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科学雑誌を素人が読む[059]

 『サイエンス』2020-06-26号の冊子をめくっていたら、エディターズ・チョイスで興味深い論文を紹介する〈RESEARCH〉のページに、南極のペンギンたちにデータロガーを取り付けてバイオロギング(bio-logging)の手法でその行動を調べた研究の論文が紹介されているのを見かける。論文も公開されているので、ダウンロードして(読めるところだけ)拾い読みしてみる。➣今回、体に装置が取り付けられたアデリーペンギンは175羽! 装置の内訳は、❶小型のGPS、❷加速度記録計、❸ビデオカメラの3つ。論文には、研究で得られた結論がいろいろ書かれているけれども、Q氏が興味を抱くのはむしろ、ペンギンに装着したそれらの装置によって直接的に捉えられる行動の側面とはそもそもどのようなものなのか?ということ。素人なりにあれこれ考えてみた:

❶GPSでわかることは何か?
・各個体のそのときどきの位置(氷上 or 水中)がわかるはず
・巣からの移動距離がわかるか?
・水中についてはその深さもわかるか?
・海に飛び込むときは巣から遠いか近いかがわかったりするか?

❷加速度記録計からわかることは何か?
・個体の移動モードの変化:静止 or 歩行 or 遊泳がわかるはず
・歩行・遊泳の速度が変わる瞬間がわかるはず
・餌を発見して or 敵に遭遇して、動きの速度を変えたことがわかるか?
・1日の運動量がわかるか?
・息つぎで海面に上がってくるパターンがわかったりするか?

❸ビデオカメラ映像からわかることは何か?
・餌の種類がわかるか?
・餌を狙って口にできる成功率がわかるか?
・他の個体とのコミュニケーションの状況がわかるか?
・今まで知られていなかった行動が写りこんでいたりしないか?

 ペンギン個体の行動と、外部環境の条件(例えば気象状況)に関するデータを統合することで、ペンギンの詳細な行動パターンも浮かび上がってくるのだろう。たとえばどのような天気のときに行動を何時ころ開始するとか。➣ほかにも、装置の装着時に各個体の雌雄や推定年齢や体重などを研究者が記録しているはずだから、そうしたデータを組み合わせることで、ペンギン個体の属性と特徴的な行動との関係も見えてきたりするのかもしれない。例えば幼鳥は活発だが、成鳥はのんびりしているとか。➣さらには、175羽も調べれば、種の全体としての行動の傾向みたいなものは明らかになってくると考えられるが、その一方で「外れ値」を示す個体はいなかったのか大いに気になるところ。たぶん科学論文には書かれないようなことだろうけれども、きっといるはずだ。興味深い。■


 バイオロギングまわりの本は探してみると何冊も刊行されている:
●『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ ハイテク海洋動物学への招待』 佐藤克文(光文社新書2007)
●『バイオロギング 最新科学で解明する動物生態学』 日本バイオロギング研究会=編(京都通信社2009)
●『バイオロギング〈2〉 動物たちの知られざる世界を探る』 日本バイオロギング研究会=編(京都通信社2016)
●『バイオロギング 「ペンギン目線」の動物行動学』(成山堂書店2012)/内藤靖彦+佐藤克文+高橋晃周+渡辺佑基
●『ペンギンが教えてくれた 物理のはなし』 渡辺佑基(河出文庫2020)



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