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スラムダンク映画:あの場面に映る深津一成は意図的なのか、という話。

※思いっきり映画のネタバレしてますので、気になる方は見ないでくださいね。

映画「THE FIRST SLAM DUNK」を繰り返し観続けていると、山王工業のほうに興味が移行していく、という現象について前回述べた。

かくいう私もすっかり山王贔屓になり、映画鑑賞を続けている。
この現象に付随して、映画を観るたびに胸が痛くなるシーンがあるので、そのことについても書いておきたい。

試合終盤、山王工業のPG・深津が宮城リョータのボールをスティールし、身体に当ててボールが外に逃げる。
このままボールがコート外に出れば山王ボール。
それを阻止するために三井が必死で追いかけるが、そこに桜木花道の「どけミッチー!!」という声が響き、花道が必死で追いついた際に本部席らしきところの机に思いっきり突っ込んでしまう。
花道が背中を痛めるシーンだ。


その後、花道が立ち上がると、どこからともなく体育館の観客席から「がんばれ湘北!!」という声が聴こえ、やがてその声援が体育館全体を包んでいく。
試合の流れとともに、観客の気持ちも徐々に湘北へと移っていくのが分かる。


リョータはその声援を信じられない、といった顔で聴いているのだが、このシーンで、画面の一角に小さく、深津の顔が映るのだ。湘北メンバーだけを見ていると気づかないのだが、ちょっと口を開けて声援を聴いているような表情の深津が確かに映る。

私はいつも、このシーンを見ると涙が出てしまう。

深津は「王者・山王」こと山王工業バスケ部を率いるキャプテンだ。
だが、決してその地位に胡坐をかいていたわけではない。

おそらくだが、湘北よりも厳しく辛い練習をしているだろうし、100人いると言われている部員をまとめることも、赤木の比ではないだろう。日本中のガードの心をへし折るほどの実力を維持するためには、血のにじむような努力をしているに違いない。

また、3年間「無敗」という実績がプレッシャーとなっていたことも、想像に難くない。

決して、「楽をして今の座を得ているわけではない」のだ。おそらく、湘北の何倍も、何十倍もの覚悟を持ってこのコートに立っている。

だが一般の観客は「強い山王」を観に来ているのであり、その牙城が崩れようとしたら、簡単にてのひらを返してしまう。ジャイアントキリングを願い始め、ノーマークだった湘北のほうに肩入れ始める。勝手なものだが、これは勝負の世界ではままあることだろう。

今まで自分たちを応援していた人たちが、一斉に敵を応援し始めた時の深津の気持ちを思うと、とてもつらい。

深津だけでなく、おそらく山王工業のメンバーたちも同じ気持ちでいるんだろう。
大勢いる部員の中でのメンバー争いもし烈に違いないし、その中で(合宿を脱走するほどに)厳しい練習を積み重ね、強いチーム、勝つチームをつくりあげてきたのだ。それなのに。

原作を読み直してみると、この「観客の声援が湘北に傾き始めたシーン」に、山王工業の選手の描写はいっさいない。
それなのに映画で、画面の一角に深津一成のちょっと呆然としたような表情が映るのは、制作側の意図としてプラスされたものでは、と思う。

※余談ですが、このように「原作にはないのに映画であえてプラスされたり、修正されたシーン」というのが、すごく意味を持っている気がしています。
例えば試合後ロッカールームへ引き上げるときの松本がタオルをかぶっている姿。
流川をのせてしまったことに対する、さんずいトリオ(深津・川田・沢北)のセリフの修正、すなわち「お前らがあの2人を抑えるかどーかにかかっている」(深津)のセリフが「俺らがあの2人を抑えられるかどーかにかかっている。」(河田)に変わったこと。
どういう意図があるのか、聞いてみたいなあ。


山王工業を応援し始めると、映画「THE FIRST SLAM DUNK」は「何度観ても山王が1点差で負ける」という辛い経験を重ねなければならないという苦行に変わる。
だが、「動く山王工業」を体感するためには映画を観るしかないのだから、やはり何度も通ってしまう。そして、山王工業が勝つ場面はおそらく、一生観ることができない。つくづく救われない。

せめてあのシーン、心の中で「深津!!私はずっと山王を応援してるから!そういう人が、たくさんいるんだよ!」と叫ばずにはいられない。



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