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カリフォルニア州知事リコール騒動の裏にあの黒い影

  長身でハリウッド俳優のようにハンサム。身のこなしも品良く、裕福な知人の支援を受けてビジネスで大成功した後に政界に転身。サンフランシスコで100年ぶりの最年少市長となったといえば、米民主党のプリンスのカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム知事(53歳)です。

 彼は同性婚をいち早く容認したリベラル派の民主党政治家で、新型コロナパンデミック以前は貧困層救済や死刑執行一時停止に汗を流し、コロナ発生後は全米で最も早く外出禁止令を出すなど感染拡大に対応。その手腕は高く評価されてきました。18年の知事選では得票率6割で圧勝し、将来は民主党の大統領候補にも名前が挙がっていたほどです。

 ところがそんな彼に対して14日、リコール(解職)投票が行なわれ全米の注目を集めました。いったいなぜなのでしょうか。その裏にはあの人物の黒い影があったのです。

 きっかけは、昨年11月、外出禁止令を発令した知事自らが家族といっしょにワインで有名なナパにある高級レストランで政治コンサルタントの誕生日を祝って十数人で会食したことが明らかになったことでした。

 コロナ禍にマスクもつけず、ソーシャルディスタンスも無視して白トリュフやキャビアなど1人1200ドル(13万円)の最高級ディナーコースに舌鼓を打っていたというのですから、顰蹙ものです。

 当初、ニューサムは「屋外で妻と一緒に食事をしただけだ」と言い逃れようとしましたが、それがかえって傷口を広げました。

 なにしろその事実をスッパ抜いたのは保守系のフォックスニュースでしたから始末が悪い。待っていましたとばかりに会食現場を目撃したという匿名の女性(たぶんウィエトレス)が撮影した写真と彼女の肉声インタビューまで公開したのです。

 来年の中間選挙で巻き返しを狙っている共和党がこのチャンスを見逃すわけがありません。コロナウイルス感染拡大、ホームレス急増、山火事対策の不備、夫人のスキャンダルなどありとあらゆる「理由」を並べ立て、ニューサム知事追い落としのリコール署名集めを開始しました。トランプ前大統領の政策担当上級顧問だったスティーブン・ミラーも暗躍したといわれています。

 アメリカで最も進歩的とされるカリフォルニア州では1911年に直接民主制が導入されました。特定の利益団体による不公正な利益誘導を阻止するのが目的でした。ところが住民投票に必要な署名数(有権者の12%)が少ないことで同州ではリコール手続きが驚くほど容易になり、特定の利害関係者にしばしば乱用されてきたのです。

 そのため、これまで同州の知事がリコール投票にかけられた回数はなんと合計50回以上。ただし実際に解職が成立したのは2003年のわずか1回だけです。民主党のデービス知事がリコールされ、共和党候補だった俳優のアーノルド・シュワルツネッガーが知事に選ばれたときです。

 どうみても制度に問題がありますね。英国の経済紙『ザ・エコノミスト』は今回の出来事を「カリフォルニアの直接民主主義の狂気」とまで書いています。

 民主党の牙城であるカリフォルニア州知事選で勝ち目のない共和党は今回その制度上の「欠陥」を突いたのです。あらゆる手段を使ってリコール実施に必要とされる150万人を遙か超える171万人以上の署名をかき集めました。これで民主党政権に一泡吹かせようという魂胆です。

 ニューサムが知事を続けるには過半数の信任票が必要でした。ポイントとなるのは、有権者がリコールへの賛否だけでなく、賛成の場合にどの候補者を後任に選ぶかを同時に投票するという制度です。つまり、ニューサムが49%の信任票を獲得したとしてもリコールが成立するため、得票数がその半分にも及ばないような候補でも知事になってしまう可能性があったのです。

 今回の立候補者はなんと46人!当然のことながらほぼ全員が共和党でした。その中で後継者として最有力視されたのは政治経験のないラリー・エルダー(69歳)。熱狂的なトランプ前大統領支持者で、過激な発言で人気の保守系ラジオ番組の司会者です。

 銃規制に反対、ワクチン接種義務化反対、気候変動は「嘘っぱち」だと否定、女性蔑視、LGPTQは「神をも恐れぬ罪悪」、「トランプは神の贈物だ」と公言する人物です。早い話が、トランプの分身のようなデマゴーグ(大衆扇動者)なのです。

 それでも8月の世論調査ではリコールへの賛否が48%対47.5%と拮抗していました。バイデン政権による米軍のアフガン撤退を巡る混乱もニューサム知事にとって逆風となったようです。

 危機感を強めた民主党陣営はテレビの選挙広告に8月だけで3600万ドル(約39億円)を投入。それだけではありません。バイデン大統領やカリフォルニア州出身のハリス副大統領までが急遽応援演説に駆けつけました。トランプ支持の共和党候補が勝利すれば、来年の中間選挙だけでなく2024年の大統領選挙にまで悪影響がおよぶ可能性があるからです。

 投票の結果は反対大多数でリコールは不成立となりました。しかしこれで一件落着とはいきません。なぜなら長引くコロナ禍と全米で最も厳しい行動制限で、ニューサム知事に対する住民の不満は高まる一方だからです。会食スキャンダルで彼のイメージも著しく傷つきました。

 じつは、その背景には傍若無人な言動で米国社会を分断したあの男の姿が亡霊のように見え隠れしたので。その人物とは

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