【開催レポート】eSPORTSを学び、eSPORTSに学ぶ。
分科会「eSPORTSを学び、eSPORTSに学ぶ。」を
eSPORTSチームRush Gamingのオーナーである西谷麗氏、高校生の大会を共催している毎日新聞社でeSPORTS担当をされている田邊真以子氏、スポーツコーチングJapanの理事でもある株式会社スポコン代表取締役の石渡圭輔氏が登壇しました。
近年、注目が集まっているeSPORTS。海外では大規模な大会が開催され、昨年日本でも統括団体ができ、アジア大会でデモンストレーション競技として実施され、存在感の高まるeSPORTSについて、これからのスポーツについて語っていただきました。
リアルスポーツがeSPORTSから学ぶポイント
西谷さんの経営されているチームがやっている世界大会のプロモーションビデオを放映していただきました。また、このプロモーションビデオで出てくるのはCOD(Call of Duty)というタイトルのゲームで、スポーツで言うとサッカーや野球といった種目分けになります。
西谷:CODをRush Gamingはこれを主に扱っています。私たちは映像の制作、プロモーションを含め、基本的に全て自分たちのチームで行なっています。Rush Gamingは、eSPORTSのチーム経営をしながら、「一つ一つの試合・ゲームにすべてをかける」という背中を見せることで、若い層に夢や希望を与えたいという思いからはじめました。わたしたちのチームですと、1種目1タイトルで行なっています。そのゲームが5人で行うゲームなのでプレイヤーが5名に加え、Rush Gamingの所属としてストリーマーという役割がいます。ストリーマーというのはYouTubeなどに配信をする役割を担っている人のことで、その人たちを含め8名が所属しています。事業内容としては、選手・プレイヤーの育成、映像・写真などの加工、編集などのクリエイティブ制作をしていますが、経営の売り上げの半分以上がアパレルになっています。タオルやキーホルダーなどといったグッズよりもアパレルが大きな収入源です。選手やスタッフをモデルとしてアパレルの展開をしています。目標は世界で通用するチームを作りつつ、プレイヤーとしてだけではなく、人間としても世界で活躍できることを目指しています。
石渡:先程のPR動画の作成能力に加え、アパレルでの収益など、eSPORTSからリアルスポーツが学ぶべきポイントも多くありますね。
田邊:毎日新聞の田邊と申します。私は去年の4月に経営企画室新規事業グループというところに移動になりまして、そこで新規事業として立ち上げたのが、全国高校eスポーツ選手権という全国の高校生を対象としたeスポーツの大会を立ち上げました。
(全国eスポーツ選手権:https://www.ajhs-esports.jp/ )
私は、チームのみんなで喜びを分かち合う瞬間が好きでこの大会を一生懸命進めています。毎日新聞が応援する理由は、新聞社は長い歴史の中で数々のスポーツを取り上げてきました。一方で、漫画、アニメ、アイドルなど、今の日本が大事にしているカルチャーに距離を置いている気がしていて、それらのカルチャーを認めていないようで、このままだと若者に新聞が支持されないのは当たり前だと感じました。私自身スポーツ一家で生まれ、あまり得意としていなかったゲームを知るために、興味を持ったのがeSPORTSでした。歴史と伝統を築きながら、新しい価値を発信し、世の中を動かしていくことが、毎日新聞社のミッションであることを考えまして、今の若者たちに人気のあるeSPORTSを応援しています。また、若者の人気の文化の中でeSPORTSを選んだのは、大人がゲームの悪いところに目を向けがちであるためで、いい部分もたくさんあるので、そういったところを新聞社として発信したいと考えeSPORTSを応援しています。
石渡:eSPORTSにおいてはティーチング(指導)がない状況で、その中で当事者が主体的に行動し、アクションを起こしているのは非常に魅力的ですね。
(会場の参加者でゲームをやっている方⇨まばらな挙手、その中でCODやっている方が意外と多い。)
登壇者二人は元々体育会的なバックグラウンドがありますよね。
西谷:そうなんです。私の父が中高が柔道部で、その後数学の先生やりつつ合気道の先生になっていて、文武両道を掲げていました。そういったスポーツに触れることの多い家庭環境で育ちました。自分も三段持っています。
田邊:父が大学で陸上の監督をやっています。家でもスポーツの話題が多かったが、親族で集まった際にいとことeスポーツの話になり、熱く語ってくれました。自分の知らないことを聞かされ、高校生のいとこがたくましく見えたのと、世代交代のような感覚がありました。若者のカルチャーを応援したい思いが大きくなり、会社にeSPORTSの提案をしました。
西谷:いとこに拍手です!(笑)
石渡:田邊さん自身も大学の時に新聞部だったそうですね。
田邊:大学時代は新聞部でスポーツを取り上げていました。スポーツオタクですと言ったら、西谷さんにスポーツはオタクじゃないって怒られました。(笑)
西谷:学校(スクールカースト)でいうと、かなり上の方じゃないですか、スポーツやってる人って。(笑)
eSPORTSに求めるものとは
石渡:eSPORTSの市場規模とかってどんな感じですか?
