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アメリカ銃社会に批判の「銃弾」を打ち込んだ男

 「サタデー・ナイト・スペシャル」と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。日本では差し詰めレストランの週末サービスかテレビのバラエティ番組でしょう。

 しかし銃乱射事件が相次ぐ米国では違います。護身用の小型拳銃の俗称なのです。マフィアが土曜日の夜に酒場で酔っ払って喧嘩騒ぎを起こした際に隠し持った小さな口径の安物銃を使ったことからその名前がつきました。別名「ジャックガン(がらくた銃)」。

 とくに60年代の土曜日にはこの種の銃で撃たれた負傷者が続々と病院に担ぎ込まれました。医師たちはこれを「サタデー・ナイト・ラッシュアワー」と呼んだそうです。なんとも物騒な話ですが、銃社会米国ならではの出来事でした。銃規制が厳しい日本に住んでいるととても想像できませんね。

 銃はこの他にも「イーコライザー(equalizer)」とも呼ばれています。強者と弱者を平等にするものという意味です。たしかに銃を使えばか弱い女性でも屈強な男をなんなく倒すことができますから。ディンゼル・ワシントン主演のアクション・スリラー映画(2014年)のタイトルにもなりました。

 「なんてこった、この国の銃暴力はもう疫病だ!国家の汚点だ!」

 そう叫んだのは、今年4月、ホワイトハウスの中庭に集まった記者団に対して政権初の銃規政策を発表したバイデン米大統領でした。

 なにしろ3月にジョージア、コロラド、カリフォルニアの各州で、そして4月にはサウスカロライナ州、テキサス州で銃乱射事件が相次いだからです。複数の女性を含む28人が死亡。人々の怒りと不安の声を連日全国ニュースが伝えられました。

 しかし、その政策の成果は出ていません。新型コロナ蔓延のニュースにばかり目がいっていますが、非営利団体「ガン・バイオレンス・アーカイブ(GVA)」によれば今年に入ってすでに442件(8月19日現在)もの銃乱射事件が発生しています。

 それだけ酷いと国民は全員諸手を挙げて「バイデン頑張れ」となるかと思うとじつはそうならないところが米国での銃規制の難しさです。多くの米国民にとって銃所有権は自由と独立の象徴であるため、厳格な銃規制は政治的リスクが極めて高いのです。

 バイデン政権の規制内容の詳細をみると、ネット上で入手できる部品で製造され追跡が難しい「ゴーストガン(幽霊銃)」の取り締まりや、銃口を安定させる装置の登録義務付けなどが柱。やはり極めて限定的でした。
 しかも、憲法の文言に配慮して規制措置は国民の武器保有の権利を侵害するものではないと大統領は何度も釘を刺していました。

 確かに、合衆国憲法修正第2条には「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、市民が武器を所有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」と銃保有の権利が認められています。

 しかし、本来この条項が認める武器所有は、理不尽な政府に抵抗するための権利としてのみだったのです。それが今ではそんなことはお構いなしでぶっ放すようになってしまいました。推定4億丁の銃が巷に氾濫しています。傍若無人なトランプ大統領が就任した2017年に至っては過去半世紀で最多の4万人近くが銃撃で死亡。思わず「それでは銃を向ける相手が違うだろう!」と叫びたくなります。

 さらに、これまで乱射事件で使われた凶器の多くは「アソルト・ライフル」と呼ばれる連発銃です。狩猟や護身用ではなく明らかな戦闘用武器。そんな物騒な者が簡単に手に入ってしまうのが米国です。

 それでも有力政治家たち、特に保守系の政治家は銃規制には今も極めて消極的です。アメリカ最大のロビー団体である全米ライフル協会(NRA:会員約400万人)からたんまり政治資金をもらっているからです。国民の命より金というわけです。なんだがコロナ感染拡大にもかかわらずオリンピック開催を強行した某国を想起させますね。どこの国も政治家は似たり寄ったりで恥を知らない。

 「銃を持った悪い奴らに対抗するには善人も銃を持てばいい」

 米国銃所持者協会(GOA、会員数30万人)会長で元共和党下院議員ラリー・プラットがテレビ番組でそう話したことを私は今でも覚えています。悪いのは銃ではなくそれを使う人間だという銃規制反対論者の決まり文句です。

 その発言に、ぶち切れた有名人がいます。それは

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