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科学雑誌を素人が読む[035]

 昨日の夕方に『サイエンス』 2020-07-24号が届く。今朝はその冊子を片手に駅前のコーヒーショップに赴き、コーヒーを飲みつつ読み始める。なかほどに約11ページにも及ぶ長めの論文が掲載されている。『サイエンス』にしてはめずらしいことだ。図版も多く含まれており、なんとなく重要そうなことが書かれている匂いがする。タイトルは「薬物不活性成分の生物学的標的に対する活性(The activities of drug inactive ingredients on biological targets)」というもの。〈不活性〉なものの〈活性〉? なにか禅問答的である。論文要旨をざっと読んでみる。背景をまとめてみるとこんな感じになるだろうか。医薬品には賦形剤(ふけいざい;excipients)という不活性成分が通常含まれている→賦形剤は動物実験で試験されて安全性がクリアされている→では分子レベルではどうか? ➣今回の論文では、多数の賦形剤と多数の分子標的(酵素分子とか受容体分子とか?)の組合せについて、その活性を系統的に調べてみた結果がまとめられているようだ。で、結論はどうなったか? 論文要旨から一文を引いてみる:

「ほとんどの賦形剤は不活性と言えるが、承認された賦形剤の一部は、生理学的に関連する標的を直接調節する可能性がある。」(Although most excipients deserve their status as inert, many approved excipients may directly modulate physiologically relevant targets.)

 Q氏が考えるに、つまるところ「〈不活性〉を謳っている賦形剤は実際は(分子レベルでみれば)不活性ではなかったよ」ということらしい。➣そしてどのような賦形剤を検討したのか知りたくなる。論文の冒頭にいろいろ挙げてある。ありがたい(訳文には区別しやすいように番号を付してみた):

「賦形剤の例には、[1]錠剤のAPI(原薬=医薬品有効成分)を安定化させる分子(ラクトース、ペクチン、キサンタンガムなど)、[2]保存期間を長くする酸化防止剤(胆汁酸プロピルなど)、[3]腸内でAPIを可溶化させる洗浄剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、[4]染料(FD&CイエローNo.5(タートラジン)、D&CレッドNo.28(フロキシンB)、FD&CブルーNo.1(ブリリアントブルーFCF)など)(患者や薬剤師がより識別しやすいように医薬品に色をつけるもの)などがある。」(Examples of excipients are molecules such as lactose, pectin, and xanthan gum, which stabilize the API in pill form; antioxidants such as propyl gallate that improve shelf life; detergents such as sodium lauryl sulfate that solubilize the API in the gut; and dyes such as FD&C Yellow No. 5 (tartrazine), D&C Red No. 28 (Phloxine B), and FD&C Blue No. 1 (Brilliant Blue FCF) that color medicines so that they can be better distinguished by patients and pharmacists.)

 シャンプーなどのボトルの背面に印字されている成分の名前がチラホラうかがえる。おそらく食品に含まれるものもあるだろう。ふと思ったのは、複数の賦形剤が集まったときになにか相乗作用のようなものが働かないのかな? ということ。たとえばAという賦形剤を含む医薬品と、Bという賦形剤を含む医薬品をたまたま同時期に摂取・使用した場合、使用者の身体の中で何か起こらないのかな? とかそういうこと。いろいろ興味がわいてきた。詳しく読み込んでいきたい。■

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