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科学雑誌を素人が読む[067]

 『サイエンス』2019-07-19号を読み返していたら、さまざまな科学誌の最新面白論文を短く紹介するページに掲載された、白っぽいカラス(のような)鳥の写真に目が留まる。キャプションには「ソデグロガラス」(Ethiopian bushcrow)とある。➣興味深いのは、この鳥が生息するのが、エチオピアの一部の地域に限定されるということ。①雑食性であり、②競合種は存在しないと目されていて、かつ③長距離飛行が可能と推定されているにもかかわらず、生息域を広げないのはなぜか? という疑問の答えを探した論文のようだ。➣どのような研究法がとられているかというと、こんな1文が原著論文の要旨に書かれている:

環境ニッチモデルと、温度関連行動の野外観察を用いて、ソデグロガラスの〈限定的生息域〉と〈行動性体温調節〉を、大きさや生態は似ているが、より高温の環境を含む、はるかに広い生息域を有する2種の同地域に生息する対照種と比較した。(Using environmental niche models and field observations of thermally mediated behaviour, we compare the range restriction and behavioural thermoregulation of the Ethiopian Bush‐crow with those of two sympatric control species that are similar in size and ecology, but have much larger ranges that include hotter environments.)

 なるほど、同じ地域を飛び回る別の鳥(ここでは2種のムクドリ)と行動を比べることで、ソデグロガラスに固有の性質を推定しようというわけか。➣そして結論は、ソデグロガラスが暑さに弱いということが、生息域が限定されることの第一の理由ではないかということ。こんな1文がある:

ソデグロガラスは、ムクドリが〈パンティング行動〉を示す気温よりもかなり低い温度で〈パンティング行動〉を示し、木陰に移動して、餌の摂取量は温度の上昇とともに急激に減少した。(Bush‐crows exhibited panting behaviour and moved into the shade of trees at significantly lower ambient temperatures than did the starlings, and their food intake declined more steeply with increasing temperature.)

 「パンティング行動」というのは初めて聞く言葉だけれど、論文中には「くちばしを開き、のどを振わせる」(open bill and/or gular fluttering)と説明されている。昔飼っていたセキセイインコが夏になるとたまに口を開けてハアハアして、舌が見えるような顔をすることがあった。アレかとQ氏は合点する。この研究では、ソデグロガラスの厚さへの反応の代理指標として「パンティング行動」が使われていることになる。➣ソデグロガラスはちょっと気温が上がるだけで活動が鈍る→餌を食べることも少なくなる→ゆえに生息域を広げられない(というか狭められてきた)というロジックが立つようだ。■

原著論文はここから読むことができる。

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