉を受けてスタッフが椅子を持ってくる。

「じゃぁ、まずはさくらちゃんから自己紹介してもらおうか」

「はい!」

 マイクを受け取り、さくらはにこっと笑顔を浮かべた。

「宮川さくら、16歳です。3月25日生まれです。桜が満開の日に生まれたからさくらです。

好きなものはチョコレート、嫌いなものはセロリです。好きな芸能人はニッキーマウス。年間パスポートも持ってます! 

子どもの頃からバレエを習っていて、ダンスには自信があります。宜しくお願いします!」

「はい、ありがとう~。では可☆愛のミーミーちゃんから自己紹介お願いします」

 ぴょんとうさ耳を立てて、ミーミーはマイクを受け取った。

「ミーミーです。3月3日生まれです。好きなものはケーキとソイラテ、嫌いなものはキムチです。好きな芸能人はルナティックアイリスさんです。いっぱい頑張ってきたので、頑張ります!」

「んん? あぁ、緊張してるんだね。ではマオミーちゃんお願いします」

 ぴょんと猫耳を立てて、マオミーはマイクを受け取る。

「マオミーです。2月22日、ネコの日が誕生日ですにゃ! 好きなものはステーキ。嫌いなものはイカ。

好きな芸能人はLoSA、Acid Dark Cherry、 ルナティックアイリスさんです。いつもはロックを聞くけど、ルナティックアイリスさんもすごく素敵! 元気いっぱいにダンスがんばります!」

