幻想の響き

お経が聞こえる。

声は一定のトーンとリズムで、言葉と言葉の区切りとして間を挟んでいる。
お経というのは日本語らしからぬもので、ある種詠唱のようにも感じる。

外の音が遠ざかる。眠気が強いせいもあるのだろうか。

次第にお経は複製されて繰り返され重なっていく。
そして別な音が近づいてきた。あるいはこちらが近づいているのかもしれない。

ふと風を感じ目を開けると、そこには幻想的な極彩色の景色が広がっていた。桃と黄色に咲く花と草木の緑、水は青に輝いている。
穏やかな風に揺られながら、木々や花、果実、水が眩しいほどに爛々とした色を見せる。

歩けることに気がついた。踏んだところからは聞いたこともない音がする。ガラスとも金属とも言えないキラキラした音。天使の鐘に近いだろうか。

ふと、草木以外の気配が無いことに気がついた。
背筋が寒くなる。どこか胸騒ぎがする。
たまに不自然な色の変化をしている。
元々あまりにも鮮やかだった色も不自然だったが、そこから変化した。なぜか不自然な変化だと感じた。

気がつくと色も形も崩壊し始めていた。
草と果実が混ざり、木の幹が草で構成され、果実が幹になり、色は無秩序に混ざっていき、色とは言えなくなった。
モザイクとも丸とも言えない歪さを伴って崩壊する世界。私はそれに飲まれていった。

何か破裂するような音が聞こえた。
お経が再び始まる。
なぜか鼓動は速いままだった。いや、速かったのだろうか。

全てが終わり、外に出た。あのような鮮やかさは無いが、美しい世界だった。
あの世界をどうにかして写したいと思ったが、その時すでに記憶はひどく薄れていた。もう遅かった。

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