2022/10/17 外来種問題を語るスペース資料

 先日あった外来種スペースの3回目(集大成?)での主張に関する資料を置いておきます。といっても今回はそんなに多くはないので過去2回に比べるとやや少なめです。
 アーカイブはこちらから。

 前回、前々回の資料はこちらから行けます。

 なお、みなさんから触れていただいた弊紙の記事とそれに関する私のツイートはこちらです。

 外来種スペースに出て偉そうなことをしゃべっておきながら、社内でも理解がまだまだ進んでいない現状を重く受け止めています。

 その上で、特定外来生物に指定されるものを使って町おこしをするというのは、第1回目にも話したように、非常に違和感を持ちます。本来は所持だけでも懲役だってありうるようなものであり、銃や麻薬並みに厳しい規制がかかっているのが特定外来生物。それで町おこしをするというのは銃や麻薬で町おこしということをするのか、と考えてみるとどうでしょうか、という主張でした。

特定外来生物が所持だけで懲役もあり得る「銃や麻薬並みに厳しく規制されている、きわめて取り扱いが難しい『危険物』とも言える」という点、そういうものを使って、つまり「銃や麻薬で町おこしはしませんよね」ということを問題提起しました。「銃や麻薬~」は、なぜそんな厳しい規制になったのかの経緯も含めて、拙著記事も参照下さい。

(1回目資料より)

 なお、念のために付言すれば、アメリカザリガニとアカミミガメについては、飼育は禁止ではありません。「条件付き特定外来生物」という通称が作られました。個人的には条件が付いたというよりは縛りが一部外されたという理解なのですが、まあ、区別できるのは悪くないですね。

附則第5条第1項により規制の一部を適用除外とする特定外来生物については、通称として今後「条件付特定外来生物」と称することと致します。

上記ページより

 一方で、1回目、2回目と主張してきた、「侵略的外来種の有効活用」の難しさに、ハットリさんやWoWキツネザルさんが自分なりの考え・検討を深めてくださったことをうれしくも思っています。

 この辺については、過去の資料を見ていただくと、私のスタンスは分かるかと思います。また、食べて啓発にも落とし穴があることは付言しておきたいと思います。こちらは以前、講演のために作った図です。

 おそらく、構想の段階では、駆除した侵略的外来種を有効活用(この場合は食べる)することで、関心を持ってもらうことや普及啓発につなげ、それによって理解や支援の輪が広がることで、駆除が加速する、そういうことを思い描いているはずです。

 ただ、啓発がいつも外来種駆除活動の支援に向くかというとどうでしょうか。お手軽に捕れてうまいなら、もっと有効活用したらどうだろう?そう考える人が出てきた場合、このサイクルは崩れます。

 「もっと有効活用して、利益を上げたい!」と思えばむしろ産業化に舵を切ることで、駆除ではなく持続可能な利用へと事業は変わっていきます。この辺は1回目にも話したとおりです。少なくとも、食べて啓発は有効利用のためではないし、慎重にやって欲しい、というのが私の持論です。

 ちなみに、ちょっとお話ししたハワイのミノカサゴ(※実際はハワイのフエダイの仲間でした)の話はこちらから。CIが関わっており、結構気になる案件ではあります。

 また、ハットリさんが言っておられたミノカサゴシューズはこちら。

 有効活用という以上に踏み込んだところでは、産業管理外来種も議題になりました。

水産分野における 産業管理外来種 の管理について 水産庁
https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/attach/pdf/naisuimeninfo-7.pdf

 そこでは、3種のサケ科魚類(ニジマス、ブラウントラウト、レイクトラウト)のうち、ニジマスとブラウントラウトについて、この2種はいずれも、世界の侵略的外来種ワースト100と日本の侵略的外来種ワースト100に入っていて、それでいて特定外来生物には入っていない。魚の中でそんなのはこの2種だけというようなことを説明しました。いわば特定外来生物並みに「怖い魚」(なのに法的に規制されてない)だということです。

 なお、上述のフエダイといい、ここでレイクトラウトとブルックトラウトを間違えてしまったことといい、自分自身の勉強不足、記憶違いを実感するスペースにもなりました…ごめんなさい。

