新型コロナウイルスに寄せて 総支部副代表 志茂嘉樹

 平成8年当時、区内の保健所は世田谷以外に梅丘、砧、玉川、烏山保健相談所と5地域にあり、その他に衛生部という行政組織もありました。私は旧世田谷保健所保健予防課に感染症の担当として勤務していました。
 HIV、O-157、エボラ出血熱などの新種の感染症が蔓延し、21世紀は新型感染症との闘いの時代との認識は公衆衛生の常識でした。
 折しも世田谷区では平成9年に地域保健福祉推進条令が施行され5地域の保健福祉センターと1保健所に改編され、高齢者社会を支える保健と福祉のサービスを一体的に提供する体制の整備が進みました。これはのちの介護保険制度、医療福祉の構造改革、在宅サービスの拡充を見据えたものでした。
 しかし一方で、世田谷に保健所を一つに統合というのは、国や都による公務員の削減や社会保障や医療費の抑制を掲げた新自由主義からの要請により進められた側面もあり、行政責任がどうあるべきかを問い直す必要があります。
 10年前にもSARS,MARSなどのコロナウイルスによる新型インフルエンザの流行に厚労省に寄せられた保健所機能の強化とPCR検査体制の拡充の専門家の提言を政府は無視し続けたことが今回の新型コロナウイルスの感染拡大につながったことは否めません。
 大きな社会構造の変化は感染症のパンデミックにより一気に進むことは天然痘、ペスト、スペイン風邪など歴史も証明しています。
 PCR検査体制の充実、病院、保健所、医療従事者に対する支援強化とともに命をつなぐ生活保障の徹底。新型コロナの世界的蔓延は、格差と貧困を拡大した新自由主義から、命と暮らしを守る社会民主主義への政策転換を図ることを暗示しているように思えてなりません。
(せたがや新報 第143号(2020年6月25日発行)より)

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