見出し画像

ゲーム理論は本物か?

 初日の講義に現れた学生を前に、ハーバード大学経済学教授だったトーマス・シェリングは彼の授業で単位を取ることがいかに大変かということを話し始めた。ほどなくして何人もの生徒が席を立った。さらに難解な話しを続けたところ、ほとんどの学生が教室から姿を消した。

 最後の数人になったシェリングはにっこり笑って言った。

「君たちのはリラックスしていい。これまでの話はクラスの生徒の数を減らし、本当に勉強したい者だけを残す策略だ」

 こんなエピソードがある雑誌で紹介されていた。シェリング博士といえばヘブライ大学のロバート・オーマン教授とともにノーベル経済学賞に輝いたゲーム理論の達人だった。私も遠い昔、大学生時代に国際関係論の一環としてゲーム理論を学んだ記憶があるが、今ではその詳細を覚えて以内から情けない。

 結論からいえば、ゲーム理論は今でも価値の高い理論であるというのがその”Is game theory real?"と題された記事の主旨だった。それでも最後にクエスチョン・マークがついているのは、「ゲーム理論」という呼び名が誤解を招いているというのだ。本来なら”deep strategy"(深読み戦略)と呼ばれるべきだった。

 ゲーム理論は20世紀半ばに確立された学問分野で、一般的には1944年のフォン・ノイマンとモルゲンシュテルンによる著書『ゲーム理論と経済行動』から始まったとされている。

 相手の出方を考えながら自らの行動を決定する戦略的状況が前提となっており、単にチェスやオセロなどの室内ゲームに限らず、政治や軍事、経済活動にも応用できる優れものだ。

 経済では企業間競争、特定の市場における商品価値、環境保護などが分析でき、外交分野では冷戦時代の米ソ対立から現在の北朝鮮外交にまで使われている。

 シェリングはとくに”rationality of irrationality"(非合理性の合理性)を強調していた。簡単にいえば、交渉の場で自分の方が相手よりもクレイジーだということを示すことによって自分の立場を強化できるというのだ。

 例えば、ドライブ中に乗せたヒッチハイカーが突然銃を運転しているあなたに突きつけて金を要求したら、どうすればいいか。正解は、思いっきりアクセルを踏んで電柱に向かって突っ走る。そしてハイカーに銃を捨てるか二人で死ぬかを選べと要求するのだ。すると脅していたはずのヒッチハイカ脅される脅される立場に転落する。

 北朝鮮がよく使う瀬戸際外交はまさにこのパターンなのである。相手に「こいつは何をしでかすかわからない」と思わせたほうが価値なのだ。アメリカのトランプ前大統領も知ってか知らずかこの戦法を未だに使っている。

 そういえば最近は上司の手に負えないそんな若者が増えているようだ。もっとも連中が高尚なゲーム理論を知っているとは思えないが・・・。

                      (写真はichi.pro)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?