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世界が注目するトルコ大統領選は「知らぬ仏より馴染みの鬼」か


  今年の世界で「最も重要な選挙」と呼ばれるトルコ大統領選は、現職のエルドアン大統領とリベラルな経済学者で野党統一候補クルチダルオールのどちらも当選に必要な過半数に届かず5月28日の決選投票にもつれ込んだ。
 
 注目は、20年にわたって親欧米とも反欧米ともいえない独自路線で国際政治に一定の影響力を維持してきたエルドアン政権が敗れ、親欧米政権が誕生するかどうかだ。トルコが親欧米路線に転換すれば対ロシア制裁強化され、ウクライナ戦争を含む国際情勢に大きなインパクトを与えることが必至だからだ。
 
 どちらが優勢かと問われれば、私はエルドアンと答える。なぜなら、年率50%以上の激しいインフレ、死者5万人以上を出した今年2月の大地震への対応の失敗、強権政治と蔓延する縁故主義などにも拘わらず、エルドアンが掻き立てる熱烈なナショナリズムに多くの有権者が共感を覚えているからだ。
 
 イスタンブール市長から首相そして2014年に大統領へと上り詰めた69歳のエルドアンはしたたかな政治巧者だ。ウクライナ戦争では国連でロシア非難決議に賛成してウクライナにドローンなどの兵器を供与する一方でロシアから原油や天然ガスをまんまと安価で輸入している。
 
 大国同士の対立から距離を置いて独自外交で存在感を示す「グローバルサウス」の典型だともいえる。グローバルサウスとは南半球に多いアジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称だ。
 
また、トルコは西側の反ロシア安全保障同盟であるNATOのメンバーだがスウェーデンのNATO加盟に反対している。同国が「クルド人テロリストを匿っている」というのが理由だ。スウェーデンは多くのクルド人を難民として受け入れている。
 
「我々は次の5年間も国家に奉仕できることを強く確信している!」エルドアンは首都アンカラに集まって旗を振る支持者たちにそう力強く叫んでいた。
 
 もう一方の野党統一候補のクルチダルオールはインド独立の指導者ガンジーに似ていることから地元メディアでは「トルコのガンジー」と呼ばれる中道左派の共和人民党の党首だ。激情型のエルドアンとは対象的に語り口は穏やかでカリスマ性に乏しく、年齢も74歳と高齢だ。
 
「この国に真の民主主義をもたらす」と発言し、親欧米路線を明らかにしている。NATO同盟国との関係修復も約束。その一方でトルコと中国を繋ぐ中国の「一帯一路」構想に対してはエルドアン政権以上に積極的な姿勢をみせている。
 
 選挙は水物だ。14日に行なわれた第一回投票の結果が僅差だっただけに、決選投票がどれだけ接戦になるか予断をゆるさない。
 
日本の諺に「知らぬ仏より馴染みの鬼」というのがある。「ありがたい神様でも疎遠であれば、なれ親しんだ鬼のほうがまさる」という意味だ。はたしてトルコの有権者はどちらを選択するのか。ちなみに英語でも“Better the devil you know than the devil you don’t know”という表現がある。

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