漫画原作応募シナリオ3:本編「俺に惚れるなマイベイベー」第三話
〇鈴木家・ひばりの部屋・中(朝)
盛り上がったシーツがもぞもぞと動いている。
ひばりの声「あっ、タカヤ様……そこは……ダメ……あっ……んっ……ああっ」
シーツの中、裸のひばりが目を覚ます。頬が艶々して光沢を放っている。
ひばりM「タカヤ様、どこ? 帰ってしまったの? そんな……夕べはあんなに激しく愛してくれたのに」
ひばりのイメージ・裸で密着し、見つめ合うタカヤとひばり。タカヤ、ひばりの手を握って。
イメージのタカヤ「ひばり、ビーマイベイベー」
説明文「夢です」
ひばり「でも……そうよね。私たちの仲がパパやママや世間に知られたら大変だもの。禁断の恋……スターの女の宿命ね。苦しいけど、私、耐えてみせます、タカヤ様」
両手を合わせて、切なげに宙に祈るひばり。
ベッド周辺に、ブラジャーやパンティ、シャツが脱ぎ散らかされている。
ひばりM「ああ、夕べのめくるめく一夜の残骸が……」
うっとりと頬を染めるひばり。
説明文「自分で脱いだ」
ひばり、ベッドから出て、服を着始める。
着替えながら鏡を見ると、肩口に赤い斑点が一つ。
ひばりM「ああっ、私がタカヤ様のものだという印! タカヤ様ったら意外と嫉妬深いのね」(「印」にキスマークとルビ)
説明文「虫刺され」
ひばりM「タカヤ様、心配しないで! ひばりは身も心もあなたのものです!」
〇同・食卓(朝)
豪華な朝食を食べている鈴木、つぐみ、ひばり。
ひばり「豪勢過ぎじゃない?」
つぐみ「だって、久しぶりにひばりが一緒に食べてくれるんだもの」
鈴木「いやぁ、良かったよ。ひばりが元気になって」
つぐみ「ほんと、何だか頬が艶やかになっちゃって、美人になったんじゃない?」
ひばり「え~、ママったら何言ってんのぉ」
ひばりM「やば。私、そんなに違う? やっぱ本当の愛を知った女って、オーラが変わるのかしら。夕べ男の人と燃えたってこと、バレないよね?」
鈴木とつぐみも、頬が艶々して光沢を放っている。
説明文「夕べ、燃えた」
昨夜の夫婦の寝室。裸に腰タオル姿の鈴木(タカヤの姿)が、落ち込んで蹲っているのを、つぐみが自分の胸に抱いて慰めている。
昨夜の鈴木「ひばりにこの姿を見られてしまうなんて。こんな失敗したことなかったのに……」。
艶々した頬で食事を続ける鈴木とつぐみ。
鈴木、手元が狂って、みそ汁を目玉焼きにぶっかける。
鈴木「あ、やっちゃった」
ひばりM「パパ、朝から安定のダサさだなぁ。タカヤ様と同年代だよね? 同じ生き物とは思えないんですけど」
つぐみの肩口から覗くキスマーク。
ひばり「ママ。肩、虫に刺されてるよ」
つぐみ「あらほんと? 夕べ、暑かったものねぇ(微笑)」
ひばり、食べ終わって。
ひばり「さ、久しぶりに大学行くし、気合入れてメイクしよ」
と、自室に引っ込む。
つぐみ「どうするの、これから」
鈴木「どうもしないさ。タカヤは幻想なんだ。ひばりの前に、まともな男が現れたら自然に忘れてくれるだろう」
つぐみ「まともな男、ね。(悪戯っぽく)その時は、受け入れられるの? 優一さん」
鈴木「うっ……そ、その時は……が、がんばる」
涙を堪える鈴木。
鈴木のイメージ・ウエディングドレス姿のひばりと腕を組むタキシード姿の男。顔は見えない。
つぐみ「どんな人が現れるのかしらねぇ」
拓哉の声「(絶叫)ひばりちゃ~ん!」
鈴木・つぐみ「ん?」
〇同・ドア前(朝)
野球部のような2分刈り頭で、地味な服装の拓哉が立っている。
真面目な表情、直立不動の姿勢で。
拓哉「(叫ぶ)ひばりちゃ~ん! もう来るなって言われたのに来ちゃってごめん! でもやっぱり俺、君を忘れられないんだ!」
〇同・室内・インターフォンのモニター前(朝)
モニターで拓哉の姿を見ている鈴木、つぐみ。
鈴木「あ、こいつ」
つぐみ「あらあら」
出掛ける支度を整えたひばりが来て。
ひばり「何々?」
〇同・ドア前(朝)
拓哉、涙を流して。
拓哉「俺がバカだった。カッコばっかつけてて中身スッカスカで。タカヤさんに本物のロックを見せつけられて目が覚めたんだ! 俺、生まれ変わるよ! 音楽も基礎から勉強し直す!」
拓哉、土下座して。
拓哉「だからもう一度、俺にチャンスをください! お願いします!」
近所の人たちが、何事かと窓から顔を出す。
〇同・室内・インターフォンのモニター前(朝)
モニターで拓哉の姿を見ている鈴木、つぐみ、ひばり。
ひばり「誰この人?」
素でキョトンとしているひばり。
鈴木・ひばりM「……我が娘ながら残酷」
ひばり「なんかわかんないけど、面倒そうだから、裏口から出るね。行ってきます」
と、奥へ去るひばり。
モニターの中、土下座で泣き叫ぶ拓哉の姿。
拓哉「ひばりちゃん! 顔を見せて! 俺の話を聞いて!」
〇同・外観(朝)
家周辺までわかるロングショット。玄関前で土下座して泣き叫んでいる拓哉。
家の反対側の裏口から出て、ヘッドフォンで音楽を聴きながら、スタスタと歩き去っていくひばり。