西谷:現状だと60億円、今年やっと200億円くらいになるかなと言われていて、1企業くらいの大きさのものです。まだまだ始まったばかりで、eSPORTSの大会などが脚光を浴び始めたのは去年くらいからなので、まだまだこれからだと思います。
田邊:今はゲーム会社のゲームを売るためのプロモーションとしてイベントを開催することが多い傾向にあります。いま自社タイトルの大会がメインとなっていて、去年ようやく純粋な大会が出てきました。これからは、いろんな業界に参入してもらいたいと考えています。
石渡:ソフトゲーム大国であるはずの日本と、現状のeSPORTS主流であるPCゲームのズレみたいなのはどう感じますか?
田邊:海外は8,9割PCゲーマーがいるのに対して、日本だとPCゲーマーは1、2割程度しかいません。世界では逆になっています。そこは課題であると感じていて、世界大会に出てお金を稼ぐためにはそこに取り組まないといけないと思っています。
西谷:世界で戦える状態にならないと、日本でも定着してこないと考えています。日本の現状だと、世界で戦えないと日本で食べていくことが困難。世界と戦っていかないといけない、しかし世界とはだいぶ差がある。ということが、どのプラットフォーム、ゲームにおいても重要な課題だと思います。
石渡:さらに細かく聞いていきたいと思います。日本の若者がeSPORTSに何を求めているのか?
田邊:全国eスポーツ選手権の参加者の9割がパソコン部、プログラミング系の部活所属でした。過去のイメージのパソコン部とは違って、現在はかなり活動的になっています。元々プログラミング大会などはあったものの少なく、もう少しポップでみんなが参加できる大会があるとよかったという声がありました。そんな流れで今回の大会に参加してくれました。
また、最近ではIT系部活の勢力は拡大してきているなと感じています。現代の若者にプログラマーやゲームクリエーターなどを目指す人も増えてきていると思います。
最近見かけるのは、体育会系なのにプログラミングスキルがある子がいます。
西谷・石渡:最強ですねそれ。
田邊:SNSの自己紹介でも、プログラミングが一種のステータスになってきていて、みんなが思うゲームオタクよりも先進的な感じがしました。
西谷:海外のeSPORTSゲーマーはめちゃ筋トレをするんですよ。メンタルもすごい消費しますし。リアルスポーツでも身体を鍛えないとメンタルも身につかない部分ってあると思います。
石渡:そうですね。子どもたちの習いごとや授業などでもプログラミングが入ってきているところを考えると、時代にもマッチしてきていると感じますね。
田邊:大会にはスポーツ名門仙台育英高校のパソコン部から4チーム、計30名の生徒が出てくれました。最近、情報コースというのが増えてきていて、仙台育英高校は学校としてもパソコン部が大会で結果を出すことで、名前を売ることに繋げたいという思いもあったみたいです。生徒を集める手段として、スポーツだけでなく情報の分野でも拡大してきています。
ゲームで食べていくということとは
西谷:RushGaming、(サッカーで言うとクラブチーム)のメンバーは自分たちをプロとは言わないようにしています。またプロゲーマーと名乗ることを許可していません。現状は、プロとまで呼べるような存在はいないという認識で、eSPORTSが職業として成り立つ仕組みがまだありません。しかしながら、一人だけプロと呼んでいますが、その人は年収1,000万くらい稼いでいるんですよね。個人で稼いでいます。YouTube、Twitchなどを使って、考え方、ゲームプレイなどを配信して、自分のメディアを作りあげられていて、自分のジャンルをじぶんでしっかり売り込める状態を作れるんですよ。そういったことが、アパレルを売ることや、グッズを売ることへと繋がっていきます。このようにして、自分売り込んで収入を得ています。eSPORTSで生計を立てている人のほとんどが個人としての稼ぎが多い傾向にあると思います。
石渡:リアルスポーツだと、プロスポーツチームと契約して、その契約金をもらうということがあり、それ以外に大物になれば個人スポンサーがついたりします。eSPORTSはこのような仕組みが整っていないがゆえに、個人で稼いで行かなければならないという違いがありますね。プロゲーマーは自分が商品であるので、自分の商品力を高めていくということが必要になってくると思います。