「ありがとう~、じゃぁ座ろうか」

 MCの言葉を受けて、三人は座った。

「さくらちゃんはチョコレートが好きでセロリが嫌いって言っていたけど、理由はあるの?」

「チョコは甘くて、稽古の合間に食べる事ができるからっていうのもあって好きなんです。セロリは……苦いから」

「なるほど。ミーミーちゃんは?」

「え? えっと、甘いのが好きなんです。初めて食べたウサギの形をしたケーキとソイラテが美味しくて……キムチは辛いからです」

「辛いの苦手なんだね。やっぱり女の子は甘いのが好きなのかな? マオミーちゃんは確か肉だっけ。イカも何で?」

「はい! ステーキが大好きです! ハンターの血が騒ぐにゃ~! イカは……猫はイカ食べたら、死ぬにゃ」

「ははは、ネコキャラなんだね。そういえば猫耳つけてるね。ミーミーはうさぎ耳かな?」

 MCの言葉に二人の耳がぴょこんと動く。

「すごいね、動くんだ。かわいいね」

「ありがとうございます!」

「えへへ~」

「三人共真面目そうだけど、得意科目とか苦手科目とかあるの?」

 う~んと考えてからさくらが口を開く。

「英語と家庭科が得意で、生物が苦手です」

「へぇ、じゃぁさくらちゃんは文系かな? 何でなの?」

「ダンス留学したいっていう夢があって、それで英語を勉強していたら好きになってました。

家庭科も衣装を手作りしていたらいつの間にか手先が器用になってて……生物はカエルが苦手なんです。あの教科書開くたびにきゃーってなります」

 さくらの言葉にMCと一緒に会場のお客さんもへぇと声を上げる。

 今日のさくらはふわりとしたピンクの膝丈チュールスカートにリボンやレースがたくさんついた衣装になっている。

「え、さくらちゃんそれ自作なの!? すごいね、大変だったんじゃないの?」

「中学生の時らへんから自作の衣装を着て舞台に立ってます。元々絵を描くのも好きで、デザインしているうちに……という感じですね」

「すごい!! えらいね。ダンス留学したいっていう夢もすばらしい! でもカエル苦手なんだ」

「はい、どうしても好きになれないです」

 さくらとMCが小さく笑うと会場からも笑い声が漏れる。

「ミーミーちゃんは何が得意で何が苦手なの?」

「ひゃい!? え、えっと音楽が得意で、物理が苦手です!」

「物理か、物理は難しいよね~」

「はい……計算がもうちんぷんかんぷんで……」

 えへと笑うとまた会場から雰囲気の良い笑いが起こる。

「音楽好きなんだね」

「はい、歌うのがすごく好きなんです。元々歌うのが好きなんですけど、小さい頃聖女様が踊りながら歌っているのを見てから練習するようになりました」

「え? 聖女様……?」

 ミーミーの言葉にMCと会場が首をかしげる。

「あ、名前がわからなくて私達がそう呼んでるだけなんです! 私達がアイドルになりたいって思ったきっかけの人で……」

 しまったと固まるミーミーをすかさずマオミーはフォローした。

「なるほどね~。今回はダンスバトルだけど、いつかミーミーちゃんの歌声も聞いてみたいね」

「ありがとうございます!」

「マオミーちゃんは何が得意で何が苦手なの?」

「得意なのは体育! 特に創作ダンスが好きかな。苦手なのは……数学。猫だから許してにゃ~」

 耳をぴくんぴくんとしながら弱気な声で言うとMCはそっかーと言ってくれた。

「皆文系なんだね。さて、そろそろお待ちかねスリーサイズを聞いちゃおっかな」

「「えぇ~~!!?」」

「あれ? 可☆愛のお二人は恥ずかしそうだね」

 MCがにやにやしながらからかう。

「さて、さくらちゃんから言ってくださいな」

 MCに振られ、さくらは一瞬喉を鳴らしたが、すぅと息を吸い込むと覚悟を決めた。

「えっと、上から85、55、85……です!」

「さくらちゃん耳まで真っ赤だね~、ありがとう。ということはAカップかな?」

 さくらは小さくこくんと頷く。何故こんな羞恥を受けなければいけないのか。だが会場は一部が興奮状態になっている。

「じゃぁ、ミーミーちゃんお願いしまーす」

「ふぇ!? え、えっと……92、55、85……です……」

 ミーミーの言葉に会場全体がうをぉぉと盛り上がる。ミーミーはうさ耳を垂らして顔を真っ赤にさせた。

「おぉ! Fカップかー、すごいね。ダンスしたら迫力ありそうだよね」

「はぅぅ……」

 恥ずかしがっていると会場から指笛を鳴らされ、ミーミーちゃん可愛いーという声が上がる。

「さて、マオミーちゃんは?」

「え? えっと……85、55、85……です……」

 猫みみをしゅんとさせ、マオミーも顔を真っ赤にさせる。

「さくらちゃんと同じなんだね。小さくても大きくても、おっぱいは偉大だと思うよ」

「は、ははは」

 MCの言葉に苦笑しか返せない。

「もう一つだけ聞いておこうか。チーム名の由来は?」

 カンペを出されて、MCは話題を変えた。時間が押しているようだ。

「さくらちゃん、お願いします」

「はい。そのままです、ソロなので自分の名前をつけました」

「なるほどね~。可☆愛の二人は?」

「天界では可愛い人の事を可愛と呼ぶんです」

「は? え? 天界ってどこ?」

 一瞬会場に失笑が上がる。おそらくミーミーは不思議系ちゃんなんだなと思われたようだ。

「可☆愛は神様がつけてくれた名前にゃ!」

 それに気づかずマオミーを素直に言ってしまい、MCは苦笑するしかなかった。

「そっかそっか。とにかく、可愛いっていうのを押したいんだね」

 前列にいるスタッフがカンペを出す。そろそろのようだ。

「さて、最後に意気込みを聞かせてくださいな」

 シーンと会場が静かになる。ごくりとさくらはつばを飲み込み、口を開いた。

「私は幼いころから、情熱のすべてを舞台にかけてきた。絶対に負けられない。この戦い、勝ってみせる!」

 おぉぉぉ! と会場から応援の声があがる。

「やる気満々でいいね! さて、可☆愛の二人どうぞ!」

 マオミーとミーミーは二人顔をあわせてせーので口を開く。

「「楽しいステージにしたいです!」」

 二人同時に言ったため、暖かい拍手が起こる。

「だいすきなおねえ、そしてさくらちゃんと、サイコーのステージを一緒に作るにゃ!」

 腕を振り上げ、元気よくマオミーが言うと会場にどよめきが走る。

 どうしたんだろうと二人がきょとんとしているとMCは失笑し、さくらは二人を睨みつけている。

「え? あの子バカなの? これからバトルっていうのに」

「よくわかってないんじゃないの?」

 会場から口々にそういった声が聞こえる。マオミーはただファンの皆と、そして一緒に戦うさくらと楽しんで戦いたいと思って言っただけなのだが。

 会場は理解してくれなかったようで、客席の雰囲気は少し悪くなる。MCはんんっと咳払いをして、立ち上がった。

「意気込みを聞いた所で、先攻・後攻を決めるくじ引きをしてもらいます!!」

 MCの言葉に三人は立ち上がる。スタッフが椅子を片付け、棒の入った箱を持ってきてMCに渡した。

「赤い印がついたほうが先攻です! さて、二人同時に引いてください!」

 さくらとミーミーが同時に棒を掴み、音楽にあわせて引き上げた。

 さくらの棒の先には赤い印が付いていた。

「宮川さくらが先攻となりました!! さて、準備が整い次第、聖女バトルを開始します!!」

 うをぉぉぉと会場が盛り上がり、MCと一緒に三人は袖にはける。

「ふぅ、緊張したね~おねえ」

「うん……まだドキドキしてる」

 二人でトークが無事終了したことを喜び合っていると、マオミーは襟首をぐいっと後ろに引っ張られた。

「にゃ!?」

「ちょっと、どういうつもりよ」

 振り返ると、物凄い形相をしたさくらが立っていた。

「一緒にサイコーの舞台を作る? 舐めてんの? こっちは遊びじゃないのよ!?」

「さくらちゃん……」

 本気で怒っているさくらに、マオミーは猫耳をしゅんとさせる。周りのスタッフもさくらの味方のようで、誰も止めない。

 マオミーは一瞬ぎゅっと目を瞑り、弱気になりかけた自分を押さえつけ、目を開けるとさくらを真っ直ぐ見た。

「その言葉に、嘘偽りはないよ。お互い真剣に戦って、最高の舞台を作る。お客さんも自分達も楽しめなければ、何のためにバトルするの?」

「マオミー……」

 対立する二人に、ミーミーはオロオロしている。さくらとマオミーはしばしにらみ合っていたが、さくらがくっと言うと手を離した。

「まぁいいわ。こっちは全力でいくから、叩き潰してあげる」

「さくらちゃん……」

 どうしても、マオミーの思いは今のさくらには届かないようだ。ふん、とさくらはダンスの準備をするため行ってしまった。

「……私、間違ってるのかなぁ」

 マオミーはポツリとつぶやくが、誰も答えてはくれなかった。

次回、いよいよバトルスタート!

マオミーとミーミーは、アイドル活動のための皆様からの投げ銭を受け付けております!こちらから寄付をお願い致します。