〇通勤電車・車内(朝)
吊革に捕まってスマホを見ている鈴木。
スマホ画面。『鈴木優一』と『つぐみ』のLINEのやりとり。「『鈴木優一』あいつ、どうなった?/『つぐみ』いなくなった。諦めたみたい」。
鈴木M「なんだ。骨のないやつだな」
急停車で揺れ、近くにいた若い女性が、鈴木のほうに背中からよろけてくる。
鈴木、咄嗟に女性の肩と腰を支えてやる。
女性M「え? この腰と肩を支える手つき! めっちゃ子宮に来るわ!」
効果音「ズキューン」
女性、頬を染め、涎を垂らしそうになりながら。
女性「ありがとうございます。せめてお名前を……」
振り向くと、ダサい鈴木の姿。
女性、無言で鈴木から体を引き、触られた箇所を手で払い、他の車両に移って行く。
鈴木M「ナイスリアクション」
〇駅構内(朝)
急ぐ通勤者たちに鈍臭くぶつかっては邪魔にされ、舌打ちされ、謝りながら進む鈴木。
鈴木「すみません。あ、すみません」
『タカヤカムバック饅頭』の売店に、行列ができている。
鈴木、行列を横目で見て。
鈴木M「カムバックはしないっての」
〇住宅街(夕)
仕事帰りの鈴木が穏やかに微笑みを浮かべて歩いている。
進行方向に鈴木家。
鈴木M「今日も1日、カッコ悪く過ごせて充実してたな」
〇鈴木家・玄関(夕)
入ってくる鈴木。つぐみが出迎える。
鈴木「ただいま」
つぐみ「お帰りなさい。今日はお夕飯、私たちだけよ。ひばりはお友達と飲み会ですって」
〇同・食卓(夕)
夕食を食べようとしている2人。
外から音楽が流れてくる。
鈴木・つぐみ「ん?」
インターフォンモニターを覗くと、アコースティックギターをかき鳴らしている拓哉の姿。
拓哉、真剣な顔で。
拓哉「ひばりちゃ~ん。言葉では伝わらないと思ったので、曲を作ってきました~」
鈴木「はぁ?」
つぐみ「あらあら。諦めたんじゃなかったのね」
拓哉「ギターも基礎からやり直してるんです。下手くそだけど、心を込めて作りました。聞いてください。僕の夢」
ギターを奏で始める拓哉。
鈴木とつぐみ、顔を見合わせて。
つぐみ「食べましょ」
鈴木「そうするか」
食事を始める2人。
拓哉の歌、歌詞が始まる。
拓哉の歌「僕の夢~ 朝は君の手料理~ 夜は君に腕枕~ お出かけする時はいつも君をおんぶ~」
鈴木、箸を進めながら、段々神妙な顔になって。
鈴木M「なんか、こいつ……」
拓哉の歌「一生、君と鬼ごっこして暮らしたい~ でもかくれんぼは嫌だ~ 君が見えなくなっちゃうから~」
鈴木M「前は、似合いもしないのに俺の真似をしていたせいでスッカスカだった。しかしこれがこいつ本来の表現……」
鈴木、箸を置き、瓶底メガネと禿カツラをかなぐり捨てて。
鈴木「魂を揺さぶってくれやがるじゃねぇか、ちくしょおおお!」
タカヤの姿になって滂沱の涙を流す。
つぐみM「他人の歌を聴くセンスは、びっくりするくらい、ないのよねぇ」
〇ライブハウス兼古着屋『Legend』・店内(夕)
電話で話している天城。
天城「了解、すぐ行くわ」
と、ギターを担ぐ。
〇鈴木家・ドア前(夜)
泣きながら弾き語っている拓哉。
拓哉M「ひばりちゃんに届け、この想い」
説明文「その頃のひばり」
友人たちとカラオケボックスで熱唱し、盛り上がっているひばり。モニターに表示された歌。『My baby 作詞・鷹矢優一/作曲・天城義継』。
効果音「ブロロロロ」
拓哉、振り返る。
ハーレーダビッドソンに跨り、ギターを背負った天城がいる。
拓哉「天城さん!?」
天城「しょっぱい音、出してんじゃねぇよ」
拓哉「どうしてこんな所に!?」
天城「呼ばれたんだよ。お前とジャムりたいんだとさ」
タカヤの声「遅かったじゃねぇか、相棒」
拓哉「!?」
鈴木家のドアが開き、完全にライブ仕様の姿にキメたタカヤが出てくる。めちゃくちゃカッコ良い。
拓哉「タタタ、タカヤさん!?」
タカヤ「お前、いいもん持ってるよ」
と、拓哉にチャーミングな笑顔を向ける。
拓哉、鼻血を拭いて後ろに倒れる。天城が支える。
〇公園(深夜)
野外ライブ会場のようにアンプ等が完璧にセッティングされている。泣きながらギターをかき鳴らし、熱唱する拓哉。
天城がツインギター、タカヤがコーラスで盛り立てている。
大観衆が集まり、ウッドストックのような様相になっている。
客1「誰こいつ!?」
客2「なんでタカヤと天城をバックに使ってんの!?」
客3「知らねーけど、タカヤが認めた原石ってやつじゃね?!」
客たち、我先にと、拳をあげて熱狂。
客たちM「下手クソにしか聴こえないけど」「歌詞が全然ピンと来ないけど」「タカヤが認めたならスゴイはず!」
説明文「後に(タカヤ補正で)21世紀最大のヒットメーカーとして日本音楽史に名を刻むことになるシンガーソングライター・TAKUYA誕生の瞬間であった」
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