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リスティング広告における運用設計の考え方 - Hagakure, Gorin, Mugenについて

リスティング広告、別名、検索連動型広告。GoogleとYahooという二大検索ポータルサイトによって提供され、古くから愛されているデジタル広告の手法です。特定のキーワードで検索をしているユーザーに対して広告を出すという点で、需要が顕在化したユーザーにアプローチできるのが魅力であり、購買に繋がりやすい広告メニューとして人気です。特に、ECや不動産・金融など、既に市場が大きく需要が顕在化している(ニーズがはっきりしている)業界では大きな武器となり、最優先で取り組むべき広告メニューであるという認識がある企業も多いでしょう。

本稿においては、そんなリスティング広告の設計を、特にGoogleを意識してまとめておきたいと思います。

Google Adsにおける最適解の考え方

現代におけるリスティング広告の最適解は、「いかに機械学習の最適化を促進させるか」です。どれだけGoogle広告内のアルゴリズムを活用し、機械学習を最速で促進していくことができるか。これがweb広告の効果改善に向けて最も重要な変数になります。これは、ディスプレイ広告であろうと動画広告であろうと、リスティング広告であろうと全く同じです。

リスティング広告はもともと、手動で運用する変数がかなり多い媒体でした。リスティング広告というのは、キャンペーン・広告セット・クリエイティブの順に設計されていますが、そもそも広告セットにあたる部分が非常に多い。「どのようなキーワードで検索されたときに広告を表示するか」という点を手動で設定する必要がありました。マットレスの会社であれば「マットレス」「ベッド」などのキーワードに加えて、「不眠症」「腰痛」など、様々なキーワードをターゲットに追加する可能性があるでしょう。どのキーワードをターゲットに加えるか?これはマーケティング担当者の永遠の課題でありました。

現代においてもこの問題は解決していませんが、機械学習という強い味方がつきました。部分一致やフレーズ一致など「類似のキーワードを拡張して配信しますよ」という設定が増えてきており、かつては手動ですべて設定しなければならなかった入札金額に関しても、自動で最適化を進めてくれるようになってきています。かつては0から考える必要のあったキーワードリストも、キーワードプランナーの成長によってある程度負担が軽減されてきています。ホームページを読み込んだら推奨のキーワードが表示されたりもします。これらは、一昔前では考えられなかった進化でした。

つまり、一昔前では人力でキーワード選定や入札単価の調整を行っていたものに、機械学習という強い味方が現れたのです。いわば、人間とGoogleの二人三脚で広告を運用しましょう、といった感じになってきたのです。つまり、広告運用者による細かな監督+機械学習の促進という2軸。これがリスティング広告を成功させるための秘訣です。

優秀なリスティング運用者とは

上に述べた通り、Googleの機械学習の進化は進み続けています。ホームページを読み込んだり、簡単なキーワードをキーワードプランナーに入力すればすぐに推奨のキーワードが表示されるようになってきました。けれども、あくまでキーワードを選定するのは人間です。

先ほどのマットレス会社の例をもう一度。「マットレス」や「ベッド」「低反発」といったキーワードを設定すべきなのは誰でもわかります。また、自社の名前や、競合の名前をキーワードに追加しようと思う方もいらっしゃるでしょう。けれども実際、購買に繋がるキーワードはまだまだ存在します。「不眠症」や「腰痛」といったキーワードは、Googleのキーワードプランナーで出てくるでしょうか?関連検索が多い場合は出てきますが、出てこない場合もあります。こういった、顧客のインサイトを考えてキーワードを考えられるマーケターがいれば、リスティング広告の運用は安泰です。

またリスティング広告は、クリエイティブの変数が少ない媒体でもあります。動画広告などと違い、クリエイティブは検索結果の文字情報だけです。まずはシンプルな文字情報でプロダクトの価値を伝え、クリックしてもらわなくてはなりません。この点において、自社のプロダクトの価値を端的に伝えられるスキルも必要になります。

即ち、顧客のインサイトを掘り下げて適切なキーワードを選定でき、かつ自社のプロダクトの価値・魅力を端的に文字情報で伝えられる人間が、優秀なリスティング広告運用者であると言えるでしょう。


Googleリスティング広告におけるベストプラクティス

ここでは、Googleリスティング広告の機械学習の促進と言うところにスポットを当てます。果たして、Googleの検索型広告におけるベストプラクティスとは何なのかという問題です。

結論から話すと、散々繰り返している「機械学習の促進」が鍵になります。細かく言えば、機械学習の促進のためにGoogleの推奨設計を守ってリーチの拡大と効果改善を両立していく、という手法がベストプラクティスになるわけです。では、具体的にどのようにGoogleの推奨設計を守っていくのかを解説していきます。

