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若者よ、義務投票制で政治を変えよう

 来月10日の参議院選挙は2016年に選挙権年齢が18歳以上に引き下げられて5度目の大型国政選挙だが、若者が投票すれば少しは世の中が変るのではという期待はすでに雲散霧消している。
 
 全国初の「18歳選挙」は福岡県のうきは市長選挙だった。地名は元々漢字で「浮羽」と書かれていたが2005年の市町村合併で味もそっけもない「うきは」になった。短慮の役人や政治家の伝統文化破壊である。
 
 それはともかく、注目の若者の投票率はどうたったか。同市(人口3万弱)当日の18歳、19歳有権者数は581人で、そのうち実際に投票したのは223人。つまり投票率は38.38%。全体の投票率56.1%と比べたら17ポイント以上下回っていた。
 
 それを見てマスコミはこぞって期待外れの残念な結果だと報道した。若者の政治に対する無関心はゆゆしき問題だというわけだ。「すべての新有権者に投票所に足を運んでいただきたいとの思いで懸命に訴えてきた身としては忸怩(じく)たる思いだ」という再選を果たした市長のコメントまで掲載していた。馬鹿も休み休み言えである。そんな教育委員会的コメントは誰も読みたくない。
 
 そもそも戦後の20代の投票率は、昭和42年の衆議院選挙を除いて、すべての選挙で世代間最下位である。つまり偉そうに上から目線で政治意識の低さを嘆く大人たちも若いときにはあまり投票に行かなかったのだ。
 
 ちなみに消費税増税が争点だった1996年の選挙での20代の投票率は戦後2番目に悪い36.42%。昨今の若者の投票率より低い。政治意識の低かった若者も歳をとるとやがて投票に行くようになるのである。
 
 むしろ問題は政策を語らない政治家や永田町通信のような政争報道に終始するマスコミだろう。与党の派閥争いがどうとか野党が分裂したとか騒ぐ。勝手に争ったり分裂すればいい。そんなことはどうでもいい話である。私たち有権者にとっては誰がいちばん私たちの生活を守ってくれるのかが大切なのだ。まあこれも正論で、現状では誰がなっても期待感は高くない。
 
 「シルバーデモクラシー」が蔓延るのも当然といえば当然だ。
 
 シルバーデモクラシーあるいはシルバー民主主義とは、少子高齢化で有権者のうち高齢者が占める割合が高いことに加えて、年齢別の投票率が若者よりも高齢者が高いため、高齢者の意見が過剰に政治に反映されやすい状況になっている状態を揶揄する言葉だ。
 
 今や日本だけでなく少子高齢化で人口が減り始めた欧米先進諸国でも議論されている問題である。日本ではとくに2000年代後半に団塊の世代(1947年~49年前後の第一次ベビーブーマー時代)が定年退職を迎えた頃から有権者に占める高齢者比率が上昇。しかも20~30歳代の有権者の投票率が低いことから、「選挙に落ちればただの人以下」といわれる政治家たちが高齢者に有利な施策を優先するようになった。
 
 そういえば数年前、日本人を父母に持つフランス生れの若い女性がネット上で「世界でいちばん若者に冷たい国、日本」という動画をアップしていると知人が教えてくれたことがあった。
 
 さっそく見てみると、これがなかなかの秀作。まずフランス語(字幕スーパー付き)というところがおしゃれ。映像では、強欲な年寄りたち(私のそのひとりだが)幅を利かす日本社会で若者がいかに割を喰らっているかをデータで明快に説明し、若者に選挙を通じて世の中を変えようと訴えていた。

 政界の内輪もめや○×△の当確予想を伝える暇があったら、この映像をテレビで何度も流した方がよっぽど若者の政治に対する関心が高まる。
 
 じつは選挙の投票率を上げるのは容易なことではない。
 民主主義の旗手を標榜する米国の大統領選挙でも一般投票の投票率は60%程度と意外に高くない。そんな中、私が注目したのは投票所。なんと米国では町中のコインランドリーや理髪店、パン屋さん、自動車修理工場、スケート場などが大統領選挙当日には投票所に早変わりするのだ。

 協力した店舗には謝礼として150ドル(約2万円)が支払われていた。ロサンゼルスでは海辺の救護員事務所までが投票所になるというのだから、日本の投票所が学校や公共施設であるのと比べるとなんとも楽しそうで投票がしやすいはないか。

 もちろん何処でもいいというわけではない。適切な照明設備があること、車いすで入退場できること、お酒を提供する場所でないこと、有権者にお土産を配らないこと(!)、などが規則で決められている。

 ちなみにシカゴの選挙管理委員会の役員がお気に入りの投票所は街の北側にあるホットドッグのお店だとか。シカゴ名物のお肉の香りが最高なのだそうだ。いかにも国民が自分たちのリーダーを選ぶ米国らしい雰囲気が伝わってくる。日本でも考えてみたらどうか。
 
 米国とは対照的に意外と投票率が高いのがイタリア。80%以上だ。憲法で投票が国民の「義務」だと定められているからだそうだ。じつは世界では義務投票制を導入している国が30カ国程度ある。これらの国では罰則が決められていることも珍しくない。

 例えば、オーストラリアでは有権者が正当な理由なく投票に行かなかった場合には最高50豪ドル(4700円)の罰金が課される。病気などの理由で投票に行けない人には特別の配慮がなされている。そのお陰か投票率はなんと90%超。まさに老若男女国民の総意が選挙結果に反映されるからポピュリズム的政治になりにくく、少数派の意見が反映されやすい。政治家も本気で国民の方を向いていないと落選の憂き目にあう。
 
 もちろん投票は市民の義務ではなく権利だという反対論があるのは承知だが、「若者も投票に行こう」という掛け声だけでは変化が起きない。日本でも義務投票制の導入が政治を変える大きな一歩のなるのではないだろうか。罰金額は1万円でいかがか。これなら若者もこぞって投票に行くだろう。
 
 ちなみにオーストラリアでは投票所となる教会や学校などの公共施設で様々な屋台が立ち並んでお祭りのようになる。大量のソーセージを焼かれていて、投票を済ませた人たちがパンに挟んでホットドッグにして食べるのが習慣になっているとか。こんな選挙は待ち遠しい。
                  (写真はnhk.jp)


 
 

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