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I♡NYロゴ ストーリー -I Love NY Logo Story-

ニューヨークの空港を降り立つと、必ず目に入ってくる「I♡NY」ロゴ。地域を象徴するデザインで右に出るものは無いと思うほど有名な「I♡NY」ロゴは、グラフィックデザイン界の巨匠ミルトン・グレーザー氏が、自分が生まれ育ったニューヨークの為に、プロボノ(自分の職能を、ボランティアとして社会に提供すること)でデザインしました。

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ミルトン・グレーザー氏が、どんなきっかけでロゴを手掛け、しかもプロボノで「I♡NY」デザインするに至ったか、その経緯を説明する文献は存在していません。私のような、日本の美大を卒業してから英国大学院へデザイン留学し、長くグラフィックデザイン界に身を置くデザイナーでも、「I♡NY」ロゴがどれだけニューヨークの街そのものに大きく貢献したかという事実を、ソーシャルデザインを研究し始めた2015年頃まで、全く知らずにいました。

今回は、そんな文献にも残っていない「I♡NY」ロゴの秘密をお伝えします。講義動画は2本立てで、1本目は「I♡NY」ロゴが生まれた経緯と、2度もニューヨークを救った(1970年代と、2000年同時多発テロ事件)背景を解説した動画、2本目は2017年に実現したミルトン・グレーザー氏ご本人へのインタビュー映像です。私が知り得る「I♡NY」ロゴの全てを、お伝えします。

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インタビューに応じてくれたミルトン・グレーザー氏は、当時88歳でしたが、マンハッタンのど真ん中に広く素敵なスタジオを構え、秘書とデザイナー達を率いながら、信じられないほど元気に活躍していました。人生100年時代における、デザイナーのロールモデルの様な存在!という印象が強く残っています。

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ミルトン・グレーザー氏のインタビュー映像後半では、「あなたの考える、デザイナーの役割とは何でしょうか?」という質問に、「デザイナーの役割とは "良い市民であること"」と答えてくれています。デザインの役割が社会で広がっていく昨今、プロのデザイナーであろうとなかろうと、デザインする者が美意識と道徳観を持ち、社会との繋がりを考えながら行動することを願い、発せられた言葉ではなかろうかと、信じて止みません。また彼の年齢を考えると、インタビュー全体を通して感じられた思考のクリアさも驚きでした。デザイナーとしての「在り方」を、「良い市民であること」と一言ですぐに言い表すインテリジェンス。1時間も満たないスタジオ訪問でしたが、この出会いと体験は、私のデザイナー人生において指針になり続けることと思います。

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講義動画を収録した直後の2020年6月29日、ミルトン・グレーザー氏の訃報がニュースで世界中に流れました。

奇しくも訃報の1ヶ月前に、私はミルトン・グレーザー氏のインタビュー映像を一般公開する同意を得るため、彼のスタジオへ連絡を取っていました。インタビューを行って3年間は教育現場のみで映像を使用していましたが、コロナの影響で教育現場がオンラインになった事を契機に、公開映像にしてデザイン学生だけでなく、より多くの方に知って頂く機会にしたいと相談していました。ミルトン・グレーザー・スタジオから返ってきた回答は、こちらです。

"Milton agreed to grant you his time for the interview, so you are welcome to use it in whatever context you deem appropriate."
ミルトンは、インタビューのための時間を提供する事に同意しているので、どのように映像を使用しても、あなたが適切と判断した文脈であれば、歓迎します。

秘書を通したメール返答にも、ミルトン・グレーザー氏の慈愛の哲学が滲み出ています。「I♡NY」ロゴも、きっと同じ哲学でデザインされたのだと思うと、それに少しでも触れる事ができたこれらの機会は本当に貴重でした。2本の動画を通して、「ミルトン・グレーザー」というデザイナーの在り方を、是非ご堪能ください。

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▼ 動画1本目|「I♡NY」ロゴストーリー

▼ 動画2本目|ミルトン・グレーザー氏のインタビュー動画

【参照コーナー】
I♡NYロゴとミルトン・グレーザー氏に関する情報は、こちらにまとめています。

英語のみになりますが、I♡NYロゴを語った映像は、他にもいくつか存在します。


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