漫画原作応募シナリオ3:本編「俺に惚れるなマイベイベー」第二話
〇週刊誌のページ
『25年間どこにいた?! 伝説のロッカー・鷹矢優一 都内ライブハウスに突如出現!』の記事が載っている。ステージでパフォーマンスするタカヤの写真。隠し撮り的な不鮮明な写真でも伝わるカッコ良さ。
〇テレビのニュース
ライブハウス会場に群衆が殺到している映像。
アナウンサー「鷹矢優一氏が姿を現したというライブハウスには連日、ファンが詰めかけ、営業できない状況が続いているとのことです」
50代コメンテイター「タカヤと言えば、我々世代には神ですからねぇ」
20代コメンテイター「え~、うちらにだってそうですよ~。だって鬼クソカッコいいじゃないですかぁ~」
〇街なか
路上を歩く人たち。至るところでタカヤの話題。
「タカヤって都市伝説じゃなかったのかよ」
「フェイクだろ」
「友達があのライブハウスにいてさ~。興奮していまだに寝込んでる」
「俺いたんだよ! 観たんだよ! 目からビーム出してた!」
「ってか、いま復帰しても普通に無双しそう」
〇ライブハウス兼古着屋『Legend』・店前(夕)
「本日定休」の貼紙。
〇同・店内(夕)
タカヤの姿になった鈴木、つぐみ、天城、イクが、タカヤ出現を報じる週刊誌を見ている。
イクは、鈴木とつぐみの間に無理やり体を割り込ませようとがんばっている。
天城「(読んで)3:25のタイミングで、天城超えを披露し……やけに具体的だな」
つぐみ「この通りだったわよ」
鈴木「あの場にライターがいたのかもな」
天城「しかし、こいつに書かれるとはねぇ」
と、記事の署名を指さす天城。
「渋川甚吾/フリー」という署名。
天城「つぐみさんのことすっぱ抜いて、お前を引退に追い込んだのもこいつだろ」
イメージ・週刊誌のページ
「抱かれたい男ぶっちぎりNo.1 鷹矢優一に同棲相手」の記事。
20代のタカヤとつぐみが、スーパーの袋を持って仲良く並んで歩く姿の隠し撮り写真が載っている。つぐみの顔には目線が入っている。
つぐみ「引退に追い込まれたわけじゃないけどね」
鈴木「ああ、俺が自分で辞めたんだ。気づいたからな。俺の歌は大切な女のためだけにあるって」
イク「きゃっ、そんな」
イク、頬を染めて。
イクM「ああ、アタシはなんて罪作りな女」
つぐみ「イクさん、顔赤いですよ。血圧計ったほうがいいんじゃないですか?」
天城「で、どうすんだ、これから。復帰するなら付き合うぜ」
鈴木「するわけないだろ。目的は果たした。ひばりが男を振ったらしいからな。ああよかった、目を覚ましてくれて」
安堵の涙を流す鈴木。
天城「(つぐみに)目を覚ましたって思ってていいのか? 嫌な予感がするんだが」
つぐみ「実は私もなのよねぇ」
顔を見合わせる天城とつぐみ。
イク「涙に濡れる横顔、なんてセクシィなんだい」
目をハートマークにしているイク。
〇鈴木家・ひばりの部屋(夜)
物憂い表情でベッドに横になり、花占いをしているひばり。
ベッド周りは、占い終わった花弁で埋まっている。
壁一面にタカヤの写真。
ひばり「会える、会えない、会える、会えない」
花弁がなくなる。ひばり、滂沱の涙。
鈴木の声「ひばり~、ご飯だぞぉ」
ひばり「(泣きながら)いらない~」
〇同・同・ドア前(夜)
鈴木、ドアの前に料理のお盆を置く。
鈴木「ここに置いとくぞ。冷めないうちに食べろよ」
〇同・リビング(夜)
相談している鈴木とつぐみ。
つぐみ「もうちょっと、かかりそうね」
鈴木「う~ん。1週間もすれば冷めると思ったんだが。ちょっと目を見て微笑んで、投げキッスしてやっただけだぞ?」
つぐみM「自覚を持てよ」
〇渋川の事務所(夜)
資料が所狭しと積まれ、雑然とした事務所。
1枚の写真を見ている渋川。
ライブハウスから気絶したひばりを背負って出てくるダサい風貌の鈴木と、彼に寄り添うつぐみの隠し撮り写真。
渋川M「この女が倒れた時のタカヤの反応から考えて、彼女とタカヤが、ただならぬ関係にあることは間違いなさそうだが……この貧相なオッサンは誰なんだ?」
と、鈴木の姿を見て首を捻る。
〇音羽商事・オフィス内(朝)
仕事をしている社員たち。
T「音羽商事・総務部」
書類をシュレッダーにかけている鈴木。
いつもの禿カツラと、腹の突き出た中年太りスタイル、ヨレヨレスーツに歪んだネクタイ。瓶底メガネ。
若い社員が話しかける。
社員「タカヤって、部長も世代なんじゃないですか?」
鈴木「ああ、名前くらいは知っているが、私はああいう激しい音楽は、よくわからなくてね」
社員「ですよね~。部長がハードロックとか全くイメージないっす」
鈴木の背後の棚から、ファイルを取ろうとしている社員。手元が狂ってファイルが落ちる。
鈴木、咄嗟に手を伸ばしてファイルを受け止めてやる。羽生結弦のフィニッシュポーズのようにカッコ良くなる。
全員、鈴木に注目。
鈴木M「しまった!」
慌てて猫背でシュレッダーに戻る鈴木。
女性社員たちがヒソヒソ話。
