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ほんとうに怖い情報操作(3)

クレジットのない映像、リポーターのいない映像、をどう吟味するのか

 H&Kはまた、イラクの残虐行為や「勇敢」なクウェート人のレジスタンスのイメージを売り込むため、広報用のニュースビデオを20種類以上も制作し、まんまと全米ネットワークのニュース番組に挿入させることに成功している。

 元H&K幹部でビデオ制作に関与したジャクソン・ベイン氏によると、ビデオの素材はH&Kのスタッフがサウジアラビアで撮影したものや、クウェート筋から入手したものを編集したという。

 「テレビ局は喜んで使っていたよ。私たちの映像は侵攻以後のクウェートの様子を伝える唯一の映像だったからね」

 そうベイン氏は自慢げに話した。

 撮影や通信技術の発達で近年ではどのようにした撮影したのか分からない映像が、報道分野にも流れ込んでいる。クレジット(撮影元)のない映像、リポーターのいない映像をどのようにして吟味するのか。視聴率競争にしのぎを削るテレビ局にとって、魅力的映像ほどその落とし穴も大きいのだ。

 「私たちテレビ報道機関にとって最も心を奪われるのはニュースレポートのように見える映像だ。だからPR会社は、戦争を売るにせよ、製品を売るにせよ、ニュースのように見せかけるのです」

 当時湾岸戦争のレポートを担当し、アメリカABC放送のキャスターを務めたジョン・マーチン氏は反省を込めてこう語った。

「歴史上最も大きなキャンペーン」を成功させたという満足感

 では、あの「保育器の赤ん坊事件」はどうか。

 戦争終結後、少女ナイラはなんと在米クウェート大使のまな娘であることが判明した。この事実が発覚してから、クウェート駐在アメリカ大使は慌ててこの事件に関して目撃証言を突き止めたと主張した。しかし、戦争終結後に調査の為に訪れた人権団体によればナイラ証言を裏付ける証言も証拠も発見することができなかった。

 クウェート解放直後に調査団を派遣した人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(アムネスティに次ぐ世界第2の人権団体)の所長ケン・ロサは、「赤ん坊事件」は虚構だったと断言する。

 「我々は現地の病院を周り、目撃者や、赤ちゃんが殺されているとすればそれを知る立場の人々の聞き取り調査をしましたが、まったく確認できませんでした」

 また彼らの調査によると、国連での公聴会で証言した医師はじつは矯正歯科医で、伝えられたイラク兵の赤ん坊に対する残虐行為を目撃していなかったことも判明した。

 注目すべきは、こうした事実が明るみに出たときには、既にアメリカ参戦という情報操作の目的が達成されてしまっていることだ。

 「私は彼女がウソをついたかどうか分からない。ただ、あのキャンペーンは歴史上最も大掛かりなキャンペーンだったと思う。結果はじつに上手くいった」

 当時を振り返りグレイ氏は罪悪感の片鱗も見せず満足げに私に語った。それもそのはず、この仕事でなんと約1100万ドルもの大金がH&Kに支払われたのだから。また彼は自分の立場をこうも説明した。

 「我々が国を戦争に導いた訳ではなく、宣戦布告がなされてから我が社が雇われたのだ。PRは情報をプロモートしているのだ。もしその情報が戦争を導いたとしたら、それは必然的なことだ」

プロの手で、アメリカ国民にクウェートの大義を教育する必要があった・・・

 それでは仕事を依頼したクウェート側はどう考えているのか。

 当時「自由クウェートのための市民」(CFK)代表で、クウェート・アメリカ基金の理事長を務めたハッサン・アル・イブラヒーム氏のワシントン事務所を訪ねた。見るからに高価な調度品で飾られたオフィスで、大柄で口髭を蓄えたイブラヒーム氏はゆっくりと口を開いた。

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