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”GOING FOR THE GOLD"(金をめざせ!)

  気がつけば見わたす限りところ狭しと乱雑に積み上がった本や雑誌の山。
半世紀近くもジャーナリストという職業を続けていれば必然の結果といえばそれまでですが、一念発起してその整理を始めました。いわゆる「断捨離」の第一歩です。

 すると、程なくして目に留まったのが20年前の米経済誌『フォーチュン』。表紙にあったのは“Going for the Gold”(金を目指せ)という表紙の大見出しでした。東京オリンピックが終わったばかりで思わず金メダルを思い浮かべましたが、どうも違う。

 なぜならその言葉とともに掲載されていたのは抜けるような青空の下を颯爽とクルーザーで釣りに出かけるふたりの男性の写真だったからです。しかもそのすぐ下には”A Guide to Retiring Richer, Happier…Faster”(豊かに幸せに、そしてすばやく退職する方法)とありました。

 どれどれとページをめくってみると、この”the Gold”がオーストラリア東海岸のゴールドコーストであることが分かりました。ようするに退職後に住みたい場所の特集記事だったのです。

 では日本人はどうなのだろうと調べてみると、なんと当時の50歳以上の日本人のおよそ25%も退職後オーストラリアで住みたいと考えていました。ちなみに2位はハワイ。以前は、日本では定年退職というと将来不安を抱えた暗いイメージが伴っていましたが、私を含めた団塊の世代が退職を意識しだしたあたりから欧米のような”happy retirement”(幸せな退職)”を求める傾向が強まってきたようです。

 戦後の経済高度成長とともに、一度しかない人生をあくせく働くだけで終わらせたくないという思いが「質素勤勉」な日本人の間にもようやく浸透しだしたからでしょう。しかし経済大国とは名ばかりで、現実は教育費や住宅ローンでアップアップの家庭がほとんど。長引く不景気で老後不安が先立って、おいそれと海外移住など出来ないのが現実です。

 平均貯蓄額は何千万円といってもそれは数字のマジック。高額所得者がたくさん貯蓄しているだけのことです。頭をフリーザーに入れて足をかまどにつっこんだ人間の体温が統計学的には極めて快調だというのと同じです。平均ほど疑った方がいい数字はありません。

 それではどうすれば”happy retirementを実現できるのでしょうか。今や古雑誌と化した手元にある2001年夏のフォーチュン誌によれば、まず4つのWを考えることが大切だとありました。それは“When and Where you want to retire, Wherewithal and Well-being.(いつ、何処で退職したいか、どんな生活レベルを望むか、医療や健康のことを考慮する)”

 そんなことは言われなくても分かっていると思わずムカッときてしまいましたが、現実には60歳で定年退職して退職金と年金だけでそれなりに豊かな老後を過ごすなんて幻想はとっくの昔に崩壊しています。今やそんな悠長なことはいっていられない。倒産は日常茶飯事、企業年金も国民年金もパンク状態、金利は低くても担保がなければ銀行はお金を貸してくれない時代ですから、気を強く持って自分の人生設計は自分でするという気概を持つことが大切です。

 ただ、計画を立てるにしても、自殺でもしない限り、自分が何歳まで生きるかわかりません。一応90歳まで生きることを目安にし、若いうちから老後の生活費を生むような投資(株や債権など)をして、安いコストで豊かな生活をエンジョイできる場所に移住するのが理想でしょう。

 シンガポールのゴー・チョク・トン元首相曰く、”Moving from thrift to luxury---easy. From luxury to thrift—very difficult.”(質素から贅沢な暮しに移るのは簡単だが、その逆は難しい)

 いちど贅沢の味を覚えると質素倹約は誰にとっても難しいのです。そんなことを考えていたら、本の整理など少しも進まないうちに日が暮れてしまいました。目指すはお金の掛らないシンプルライフなのですが・・・。






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