リスティング広告のアカウント設計においては、Googleの推奨する「Hagakure構造」という構造の考え方があります。Hagakure構造とは、アカウント構造を単純化、広告グループを可能な限り集約した構造を指します。簡単に言うと、なるべくシンプルに設計しましょうという考え方です。

旧時代のキャンペーン設計「1広告グループ、1キーワード」

リスティング広告運用の歴史を紐解いていくと、Hagakure構造の考え方が出現する以前は、キャンペーンや広告セットが広く広がってしまう設計が主流でした。あらゆるキーワードとキャンペーンを手動で設定している影響から、キーワード・広告セット・キャンペーンを細かく分け、それぞれに細かく手動で入札単価を設定する設計が運用の主流だったのです。1キーワードに1広告グループを設定するアカウントが主流で、「1広告グループ、1キーワード」と呼ばれていた設計でした。

この旧設計の利点は多く二つ。まず第一に入札単価の調整が行いやすいこと。キーワードごとに広告グループが存在するため、広告グループごとの調整で単価を可視化・調整しやすかったのです。もう一点は、運用のレバレッジが大きいこと。キーワードごと・広告グループごとの掛け合わせパターンが多いため、問題が起きた際に問題の起きている部分だけを調整することが可能でした。やれることが膨大だったという点では、メリットでもデメリットでもあったでしょう。

そして、この旧設計の難点は二つ。一つは上に挙げた「やれることが膨大すぎる」ことです。1広告グループ、1キーワードの設計では、そもそも設定する広告グループとキーワードが膨大な数に膨れ上がってしまい、運用において手動で行う作業が増え、改善施策を行うのに時間がかかりすぎてしまいます。日々の単価調整で一日が終わるということも珍しくありません。確認・改善すべきポイントが多く、作業に追われてしまい運用者が疲弊してしまうことが、最大の難点です。リスティング広告はこのため長らく、運用にかなりの工数がかかる媒体でありました。※現在でも、リスティング広告等と比べて運用工数は大きい媒体であると言えるでしょう。

この旧設計のもう一つの難点は、インプレッションが分散してしまうことです。細かな調整が行えるメリットはありましたが、それはすなわち、キーワードごとに細かくインプレッションを分散させているからです。機械学習が出現した現代において、この欠点は致命的です。インプレッションが分散することで一つのキーワードにあたるインプレッションが減少し、結果として機械学習のスピードの低下を招きます。手動で全て入札単価を設定できれば良いのですが、全てを手動で最適な単価で設定できるわけもなく、ほとんどの場合、機械学習を促進し自動で最適な入札単価を設定してもらうほうがうまくいくケースが多いでしょう。この点において、現代において「1広告グループ、1キーワード」設計は時代遅れの設計であると言わざるを得ません。


Hagakure構造の出現

そのため、現代においては、Hagakure構造が設計の主流になっています。キャンペーン・広告グループ数をなるべく減らして、インプレッションを集約させるという考え方がベースになっています。

なぜこの考え方が主流になってきたのか。今までの手動運用で細かく単価を調整する運用よりも、入札単価に関してはデータをうまく溜めて機械学習に任せましょう、というのがGoogleのスタンスだからですね。機械学習のアルゴリズムに任せるためにはデータをなるべく集める必要があって、そうなってくるとキャンペーンが分散していると良くない。結果、シンプルな設計でインプレッションを集約させましょうというHagakure構造が推奨されるようになってきたのです。

また、Hagakure構造はGoogleの推奨する考え方ではありますが、Yahooのリスティング広告においても有効です。Yahooにおいても基本的にシンプルなアカウント構造が推奨されています。理由も同様。

多くの場合、手動でリスティング広告を運用している会社のほとんどが、キャンペーン数の増大に悩まされています。担当者がキャンペーンを追加するたびに新しいキャンペーン・広告グループ・キーワードが追加されていて、結果としてキャンペーンが多すぎて管理が煩雑になってしまっているケースが多く見受けられます。リスティング広告の改善を行う場合に、まず第一歩としてやるべきことは、現在のアカウント設計を見直して、統合をすることです。この作業は非常に重たいので、経験者がいない場合は外部のパートナーの頼るのもお勧めです。一度キャンペーンを統合してしまえば、その後は機械学習が加速しやすい体制を作ることができます。また、予算配分やキーワード管理も楽になるため、運用フェーズに移行することがスムーズに行えます。

