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【SCC2021開催レポート】スポーツコーチングの変化と普遍性

先日、一般社団法人スポーツコーチングJapanが主催する毎年恒例のカンファンレスSports Coaching Conference2021が、完全オンラインで開催されました。早稲田大学野球部監督の小宮山悟氏と、スポーツコーチングJapan代表理事中竹竜二氏による、基調講演「スポーツコーチングの変化と普遍性」をレポートします。変化が求められる時代に、指導の現場において変わるもの、変わらないものは何なのか、沢山のエッセンスが詰まっています。プロや海外の世界を見てきたからこそ、目の前の相手と真摯に向き合う姿勢は、厳しさの中に愛を感じます。

■指導において大切にしていること

能力のある選手がいかんなく能力を発揮することができるか?そのために、能力を把握するのに時間をかける。適材適所をシミュレーションし、戦術を練って、能力を発揮できる方法に持っていくこと。

学生が自ら考えて行動をすることが一番大事。学生の心に火を付けること、それができれば仕事は完了したようなもの。」

■さらけ出し


中々結果が出ずに、チームとして納得できる姿ではなかった時、「ちゃんとやれ。秋に向けて鬼になり、鍛え直す。」と雷を落とした小宮山監督。すると、OB野村徹氏から「余計なことはするな。何が劣っていたのか自分たちで理解して改善するよう、指導するのが監督の仕事。学生が主体で、一OBとしてなんとか彼らを手招くよう、広い視野で見守る。」とフィードバック。翌日幹部を集めて、「もう一度託す」と伝えた。その裏には、自身が野球部に育ててもらった思いから、OBからの意見を聞いて、自分で解釈して、学生にすべて話すスタンスだという。

■やらないことを決める


キャプテンはこうあるべき論は存在しない。グランドでの立ち振る舞い、そしてチームメイトから信頼されているかどうか。キャプテンを選ぶ際に、誰にも負けないものを持っていて、他のチームからみて、やっぱりすごいと思われる、良いお手本のような存在かを重視したという。

「余計なことをしなくていい。自分の能力を高めて、日本の学生ナンバー1になれ。」

俺が、俺がと無理にチームを率いようとするのではなく、キャプテンが誰よりも圧倒的な努力と結果を出し続けることで、背中を見ながらまわりがついていくようになる。これこそが早稲田の伝説を作る鍵だ。やらないことを決めること。まず、ここを目指せというシンプルなメッセージは安心感に繋がる。

■自己認識の必要性


高校野球はカテゴリー分けしたほうがいいのでは?楽しむことが目的なのか、全国制覇なのか、目指すところはどこなのかという視点。勝ち目のない試合より、力の差が拮抗した者同士がしのぎを削る方が見ていて面白い。たとえば、6大学の中で力が劣る東大に苦戦をしている時点で相手に失礼。変なプレッシャーを感じていること自体が間違い。日々圧倒的な練習をしてきているから絶対負けないと、力の差を見せつけるのが正しい姿。要は、勝って当たり前という自分たちの立ち位置を、自己認識することが大事。相手に対するリスペクトに繋がる。

■選手への期待


自らを律することができるかが、良い選手か悪い選手かの境目。社会にでて、「さすが早稲田の野球部出身だ」と胸をはれる人になって欲しい。目の前の障害にぶつかった時に、乗り越えて次のステップへ行けるよう、逆風に負けない精神力を持った選手を育てたい。

■将来の野望


子どもたちが野球は楽しいと思ってくれるように、力を貸したい。たとえば、子どもに向かって厳しい発言をしている大人に対して問いたい。

「あなたがその年齢の時に、言われたことができていたか?」

「できなくてあたりまえだから楽しんで欲しいし、楽しさがなければ長続きしない。どれだけ笑顔で競技に触れられるか。」少年野球をなんとかいい形にできないかという思いがある。トップのアスリートからのアプローチが、子どもにとって影響があるかもしれない。声がかかった時にいつでも引き受けられるよう、知恵を蓄積して、常に次の準備をしている。

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◆プロフィール


小宮山悟氏:元プロ野球選手/早稲田大学野球部 監督
1990年に早稲田大学を卒業、ドラフト1位でロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。2000年から2年間横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)でプレーし、2002年にニューヨークメッツへ移籍。2004年には千葉ロッテマリーンズに復帰し、2009年に現役引退。その後プロ野球解説者として活動し、2019年1月1日より、早稲田大学野球部第20代監督に就任。

中竹竜二氏:公益財団法人日本ラグビーフットボール協会 理事
早稲田大学ラグビー蹴球部主将を経験し、レスター大学大学院社会学部修了。三菱総研でのコンサルタント経験を経て、2006年に早大ラグビー蹴球部監督に就任。同部を2度の大学選手権制覇へ導く。2010年より日本ラグビー協会コーチングディレクター、2012年よりU20日本代表ヘッドコーチを務める。2014年、株式会社TEAMBOXを創業し、スポーツマネジメントのエッセンスをビジネス界に紹介した。2016年春には、ラグビー日本代表チームをヘッドコーチ代行として率いる。

~編集後記~


小宮山氏は、プロ、海外、解説者として圧倒的な経験からデータに基づく哲学や戦術があり、強さが際立ちます。けれど、お話の節々から、選手と対等に向き合う姿勢、そこには深い愛情、野球に対する強烈な熱量を感じました。特に、自分の確固たる哲学を持ちながら、他者からの意見を聞き入れ、選手にすべて共有し軌道修正していく姿勢にはハッとさせられました。素晴らしいお話をありがとうございました。


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