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トランプ裁判

全米がテレビにくぎ付けだ。
といっても画期的新商品の発表やサスペンス映画のことではない。今年の大統領選で再選を狙うドナルド・トランプ前大統領の悪行を裁く裁判が佳境に入ったからだ。なにしろトランプは不倫口止め料から連邦議会襲撃事件まで4つの刑事裁判で被告となっている。
口火を切ったのは4月15日に始まったニューヨーク州での裁判。間もなく評決が下されるとみられるこの裁判でトランプは自身の不倫の口止め料を不正に処理したとして計34件の罪に問われている。注目集めたのはふたりの「スター」証言者だ。
ひとりはトランプと性的関係を持ったとされる元ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ。もうひとりはトランプ一家の強面フィクサーで「ピットブル」(ブルドックに似た闘犬)のあだ名で知られた顧問弁護士マイケル・コーエンだ。
 居心地悪そうに被告席に座ったトランプを前に証人席についたダニエルズは前大統領の視線にも動じることなく当時の生々しいやり取りを証言した。それによれば、27歳だった彼女が当時60歳のトランプと知り合ったのは2006年、セレブが集まるゴルフトーナメントの会場だった。妻のメラニアが長男バロン君を出産して3カ月のときである。
彼女の暴露本『Full Disclosure』(全面開示)によれば、試合後、ホテルのペントハウスに誘われ関係を持ったという。口説き文句は「テレビ番組に出してやる」だったが、その後再会したときには出演話はうまくまとまらなかったと告げられたという。テレビ出演を餌に肉体関係を迫る、なんともチープな手口ではないか。アメリカ大統領のやることではない。
 裁判の焦点に話にもどすと、大統領選の投票日が迫った2016年の秋にダニエルズは不倫スキャンダルを隠蔽しようとしたトランプ陣営から脅され口止め料として13万ドルを受け取ったという。
不倫は刑法で罪ではない。だがトランプが口止め料を隠蔽するため業務記録を改ざんし、自分に不利な情報を有権者から隠したのは選挙法違反で重罪だというのが検察側の主張だ。その場合、最高刑は1件につき禁固4年。トランプも心穏やかではあるまい。
一方、「トランプ氏を裏切るくらいなら、高層ビルから飛び降りた方がマシだ」と豪語していたコーエン元弁護士は検察側の最重要証人として出廷した。トランプに手のひら返して裏切られたからだ。ボスの罪を被って逮捕・起訴されたがトランプに冷たくあしらわれ、結局脱税、選挙資金法違反、偽証などの罪で2018年禁固3年の実刑判決を受けた。トランプからは「げす野郎」とののしられている。
裁判では、ダニエルズに口止め料を送金し直後にトランプと話し、すべては前大統領の指示だったと証言。自身の裁判で偽証したのは前大統領を守るためだったと吐露した。現地メディアの取材に「私は忠誠に価しない人に忠誠を尽くしてしまった」と発言後トランプから「ゲス野郎」とののしられた。
負けず嫌いのトランプはどこまでも無罪を主張している。だが、重箱の隅をつつくようなトランプ弁護団の弁護よりも、綿密な検察側の主張と証言のほうに説得力があった。あとは陪審員の判断だ。ニューヨーク州では評決は全員一致が原則。12人の陪審員のうちひとりでも意見を異にする者がいれば評決は不成立になってしまう。トランプ側はこれを狙っているのだろう。
ニューヨーク地裁のホアン・マーチャン判事と彼の家族は裁判開始前からトランプの口汚い批判に晒されてきた。しかし、前大統領の度重なる不規則発言や弁護団の策略には屈しない姿勢で迅速な裁判を目指してきた。
21日、検察・弁護団がともにすべての証人尋問を終え、トランプ本人も証言しないことになったとので、評決はおそらく5月27日のメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)後ほどなくして確定するだろう。さてどうなるか。
トランプはさらに3つの刑事事件でも起訴されている。2000年大統領選でジョージア州開票集計作業への介入、在任中の機密文書の隠匿・破壊、そして司法省がもっとも力を入れている2021年1月に起きた連邦議会襲撃事件の扇動だ。
だが、トランプ陣営が裁判日程は選挙運動の妨害だなどと難癖をつけて引き延ばし作戦を展開。トランプに任命された判事だということもあって3つの裁判の判決は大統領選挙後になりそうだ。
それだけに今月のニューヨーク地裁の評決は大統領選の行方に少なからず影響を与えることは間違いない。
 

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