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トランプの落日が見えてきた

「この起訴状全文を読んでほしい」
ドナルド・トランプ前米大統領が政府の機密文書を違法に持ち出したとして起訴された事件の捜査を主導したジャック・スミス特別検察官は9日、記者会見でそう米国民に異例の訴えを行なった。
 
彼の厳粛な態度にはトランプが「米国を危険に晒す行為」を行なった事に対する義憤と「犯罪の範囲と深刻さを理解してもらいたい」という検察官としての強い信念が込められていると感じ、さっそく私もフロリダ州マイアミの連邦裁判所に提出された44ページの起訴状全文をじっくりと読んだ。
 
スミスはコソボ紛争での戦争犯罪を裁くオランダ・ハーグ特別法廷の首席検察官で、かつてはニューヨークの米連邦検事として汚職やテロ、金融犯罪などの捜査で凄腕を発揮した熱血漢だ。政治的に無党派だけに彼の発言には重みがあった。
 
前大統領にもそれが伝わったのだろう。起訴状開示後にジョージア州で行なった支持者集会では決まり文句の「俺は無実だ」「魔女狩りだ」に加えてこんな発言もしていた。「これは最後の戦いだ!」やはり内心は脅威を感じているのだ。
 
起訴状の内容は緻密で衝撃的だった。トランプは機密文書の不正保持・隠蔽、司法妨害、虚偽の説明など合わせて37件もの罪状に問われている。なかには米国や他国の核兵器に関する情報や軍事作戦計画、中国やイランに関すると思われる機密性の高い情報、外国要人との会話(北朝鮮の最高指導者金正恩と思われる)も含まれていたという。国家安全保障を脅かす事態だ。
 
しかもそんな機密文書がなんとフロリダのトランプ自宅兼高級リゾートリゾートの仕事部屋のほか、宴会場や浴室、寝室、そしてなんとトイレにまで無造作に積み上げられていたから驚きだ。証拠写真も添付されている。
 
極めつけは大統領を退任した半年後の21年7月の音声記録だ。東部ニュージャージー州にあるゴルフ場のオフィスで作家のインタビューを受けた際に、トランプは国防総省や米軍幹部が作成した文書を見せて「これは本当は見せちゃ行けないけど・・・機密の情報だ。面白いだろう」と自慢している。文書が機密解除されていないことを彼自身が認識していた事を示す「動かぬ証拠」ではないか。
 
罪状はどれも深刻だ。有罪となれば、収監もしくは公職につく資格剥奪の可能性がある。スパイ活動法違反は最長禁固10年、司法妨害は最長20年だ。ただ、大統領職に当てはまるかどうかは専門家の間で意見が分かれている。
 
トランプの度重なる乱暴狼藉に彼を刑務所にぶち込んでほしいと思っている米国民は半数近くいる。だがその一方で、熱狂的にトランプを支持するキリスト教原理主義者や右翼保守層もいるのも分断国家アメリカの現実だ。 彼らはスミス特別検察官の呼びかけなどに聞く耳を持たず、起訴状など読む気はさらさらない。
 
「トランプと支持者の関係はカルトの教祖と信者の関係と同じだ」と心理学者スティーヴン・ハッサンが分析しているくらいだ。
 
米国では起訴や有罪になっても大統領選に立候補できる。CBSニュースによれば、起訴状開示後もトランプが共和党最有力候補者として61%の支持率を保っているとCBSニュースは伝えていた。2位のフロリダ州知事のロン・デサンティス(23%)に大きく水をあけている。なにしろ今回の起訴でトランプの評価が下がったと思う共和党有権者はわずか7%しかいないから。
 
難癖をつけて裁判を送らせるのは訴訟慣れしたトランプの常套手段だ。判決が出るまでには時間がかかるだろう。来年11月の大統領選後になる可能性もある。しかし今回ばかりはスミス特別検察官の起訴状にある「事実」が彼の悪事を証明することにだろう。
 

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