ただし、Hagakure構造にも欠点はあります。Hagakure構造は基本的に自動入札を想定しているため、キーワードの設定次第では不要なキーワードにどんどんインプレッションが寄ってしまうという現象が起こります。特に、「クリック率は高いけれど成約に繋がらない」というキーワードには注意ですね。部分一致などで不要なキーワードにインプレッションが寄ってしまうリスクがあるため、今まで以上にキーワードの管理に目を光らせていくことの重要性が高まっていきます。ただ、この作業は以前の設計でも行うべきことですので、結果としてやることは同じになるのかもしれません。


Googleの推奨する運用指針であるGorinとMugen

Hagakure構造はリスティング広告の設計の基本となる考え方です。そしてその次に運用指針となるGorinとMugenという考え方があります。Googleのリスティング広告における改善のステップは大きく三つに分かれており、まずHagakure構造によって設計を正しくすること、その後GorinとMugenの考え方に基づいて運用を行っていくことになります。

Gorinとは、Googleの推奨する運用指針の一つです。Googleは2016年頃からGorinを推奨しており、その考え方は「ユーザーが求めた情報を正しく、最適なタイミングで届けること」を目的としています。

Mugenは2019年頃からGoogleの推奨している運用指針の一つであり、「コンバージョンの最大化」「CPAの改善」を前提としながら、いかにインプレッションの拡大を目指していくのか、という改善に重点を置いています。

いずれもHagakure構造をベースとしており、GorinをベースにしてMugenという考え方に進化していったのです。GorinとMugenという運用指針を理解することで、Googleの推奨する細かなキャンペーン設計を行うことができるようになります。


Gorinの特徴

Gorinが重要視しているのは「機械学習の最大化」であり「最適なコンテンツの露出」です。Hagakure構造をベースとしながら、より具体的な運用指針を示しています。配信における個別の最適化を重視した考え方であるともいえます。

Gorinは、Google広告を運用する上でのフレームワークを提案しています。

①アカウント構造を単純化し、広告グループに情報を集約化する

②リーチを最大化させて、機会の最大化と情報の蓄積を行う

③ユーザーニーズとタイミングに合わせたターゲティングを行う

④広告フォーマットの面を大きくして多くの情報を載せ、上位掲載を目指す

⑤ビジネスのステージに応じた評価指標 (KPI) を採用して、その評価指標に沿った最適化を実施する(効果測定の重視)

上記のフレームワークを活用することで、インプレッションを最大化し、運用の自動化を進めていこうという考え方がGorinです。具体的には、Hagakure構造を設計し、自動入札を活用し、コンバージョン数を集約させることで、広告効果を高めようという運用指針です。まとめると、Gorinという考え方は、いかに機械学習を加速させるか、という点に重点を置いた運用指針なわけです。

Mugenの特徴

Gorinの運用指針をベースとしてGoogleが2019年頃に新たな指針として推奨を進めているのがMugenという考え方です。これは、Gorinの考え方をベースにしながら、よりリーチを広げていくことを重視した考え方になります。Gorinが「最適化」を重視した考え方とするなら、Mugenは「最適化をしながら、リーチを拡大する」という風に進化した運用指針であると言えます。機械学習の最適化に加えて、配信対象ユーザーを拡大することで、成果を最大化させようという考え方です。

具体的には、動的検索広告やレスポンシブ検索広告といった露出枠の増大に加えて、アトリビューションやマイクロコンバージョンの活用といったデータの活用も要素として挙げられます。今までの検索結果クリエイティブだけではなく、新たなクリエイティブ枠を活用することでリーチを増大させるという考え方に加えて、コンバージョンに至る中間経路を評価することで、より精緻なコンバージョン評価を行い、データの精密性を向上させていく、という考え方です。

特に動的検索広告の導入が推奨されています。動的検索広告とは特定のウェブサイトを指定すると、そのウェブサイトのコンテンツに基づいて広告の表示対象となる検索語句が自動で設定される広告です。また、検索語句に対して関連性の高い広告見出しも自動生成されます。クリエイティブはレスポンシブな形になり、今までの固定の文言から、複数の文言を自動的に組み合わせる形に変化していきました。通常の広告よりも見出しや説明文を多く設定することができ、Googleは機械学習によって最適な組み合わせを配信の中で見つけていきます。

Mugenの考え方に基づいてGoogleの管理画面も進化を続けてきました。動的検索広告・レスポンシブ広告文の導入、中間コンバージョンの評価やアトリビューション設計の詳細化など、ここ数年の中で細かな進化が続いています。