西谷:まさに、その通りです。特にゲームタイトルの流行り廃りが激しいので、数年後どのタイトルがどうなっているか分かりません。仮に儲かる仕組みがあったとしても、それに頼らない自己ブランディング等が必要だと思います。
多様性の実現
石渡:全国高校eスポーツ選手権を経て、新たに80チームくらいチームができたということで、それだけ若者に支持されるようになった理由があると思うのですが、それはどのようなものだと思いますか。
田邊:ITに興味がある子が多いことと、YouTubeなどを通して世界におけるeスポーツに憧れているということがあると思います。そういう世界の情勢を知ることができる環境も理由の1 つがと思います。毎日新聞としても今まではチラシを作って配るというアナログな方法で告知をしていたのですが、今回はTwitterのみで拡散という手段をとりました。ゲームとTwitterの相性が良いという証明にもなりました。
石渡:まずこの企画を社内で通したということにすごさを感じました。
西谷:YouTubeの力もすごいなと感じています。Rush Gamingのファンは中高大学生になっていまして、その年代はテレビよりYouTubeの影響がすごく大きいなと感じでいます。YouTubeで、eSPORTSのかっこいい選手が多く投稿されていて、そのかっこよさに惹かれてeSPORTSの世界に入ってくることが多いのではないかと思っています。
石渡:メディアを通じてかっこよさを感じて、スポーツをやり始めるというのはリアルスポーツも一緒ですけど、YouTubeというより近いメディアということは今の時代っぽくて興味深いですね。それに加えて、アメリカではeSPORTS頑張れば大学にも行けるという仕組みも、発展する理由なんだなと感じて面白いです。
田邊:アメリカは多様性を認める国ならではですよね。
西谷:多様性ということは、今の時代での重要なキーワードですよね。
石渡:スポーツの現場で、多様性を無視して対応してしまうと、その選手がスポーツから離れていってしまうなどの結果を招いたりしてしまうので、非常に難しいです。
田邊:今回の選手権でも、車椅子の選手や知的障害者の選手も出場していました。様々な選手が出場ができる環境を作るといったことは、今後の非常に重要なテーマになってくると思います。
石渡:オンラインなので物理的な距離の壁や、LGBTといった性別などの壁などを超えやすいのも、大きな魅力ですね。
独自の文化を築く
西谷:ビジネス的類似点でいうと、光と影の差の大きさなどは近い気がします。稼げる、稼げないの部分のところで、近い実力でもちょっとした差で大きく別れてしまいます。結局はマーケティングやブランディングなどで明暗が分かれるあたりは似てると思います。みんなが成功するわけでもなく、失敗することももちろんあります。セカンドキャリアと言われていまして、選手生命って短いものでして、そのあとに繋がる何かを現役中に見つけておかないといけないのは、リアルスポーツもeSPORTSも同じかもしれないですね。
ITスキルに高校から目を向けるきっかけを毎日新聞社に感謝してます。
田邊:私は、eスポーツって運動部と文化部どっちですか問題に直面しました。
スポーツかどうかなどは関係なくて、同じ目標に向かって仲間とともに努力するということはスポーツとの違いはないと思います。
石渡:なぜ分けなければいけないのかって話にもなりますよね。
田邊:この1年、2年の毎日が勝負だと思います。個人的にはアメフトのスーパーボウルのような形を目指したいと思っています。スーパーボウルはオリンピックには出ていませんが、オリンピックを超えるくらいのコンテンツで、かっこいいものなので、eSPORTSもスポーツ界に染まろうとせずに、自分たちのかっこよさを追求できるコンテンツになることができればと思います。
西谷:オリンピックじゃなくても、世の中に必要な形になっているスポーツは多くある。ならではのカルチャーがありますよね。eSPORTSも、この10年間でそれらを確立していくのではないかと考えています。
【スピーカー】
・西谷 麗氏
株式会社Rush Gaming代表取締役社長/株式会社Wekids代表取締役社長
・田邊 真以子氏
毎日新聞社 経営企画室 新規事業グループ eスポーツ担当
【モデレーター】
・石渡 圭輔
株式会社スポコン 代表取締役
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