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世界を旅する少女の話

5年前、一緒に住んでいるシェアメイトが、突然仕事を辞め、(私には突然にしか見えなかった) 「海外に行ったことがないから、1人旅行に行く」と言った。

生まれてはじめて海外に行く、というその少女のメモ書きがリビングにポンと置かれてあって、ちらりと見た時は驚いた。
「持ちもの:パスポート セイロガン タオル」の3つのみ。
本当に大丈夫なのだろうか…とひやひやしながら見守る私の心配をよそに、またたく間にバックパックを持って飛び立って行ってしまった。途中で携帯をなくして連絡ができなかったり、旅の途中で出会った人からフェイスタイムが来たり(電話がなくなったけど元気にやってます!報告)、こちらまでどきどきはらはらする1ヶ月だった。
桜が散る頃に、何もかも新しくなった顔をして、バックパックにはパスポート セイロガン タオル 以外にもたくさんの思い出とか希望を詰め込んで帰ってきたその少女は、「お店をはじめる」と言って、その秋には本当にお店をはじめたのだ。
野菜がおいしくてお酒がすすむ、料理屋さん。

「自分のお店を持つ」という夢は一緒に住む前の学生時代の頃から聞いていて、夢に向かって進んだり止まったりしながら向き合っている姿をずっと見ていたけれど、「お店をする」と言ってからのスピードはまるで早送りのようだった。
もしかしたら旅に出たところからが、お店をはじめるスタート地点だったのかもしれない。

お店の名前は、来てくれる人の「もしも」が叶うなら。という思いにちなんだ「もしも屋」。

彼女らしい、すてきな名前だと思う。
それは改めて振り返った今、本当にみんなの「もしも」が叶う場所に、どんどんなっていってる。
お客さん同士が、ここで出会って新しいことにつながることもたびたびあるし、(仕事、結婚などもそう)。仕事が大変な時も、みんなに会いたい時も、いつでもここに来ておいしいごはんを食べてみんなと笑ってたっぷりお酒をのんだら、「明日からも頑張ろう」といつでも思える、私にとってもみんなにとっても大切な場所「もしも屋」が、今年で5周年。

はじまる前から見てきたそのストーリーは私にとって、何度も繰り返し読みたくなる、お気に入りの物語のように特別なものになっている。毎年1巻ずつ、ストーリーが増えていって、どの巻を読み返しても、感動して涙が出たり、はらはらしたり、少しずつ強くなっていくその少女の1番の読者のような気持ちでそばにいる。

たくさんの出会いと別れを繰り返し、その少女はいつのまにかもう立派な大人の料理人になっていた。

もしも屋の店内には、お店に訪れる作家さんの作品や旅で連れ帰ってきたものが、センスよくディスプレイされている。
流木でできたフクロウや、猫のマリオネット、珊瑚、妖精の守り神、手染めの餃子の旗…などなどこの5年間のあいだにディスプレイがずいぶん増えていて、そんなディスプレイのひとつに私の作ったものもこっそり仲間入りしてもらいたいなぁ。とひそかに思っていたから、5周年のお祝いに、いそいそとくす玉のお飾りを作った。
玉の部分はニットで編んで、垂れ幕はちくちく刺繍。仕上げには折り紙で作った一番星、「フレーベルの星飾り」。
私の中できらりとかがやく一等星の場所、もしも屋さん。

くす玉を引っ張ってもらうことを想像して作りながら何度も笑った。

「おめでとう」よりも、もっとたくさんの「ありがとう」をくす玉にたくし込んで。