ハックルベリー・フィンの冒険

ハックルベリー・フィンの冒険
① この物語の語り手であるハックルベリー・フィンはどんな人物であるか、彼の言動からその人格を分析し、思うところを書いてください。

彼はとても素直で物事の判断を周りの環境に流されず自分でできる人間である。ハックルベリーは「長い間そのことを頭の中で考えに考えたけんど、やっぱりお祈りなんて何の得にもならねえと思った。」「この話はみんな、トム・ソーヤーのうそっぱちだと思った」など、「〜だ。だから〜だと思った」という構文をとてもよく使っている。誰かの考えや言動に対して実際に行動してみた結果を踏まえて自分の意見と理由を明快に伝える癖のようなものが彼には存在しているように思える。自分の考えを率直に伝えるということは英語という言語の特徴でもあるがそれだけではないだろう。ハックルベリーは常にさまざまな疑問を持ち、その判断を下す時に周りから影響を受けることが少ない。生まれ育った環境の常識とは自分に染みついているためそれを否定し逆らうのはとても罪悪感が湧くものだ。だがハックルベリーにはその常識とは別に自身が生まれ持った当時では珍しい考え方も存在していた。彼は逃亡奴隷を助ける選択をしてしまった自分に何度も後悔し本当にこんなことをしてよかったのかと心を悩ましていた。相反する気持ちを抱えながら、彼の本能とも言える、人を偏見や先入観ではなく平等に見ることに従うハックルベリーだからこそ黒人差別がまかり通っていた時代であっても、黒人奴隷であるジムの逃亡の手助けをしたのだろう。なんというかホールデンと違い、人としての弱点が少なくて前回より筆が進まない。あんなに共感できないと思っていたホールデンでさえもやっぱりどこかで共通点を感じていたのかもしれない。自分とかけ離れている存在は、知ろうと思って心の中を覗こうとしてもそもそも覗ける場所がないみたいな感覚で何を考えているのかよく分からないことがとても多いものだ。

② ハックが生きる1830~40年代のアメリカとはどんな国で、時代だったかを取材して記し、それについての思うところを書いてください。

アメリカはイギリス王政から独立し、ジャガイモ飢饉により逃れてきたアイルランド人やドイツ人などの移民がヨーロッパから大量に渡ってきたため19世紀半ばから産業や文明が急速に発達した。アメリカへの移民は今までで最も大きい民族大移動でありその主な行き先であったニューヨークはたった1世紀で人口が7万6000人から330万人に増加した。黒人奴隷制度が廃止されたのは1865年のアメリカ合衆国憲法修正第13条のため、この時代はまだ奴隷制度が一般的だった。アメリカの歴史は全く詳しくなかったのでざっと調べてみると30年代から40年代を含め19世紀は変化の大きな時代だと思った。ハックルベリーの中でキーポイントともなっている黒人奴隷について特に調べた。奴隷の扱いはなんとなくは知っていたけども、調べてみると人権も何もない話やグロい画像がたくさん出てきて改めて奴隷制度の恐ろしさを感じた。やっぱり奴隷制度に対して比較的反対していた南部であっても、このような環境で生まれ育った白人のハックルベリーが黒人奴隷への接し方、扱い方に悩めたのはとてもすごいなと感心する。もし私がこの時代に白人として生まれていたら、ハックルベリーのように黒人奴隷に対してフラットな目線を持てるかと言われると正直自信がない。自分や身近な環境にとっての常識が倫理的で正しいものであるか常に疑問と疑いを持たなければこんなことはできないだろう。

③ 小説「ライ麦」と「ハック」、あるいは主人公「ホールデン」と「ハック」に共通している部分、あるいは全く共通していない部分をあげ、それについて思うところを書いてください

何かで葛藤した時、自分の選択に後悔した時にそれでも前に進もうとするのがハックルベリーで、立ち止まるのがホールデン。ハックルベリーは自分の家族や友人、財産など全てを捨てて自由になろうとする、勇気や好奇心に突き動かされるかつ世渡り上手なタイプであるのに対して、ホールデンは嫌なことから逃れようとしたにも関わらず、それをするだけの勇気や決心が足りず自分の気に障ること全てに反応してしまう生きづらい人間である。ハックルベリーを読み始めてからホールデンのことを考えた時に強く思ったことは、ホールデンが本当にやりたかったことはこのような生き方だったんじゃないか、誰かに対する感情とか心残りみたいなしがらみを放り捨ててどこかへ進んでいける勇気を持っているハックルベリーに憧れていたのではないかということだった。ハックルベリーはホールデンに比べて物事の道理を理解していて、社会にはどうしようもないことがたくさんあるから諦めて別の解決策を探そうとすることができるかなり大人びた人だ。ホールデンはいわゆるチキンだったのだ。ホールデンはそこそこ身分の良い家の子供で、兄弟達と遊ぶことができ学校にも通えていて、家庭が崩壊しているも同然のハックルベリーと比べるととても裕福な暮らしをしている。だからこそ一度手に入れてしまった便利で幸せな生活を自ら手放すほどの決心ができなかったのだろう。一方ハックルベリーは捨てるのが惜しいほど大切なものをそもそも持っていなかったのだ。だからこそ身軽で自分の目指したい場所へ冒険に行けた。逃げ出したかったのに守るべきものがあったから最終的にはどこにも行けなかったホールデンと何も持っていなかったからこそどこまでも冒険に行けるハックルベリーはどちらも幸せと言えるし不幸せとも言えるなと思った。

④ 上巻までのハックの物語のなかで、あなたが特に印象に残ったエピソードを選び、その理由を書いてください。

バックがシェパードソンの仲間に殺されたところがわだかまりのような、何かがつっかえているような気分になって忘れられない。話の中でバックが登場したのもそこまで多くはない。自分は彼についてまだあまり分かっていないレベルの認識にも関わらずこの話が心に一直線でグサッと刺さってきた。バックが殺される話は1ページにも満たないくらいの短さであったのに、いやその短さだったからこそ強く印象に残ったのかもしれない。自分はフィクションにおいて、死ぬ時に読者の心に強く刻まれる印象的なものになることを好む。あわよくば最後くらいは救われて欲しいとも思う。あっさり死んで誰の心にも残らないなんてことはその人物に失礼だと時々思ってしまうのだ。バックは悪態をつきまくって生き残ろうとする生命力を存分にみなぎらせていたがその数行後には追い詰められ仲間とともに撃たれてしまった。この話を読んでいた時、これでもかというほどに「生」を感じさせていた存在がサクッと「死」に変わってしまったそのギャップに呆然としていた。この本では死とは特別な場所に位置しているのではなく、朝起きるように、どこかへ出かけるように日常の延長線上に落とし穴としてぽっかり空いているようだなと感じる。いつどこで死が訪れるか分からない。日常だから誰かの心に残る特別な死に方もしない。残酷なくらいに現実を突きつけてくる、そんな恐ろしさがこの短い文に詰め込まれていてとても印象的だった。

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