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江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.10

2030 年までにSDGs17 の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。
 
<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳


江戸の町には「修理・再生の循環型社会システムが構築されていた」と紹介したのは、このコラムのvol.01。その中で取り上げたのは「家具」、「刃物」、「履物」、「傘」、「古紙」の修理・お手入れ・リサイクルについてでした。しかし、江戸時代ではこれら以外にもほとんどすべての物が、実は修理可能なつくりになっていたのです。読者の皆さんに紹介したい事例は尽きませんが、今回は「焼き継ぎ」、「金(きん)継ぎ」にスポットを当てて紹介します。
「焼き継ぎ」というのは、陶磁器類の補修法の一種で、鉛やガラスからつくった接着剤で破片を元の場所にくっ付け、加熱することで接着させるものです。「焼き継ぎ屋」と呼ばれる修理屋が定期的に町を巡回し、手ごろな価格ながら高い技術を奮っていました。安価で利用できる「焼き継ぎ屋」は江戸の人々の生活に深く根付いており、茶碗や皿が割れたり欠けたりしても、捨てずに修理・再生させることが常識でした。幼い子どもが自分の不注意で割ってしまった皿を、親に見つからないように捨てようとするのを近所の大人が見かけ、「焼き継ぎ屋」で直してあげるから捨ててはいけないよと諭したという話もありました。
新品同様とまではいかなくても、修理すれば新しい物を買うよりもずっと安い費用で寿命を延ばすことができ、「新しい皿が売れなくなった」といわれるほど「焼き継ぎ」による修理・再生は普及していたようです。しかし、明治時代以降に工業化が進み陶磁器が安い価格で売られるようになったことから、「焼き継ぎ」の文化は衰退しました。
一方で「金継ぎ」は漆で接着した継ぎ目に金粉などをふるう技法で、江戸時代以前に茶道具の修復などで始まり、宝飾品や工芸品として現代に至るまで受け継がれています。「金継ぎ」は日本独特の伝統技法であり、ここ数年来海外からも高い評価を受け、国内外に向けた体験教室やイベントも増えています。
「焼き継ぎ」と「金継ぎ」、材料と技法の違いこそあれ両者には節約とより美しいものに再生することへの美学があり、「継ぐ」という手法も興味深く、現代における物の修理・再生への一助となるのではないでしょうか。

「金継ぎ」を楽しむ
 
一説には室町時代に誕生したといわれる「金継ぎ」は、江戸時代においては、特に茶道具や美術品の修復で活躍しました。陶磁器や美術品は、「金継ぎ」を施されることで、その価値が高まったのです。
現代にも「金継ぎ」は工芸品・伝統技法として継承されています。さらに現代風金継ぎ(簡易金継ぎ)として、だれでも自分で「金継ぎ」ができる、とっても身近な技術にもなってきています。インターネットで検索すれば、「金継ぎ」のやり方、画像付きの解説、初心者におすすめのキットなど、たくさんの情報を目にすることができます。「金継ぎ」の“物を大切にする”“壊れた物に新しい息を吹き込む”というコンセプトは、江戸時代から変わっていません。
最近では伝統的な本漆の代わりにパテや新漆を使い、かぶれの心配もなく短時間で仕上げられる商品も増えています。自分で「金継ぎ」できるキットが、様々なタイプで選べるほどあるのですから、あとはきっかけがあれば、ですね。愛着がある器が壊れてしまった時などは「補修」ではなく、その器にアレンジを加える感覚で、アップサイクルの第一歩を踏みだしてはいかがでしょうか。
また、「金継ぎ」はサステナビリティアクションの一つとして環境省も注目しています。環境省が主催するグッドライフアワードの受賞者に「一般財団法人 日本金継ぎ協会」が選ばれ、その取り組みや実績がホームページに掲載されています。とある飲食店では、1つの店舗で年間約420枚の皿(およそ0.17トン)を廃棄していましたが、金継ぎによるリユース・リデュースに取り組んだ結果、廃棄量が80%減少したそうです。協会はこのモデルケースをより多くの飲食企業へと広げる活動をしています(※1)。
 
※1「グッドライフアワード受賞者紹介第10回グッドライフアワード取組概要」
(https://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/goodlifeaward/winner10/zikkou03-about.html)を加工して作成

「呼び継ぎ」を楽しむ
 
「金継ぎ」は、陶磁器が割れたり欠けたりした箇所を漆と金を使って修復する、伝統的な技法です。金は最後の仕上げに装飾として使用し、金でなく銀を使えば「銀(ぎん)継ぎ」といい、金属を使わずに漆だけで仕上げるのであれば「漆(うるし)継ぎ」や「共(とも)継ぎ」といいます。また、別の器の破片をうまく組み合わせてつなげることを「呼(よ)び継ぎ」といいます。陶磁器を割ってしまって、その破片が見当たらない時や、別の破片がたまたま合致した時など、ぜひ「呼び継ぎ」にチャレンジしてみてください。パッチワークのように様々な模様や色が交差した一点物として楽しめるはずです。日頃から破片をストックしておくのもサステナブルなアクションの一つかもしれません。

「継ぐ」は陶磁器以外でも
 
前回vol.09で、江戸時代の庶民が持つ着物は数が少なく、「継ぎ」当てもしながら再利用していたことを紹介しました。陶磁器が衣服に変わっても、「継ぐ」という手法とそのコンセプトは同じです。「継ぐ」ことは、身の回りにある様々な物で活用できる、汎用性が高い技術です。
例えば、穴が開いてしまった靴下。機能性が高く、素材も良質で、わりと高い価格で購入した靴下でも、着用時に強い力が加わる指先やかかとだけ穴が開いてしまって、「それ以外は全く問題ないのにもったいないな」と感じた経験はありませんか。インターネットなどで、靴下の補修方法を検索してみると絵柄が入った補修シールを当てたり、わざと生地とは違う色の縫い糸にしてみたりと、様々なアイデアが閲覧できます。また「継ぐ」という観点から、少し上級者向けの提案になりますが、「ダーニング」という補修方法があり、針と糸を使って直せます。穴に対して縦糸を張り、横糸を織り込んでいくような技法で、糸の色次第でほぼ目立たない仕上がりにもできます。
ジーンズのような分厚い衣服ではどうでしょう。こちらも裂け目のサイズに合わせてアップリケを貼り、作業着やガーデニング用としてアップサイクルするのもいいですよね。さらに思い切って他の箇所にダメージを与えてみて、本来のジーンズのデザインを変えてしまうのも面白いかもしれません。裂けた部分を「継ぐ」方法としては、ほぐれた糸や足し糸を生地の状態に整えて接着芯をアイロンで貼りつけ、ミシンや手縫いで補修し、裂け目を目立たなくすることができます。


<イラスト・画像素材>
PIXTA
 
江戸時代で人気を博して普及した「焼き継ぎ」は、前段で述べた通り近代化による影響で衰退しました。新しい物が手軽に入手できることになったので「継ぐ」ことをやめて捨てることにしたのでしょう。
わたしたちは、「物」を利用する側の責任として、製品を適切に使用し、環境への影響を最小限にする捨て方を選ぶことが大切です。捨てる前に「継ぐ」ことができないかと考え、実行できれば再生率が増えて循環型社会の実現に近づけるはずです。できることから少しずつ始めてはいかがでしょうか。
もちろん周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。
 
※本来、割れたお皿の補修に使う言葉は「接ぐ」と表すこともあります。今回は「焼き継ぎ」や「金継ぎ」について書いたため「継ぐ」という言葉を用い表しました。

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