日本の侵略的外来種ワースト100
https://www.pref.ehime.jp/h15800/6237/documents/s-8_1.pdf

世界の侵略的外来種ワースト100
http://www.iucngisd.org/gisd/100_worst.php

特定外来生物

 こうした産業管理外来種についての規制のあり方についても意見が出ました。ハットリさんからは「環境省がルールを決めて、漁協がやっていく」という案が出て、私もそれに賛成しました。
 産業管理外来種は産業の側が「大事だから規制はかけないでくれ」と言っている以上、管理は産業側がやるのが筋だと考えるからです。これには、「お客さんが食べたいといっているから」と言っても、生の肉を出して食中毒が発生したら店が責任を問われるということとも対比して説明しました。

 保全に興味のある釣り人を増やすには、というような話も出ました。私からは、「保全は釣りにもメリットがある」ということをいろんな言い方で伝えていくことも一つでは、と述べました。

 たとえば、サケ科の魚類では、放流よりも野生魚の方が生存率が高いことがだんだん分かってきました。野生魚や野生魚がくらせる環境を守っていくことは、釣って楽しい川にもつながるはずです。

放流だけに頼らない 野生の渓流魚・天然 (アマゴ・イワナやヤマメ)を増やす漁場管理 水産庁
https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/attach/pdf/naisuimeninfo-31.pdf

 欧州では、川の構造物をなくしていこうという動きが出てきています。これも、魚にとってすみやすい環境につながることが期待されます。よく「外来種だけを悪者にしているけど、環境破壊の方がずっと大きい」という方がいますが、どっちもやる必要があるのです。

※ただ、堰堤などをなくせばいいのかというと、こうした構造物が侵略的外来種の分布拡大を防いでいる場合もあるため、注意は必要です。

 一方で、「歩み寄り」ということについては、一方(保全)は生物多様性の維持・再生に取り組む側、いわば生態系サービスの供給側であり、もう一方(釣り)はあくまで生態系サービスを享受する側である、という点は押さえておきたいという話もしました。歩み寄りや妥協には、双方にメリットや譲るものがないところには成り立たないと思います。もし保全に関心を持ち「歩み寄りたい」と考えるのであれば、釣りという文化・産業がどんな形で生物多様性に貢献できるのかはぜひ知恵を絞っていただければうれしいです。

 ただ、留意したいのは「釣りはダメで保全がいい」という「○×の話」ではないということです。どちらも尊重されるべきですが、重み付けは違うというのが正確な理解かと思います。

 今回の議題に上がっている侵略的外来種を含む釣りという行為は「個人の幸福追求」とも言える点は留意する必要があるかと思いました。憲法13条において幸福追求権は保障されているので安易にそれを制限は出来ません。ですが一つ重要なのは、同条分は同時に「公共の福祉に反しない限り」という留保も付けていることです。

 第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

日本国憲法 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm

 その上で、「公共の福祉に反しない限り」を考えると、重要なのは「他人の基本的人権を侵害しない」ということ(とか、社会全体に共通する利益と衝突しない)みたいなニュアンスだと理解しています。近年、健やかな環境・生態系の中で生きるということは、重要な基本的人権と認識され始めており、これを破壊する行為は「公共の福祉に反する」ものと指摘されてもおかしくはありません。

 釣りを「公共の福祉に反するもの」にしてしまわないためには、やっぱり生物多様性(=公共の福祉)のことは考えて欲しいと思いますし、生物多様性への悪影響がすでに明らかである侵略的外来種を釣って楽しむ行為や、楽しませる産業のあり方が現状のままでいいとは思いません。また、一部の方が現状を正当化するために、侵略的な外来魚に関する誤った情報(悪影響はない、生態系にとけ込むetc…)を広げるようなことは、むしろ歩み寄りたい釣り人を惑わせ、問題をこじらせる間違った態度ではないかと私は考えます。

 こうしたあたりはハットリさんが今度は釣りをされる方とも語り合いたいとおっしゃっていたので、どんな議論が展開されるのか、期待を込めて見守っていきたいと思います。私の役割はまあ、こんなところまででしょう。

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