女性社員1「私、疲れてるのかな。さっき一瞬、部長がカッコ良く見えて」
女性社員2「私も」
女性社員3「実は私も」
鈴木の声「助けて~」
鈴木、ネクタイがシュレッダーに巻き込まれ、みっともなくジタバタしている。
女性社員たち「気のせいか」
〇定食屋・外観
庶民的な店構え。
〇同・店内
混んでいる店内。
テレビで、タカヤ復帰のニュース。
テーブル席で天丼を食べている鈴木。
ネクタイが3分の1の長さになっている。
渋川の声「ネクタイ、どうされたんですか?」
顔を上げると、向いでサラリーマン風のスーツを着た渋川が、愛想の良さげな笑顔を浮かべている。ライブハウスに居た時とはうって変わった人畜無害な印象。
鈴木、全く警戒せず。
鈴木「あ、まぁその、恥ずかしながらシュレッダーに巻き込まれまして」
渋川「へぇ。そういうこと本当にあるんですね。あ、相席よろしいですか?」
鈴木「ええ、どうぞどうぞ」
渋川、鈴木の向いに座って料理を注文。テレビに目をやって。
渋川「ここのところ、ずっとこのニュースですねぇ」
鈴木「そうですね」
渋川「僕には、よくわからないんですけどね。そんなに良いんですかねぇ、このタカヤとかいうミュージシャン」
鈴木「あ、実は私もあんまり」
渋川「良かったぁ。なんか、どこ見てもこの人のこと褒めちぎってるから、僕がおかしいのかと思って肩身が狭かったんですよ」
鈴木「ああ、そういうことってありますよね」
渋川「でしょ?(笑う)」
鈴木M「なんか、ホッとするな、この人」
渋川「ロックって言うんですか? あの手の音楽は僕にはちょっとやかましくて怖い感じかしてね」
鈴木「私もです、私もです」
鈴木、渋川にすっかり心を開いた様子。
〇同・店前
名刺交換して別れる鈴木と渋川。
渋川の名刺「サトウ不動産 営業部 山本和夫」。
鈴木M「山本さんか。鈴木優一でいる時の友達が初めてできたかもしれないぞ」
嬉しそうな鈴木。
〇路上
鈴木の名刺を片手に歩く渋川。
渋川M「鈴木優一か。タカヤと接点がありそうなタイプには見えんが……タカヤの話題に無知なことを必要以上にアピールしていたのが気になる。やはり、何かあるのか……」
鈴木の前とはうって変わり、鋭く抜け目なさそうな目付きになっている。
〇鈴木家・バスルーム(夜)
湯舟に浸かっている鈴木(裸なのでタカヤの姿)。
鈴木M「ひばりのやつ、早く元気になるといいが」
つぐみの声「優一さん、大変! ひばりが!」
鈴木「どうした!?」
〇同・ひばりの部屋・ドア前(夜)
手つかずの料理の上に紙が1枚。「タカヤ様にもう一度会えるまで、ご飯を食べません」と書かれている。
つぐみ「まさかハンストなんて……」
鈴木(姿はタカヤ)が裸に腰タオル一枚で駆けてくる。無駄のない筋肉のついた美しい体。
つぐみ「優一さん、そのカッコ」
鈴木「ひばりに何かあったかと、つい」
つぐみ「床が水浸しだわ」
鈴木「すまん」
つぐみ「雑巾とってくる」
去るつぐみ。
鈴木、料理の上の紙を見て愕然とする。
〇同・同・中(夜)
ベッドに憂い顔で横たわっているひばり。
ひばりM「お父さんたちが何か言ってるみたいだけど……トイレ行きたい……しゃーない。行くか」
力なく立ち上がり、ドアに手をかける。
〇同・同・ドア前(夜)
腰タオル1枚の鈴木(姿はタカヤ)が立ち尽くしている。
鈴木「ひばり……」
ドアが開く。
鈴木・ひばり「あ」
ひばりの視界。上裸に濡れ髪でフェロモン最高潮のタカヤの姿。後光が差している。
鼻血を噴出して後ろに倒れるひばり。
鈴木「ひばり!」
駆け寄り、抱き止める鈴木。片膝をついた姿勢でひばりの腰を支え、上から顔を覗き込むような情熱的なポーズになる。
ひばり「(朦朧と)……どうして私の名前を?」
鈴木M「しまった! どうする? ここは一刻も早く立ち去って夢か幻ということに……ん?」
ドア前に、腰に巻いていたはずのタオルが。
鈴木M「あれがあそこにあるということは! 俺は今、絶対に立ち上がるわけにはいかない!」
ひばり「……なんて逞しい体。彫刻みたい……でもどうして裸」
鈴木「あ、いや、こ、これは」
ひばり「私の願いが届いたのですね……タカヤ様……私、あなたのお姿を見た時に……誓ったのです……」
鈴木「な、何を?」
ひばり「……ごめんなさい、タカヤ様。私、清らかな体ではないのです……でも心は純潔です……あなたに捧げます」
ひばり、自分の服のボタンを外していく。
鈴木「やめなさい!」
思わずひばりを離し、立ち上がる鈴木。
ひばり、床に転がって、顔を上げる。
一糸纏わぬ姿で仁王立ちの鈴木。
鈴木M「しまった!」
ひばりの視界。鈴木の股間が神々しい光を放ち、眩しすぎて見えない
ひばり「ああっ!」
ひばり、白目を剥いて昇天
雑巾を持ったつぐみが来る。
つぐみ「どうしたの? 大丈夫?」
鈴木「な、なんとか」
呆然と立ち尽くす鈴木の後ろ姿。
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