リスティング広告を改善するための3段階

ここまでをまとめると、Google検索における改善施策というものは3つの段階に分かれることがわかります。

1)Hagakure構造に基づいた設計にできているか

2)Gorinの考え方に基づき、機械学習を最適化できる体制か

3)Mugenの考え方に基づき、リーチの最大化を目指せているか

リスティング広告の改善にあたっては、自社の課題がどのフェーズにあるのかを理解することが重要です。そもそも新規に設計する場合や、設計がHagakure構造になっていない場合は、アカウント全体の設計からはじめましょう。煩雑なキャンペーンと広告グループでの管理は辞めて、なるべく1キャンペーン、1広告グループの中に、最適なキーワードとクリエイティブを入れることがスタートです。

続いて、Gorinの考え方に基づき、自動入札の設定や広告グループ単位での予算の最適化、除外設定などの設定を進めましょう。インプレッションをなるべく集約し、広告効果が安定するための基盤となる運用体制を構築するのです。

そして最後に、Mugenの考え方に基づき、インプレッションを最大化させる施策を検討します。動的検索広告の導入・レスポンシブ検索広告の導入による配置の増加、およびコンバージョン設定の最適設定を進めて、リーチを拡大しながら活用できるデータを増やしていきます。サイトリンクの追加といった細かなGoogleの推奨設定も、管理画面から設定していきます。

これらの設定が終われば、Googleの推奨するアカウント設計は完了です。その後は、「いかにキーワードを最適なものにできるか」「いかに成果の高いクリエイティブ(広告文)を設定できているか」といった定性的な運用フェーズに入っていきます。


リスティング広告の性質を考える

多くのクライアントがリスティング広告に対して頭を悩ませているのが、広告のボリュームの問題です。リスティング広告が最も効果が良い媒体であるにも関わらず、想定予算を消化しきることができず、ボリュームを上げきれずにやむなく他の媒体にも広告を配信しているクライアントは多く存在します。

そもそもリスティング広告というものは顕在層に対してアプローチをかける広告媒体であり、配信量以前に、検索量が母数になってしまう媒体です。つまり、その商品や市場が検索されていなければ、そもそも広告は露出されません。この性質によって、リスティング広告は「既存の大きな市場を狙う」場合は非常に有利な媒体です。ある意味で、広告ボリュームが市場規模に比例する、と言っても良いでしょう。例えば不動産や金融といった既存の大きな市場に新規参入する場合は、リスティング広告は大きな武器となります。反面、まだ市場の存在していない新規事業を検討する場合、リスティング広告は大きな武器にはなりえないかもしれません。iPadが登場する以前には、「iPad」や「タブレット端末」といった検索は発生しえないのです。

現代において検索量の想定を立てるのは簡単です。Googleはキーワードプランナーで既存の検索量をざっくり公開していますので、市場での検索量を調べることはできます。そのうえで、リスティング広告で狙うべき検索市場がどれぐらいのボリュームなのか、予算はどれぐらいはけそうなのか、という試算を立てることもできます。市場の量を超える範囲で広告を出稿することはできません。リスティング広告は無限に在庫がある広告媒体ではないということも、頭に留めておくべき事実なのかもしれません。

ただ、ボリューム不足に悩む多くのクライアントに対しては、Hagakure, Gorin, Mugenの考え方に基づき、施策を適切に入れることである程度ボリュームの拡大を見込むことはできます。検索量に対する自社の配信ボリュームを増やしていけば良いのです。そうなると最終的には、「キーワード設定」や「広告文とLPのCTR, CVR」が重要な変数になってきます。

これまでのHagakure, Gorin, Mugenの考え方は、そもそものボリュームをきちんと担保できるか、その上で最適に配信ができるかという変数に関わってくる部分です。しかし、これらの考え方を正しく設定し、インプレッションを最大化できたとしても、コンバージョン率が悪ければ全て台無しです。コンバージョン率を高めていく最大の変数は「キーワード設定」「広告文のCTR, CVR」そして何より「LPのCVR」です。リスティング広告の効果を高めるために重要な変数はやはり、プロダクトの魅力を適切に伝えられているのか、という点なんですね。

その際にはやはり自社商品の理解の深度や、ユーザーニーズの適切な把握が重要になってきます。マーケティングの本質は人に届けることであって、そのための自社・市場・顧客の理解の深度が重要になります。そういったマーケターが正しく広告を設定できるための武器として、Hagakure, Gorin, Mugenの考え方があります。運用指針も顧客理解も、どちらも欠けてはならないものです。そして、運用指針は外注することができますが、顧客理解は自社が行うべきことでしょう。リスティング広告の効果を最大化させたいと考えた時に重要になるのは、リスティング広告を理解することと、自社・市場・顧客を再度理解することなのかもしれません。


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