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月がきれいですね。撮るという「君が好き」

好きという言葉が無くなった世界で、人々は大切な何かが、どれくらい大切か表現するために体を張って表現する。ある人は無謀に海に飛び込み、ある人は踊りで表現し、ある人は本を書き、ある人は絵を描く、そしてある人は写真に撮る。好きという気持ちは可愛くてバカな事なのかも知れない。そんなバカな行動に共感する事が好き同士なのかも知れない。好きなんて言葉が無くても好きは通じ合えるのかも知れない。

シナリオ1

月がきれいですね。

撮るという「君が好き」

待ち合わせのカフェに5分遅れて彼女が現れる。

彼女「ごめん、ちょっぴり遅れちゃった。ごめんね」

彼「あ、髪型変えたんだ?」

彼女「イイでしょ?昔からの友達が美容師になったんだけど、昔から私の事知っているから、私の雰囲気っていうかキャラっていうか、なんか魅力最大にしてくれるの」

なんて言ってるが実は彼氏の部屋に何冊もあるモデルの真似だ。友達の美容師も存在しない。照れ臭いから嘘を言って誤魔化しているのだ。

そんな会話をしながら彼は彼女の写真を撮っている。撮った写真を画面で確認しながら幸せそうな顔。

彼「昔から、君のこと知ってるんだ?なんか俺の知らない君を知ってる奴がいてさ、そいつが君を綺麗にしてくれたなんて、なんだか嫉妬しちゃうよ。美容師か〜、なんか独立とかしちゃったりするんだろ?なんかカッコいいな。それに、その髪型海外で人気のモデルみたいだ。その美容師、すげえセンスいいな」

カメラマン志望の苦学生は、突然の恋のライバル?に動揺しつつ写真を撮り続ける。

彼女「昔からの友達で、なかなかのイケメンなんだけど、なぜか彼女いないんだよね、、、高校生の頃、告白されたけどタイプじゃないからゴメンなさいしたんだ。」

そんな事実は無いが彼をヤキモチさせたいらしい。

彼「へ〜、そ〜なんだ。そんな色々あった昔からの友達が君を綺麗にしてくれたんだ。ますます嫉妬しちゃうよ」

彼は心底、心配する、美容師のアイツは彼女への恋心を表現するため美容師になったんだ、、そして彼女を最大に綺麗にする事がアイツの愛の表現なんじゃ無いか?なんか俺と違ってシッカリしていて悔しいぞ。そして今日の彼女はいつもより可愛くて素敵だ。カメラの液晶を見ながら複雑な彼。

彼女「写真なんていいから、もっと私の話を聞いてよ」

彼女は彼の嫉妬心をしめしめと思いニヤリ笑い。

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その日以来、彼は昼も夜もバイト三昧。道路工事、写真スタジオ、テレビ局のロケハン、部屋に帰ると技術書や写真集を研究する。彼女に会う時間すら無い。そうまでして彼は何をしようとしているのか?ベッドで眠りにつく直前まで写真の勉強本を見ている。窓から差し込む月の明かりが彼を照らす。

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数日後、カフェで女友達と会話する彼女

彼女「なんか私の彼って、いっつもカメラ持っていて、やたらと写真ばっかり撮るの。カメラマン志望だから仕方無いけど、撮られる方も緊張するっつーの」

女友達「へ〜、どんな写真撮られてるか見せてよ」興味本位で見た彼女の携帯に送られていた写真。写真の中の彼女は輝いていた。

女友達「なんかさ、この写真エモい!すっごくエモい!彼の気持ちが伝わってくるっていうか、私もこんな風に素敵に撮ってくれる彼が欲しいな」

彼氏の写真を褒められて、ちょっとだけ嬉しくなった次の瞬間

女友達「こんなエモい写真連発する男だったら、案外モテると思うよ」「君のこと撮らせてくれないか?って言われたら、デート的に行っちゃう女子多いと思うな」「貧乏って知ったらカメラの一つや二つ、レンズっていうの?なんか買ってあげたくなっちゃうかも」

普段はイマイチな風貌の彼の事を小馬鹿にする女友達が、彼の撮った写真を見た瞬間なんだか恋する乙女の雰囲気になってる、、。彼女は、ちょっと不安になる。

思い出せば彼女が彼と付き合うキッカケも写真だった。「月が綺麗ですね。」そう言って、月を眺めていた私を、いきなり写真に撮ったのだ。あまりにも突然の事だったのと、彼の写真に写された自分が輝いていた事を思い出す。「今、送りますね」と言ってエアドロップされた写真。その写真は携帯のロック画面にしている程お気に入り。家に帰って、「今日、突然カメラマンに写真撮られたの」ってなんだか嬉しくて照れ臭くて母に写真を見せたら「いい写真ね。なんだかアンタじゃ無いみたい」って言われた。彼は、いつも私の知らない私の魅力を写してくれてた。

もしかして浮気?どこかで私の知らない誰かを撮っていて、私みたいに、その子は恋に落ちてたりすのか?色々疑う気持ちが芽生える。不安になって来た彼の部屋、合鍵を使って中に入ると誰もいない。窓から差し込む月の光に照らされた写真集を見ながら、写真集の中のモデルに嫉妬する。

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そして数週間後。待ち合わせのカフェ。

彼「実は俺、念願の100万超えのカメラ、ライカ買っちゃったんだ」

彼女「そんな物買うためにバイト漬け?旅行に連れていくとか、プレゼント買うとか他に色々、お金の使い道ってあるでしょ!私とも会ってくれなくて、どれだけ私が寂しかったか考えた?」

彼「あの美容師の影響で、君は、どんどん綺麗になっていく」「俺と美容師なら俺負けてるじゃん。それが心配で、俺もいきなり頑張ったんだよ」「一刻も早く綺麗な君を最高の技術と最高のカメラで写真に残したいんだ」「君を最高に綺麗に撮れるのは俺でありたいんだ」「君と過ごす時間が俺には宝物なんだ。そんな大切な瞬間を写真にしたいんだ」「もしも君にフラれて全ての物を失っても君の写真があればいい!そんな人生なんだ」「他人からしたら価値が無いかも知れない、でも俺には君の写真が宝物なんだ」「君こそが俺の宝物なんだ」

彼女「何意味のわからない事言ってるの?カメラだって、前の古いのでいいじゃん。そんな高いカメラ必要ないよ」「第一、美容師の話なんて嘘だし!私はアンタのために綺麗になるように努力しているの!アンタが他の子に浮気しないように綺麗になりたいの!アンタが、こっそり夢中になってるモデルの女の子の真似して頑張ってるの!」

彼「いやいや、モデルに夢中なんじゃなくて君を素敵に撮るために勉強していた本だよ。第一、俺は前のロングヘアの方が君に似合ってると思うんだ」

彼女「アンタ、バカじゃないの!私、あのモデルの真似してショートヘアにしたのに!」

彼「ああ、俺は最高にバカだ。でも、君だってバカだ!」「俺は君に夢中だ。今だって、これからも夢中だ」

ほとんど意味不明な喧嘩はお互いの気持ちを近づける。

なんのための涙かわからないが泣きじゃくる二人。

彼「さぁ、笑ってよ、俺に最高の写真撮らせてくれよ」

彼女「じゃあ、もうちょっと行った所にある素敵な壁の前で撮って」

二人「あの写真集の中の壁みたいなトコ」

マスターがカウンターでコーヒーカップを磨きながら呟く「きっと今夜も」「月が綺麗ですね」




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