要約:なぜわれわれは死ぬのか 第10章

遺伝子から、その遺伝子がコードするタンパク質、そしてそれらが細胞や動物全体の機能に影響を与える。これらのレベルはすべて相互に関連しているため、タンパク質や細胞の状態は、どの遺伝子がどのように発現しているかに影響し、それがまた遺伝子に影響を及ぼす。

炎症の原因のひとつは、細胞が老化したり傷ついたりすることによる。DNAが損傷すると細胞はがん化する危険性がある。そのため、損傷が軽度であれば、修復する。損傷がより広範囲に及ぶ場合は、細胞を死滅させるシグナルを発するか、細胞を老化状態に追い込み、分裂できなくする。癌の半数近くは、DNA損傷反応で重要な役割を果たすp53というタンパク質に変異がある。この癌抑制遺伝子は、癌を予防するために早期の老化を誘導する。

老化細胞への移行はDNA損傷応答が引き金となり、細胞の遺伝プログラムが大きく変化するために起こる。老化細胞は多くの場合、傷害やその他の損傷によって産生される分泌物が創傷治癒や組織再生を促進すると同時に、免疫系にシグナルを送って細胞を排除させる。しかし、免疫システムも老化し、老化細胞を除去する能力が低下する。DNAへのダメージが蓄積し、テロメアが短くなると、免疫系が処理しきれないほどの速さで老化細胞が作り出され、慢性的で広範囲な炎症を引き起こす。

老化細胞を死滅させたマウスは、老化細胞を蓄積させたマウスよりも多くの点で健康である。逆に若いマウスにわずかな数の老化細胞を移植するだけでも、持続的な身体機能障害を引き起こす。

私たちの組織の大部分は常に再生されており、細胞が壊れた場合、その細胞を入れ替える必要がある。その結果一部の組織を除いて7年後にはまったく新しい細胞の集合体になっている。

初期胚に存在する多能性幹細胞は分化するにつれて体内のあらゆる種類の組織を生み出すことができる。他の幹細胞は、特定の組織のみを再生することができる。多能性幹細胞は、組織細胞に分化した幹細胞を補充するために、より多くの幹細胞に分裂し続けなければならない。加齢とともに、より多くの幹細胞を作り出すことと組織を再生させることのバランスを失い始める。幹細胞自体もやがてDNA損傷やテロメアの喪失に苦しみ、代謝異常を蓄積する。最終的には、DNA損傷応答などの反応を引き起こし、細胞死や老化を引き起こす。高齢になると、数個のクローンから派生した幹細胞しか残らなくなる。このような幹細胞は効果が低いだけでなく、クローン変異体そのものが癌の発生源となる可能性がある。

山中因子を用いて細胞を完全に初期化して人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り、それを用いて新しい組織を増殖させると、良性または悪性の腫瘍ができることがある。その理由のひとつは、山中因子が正常な発生過程を正確に逆行させていないからである。山中因子の使用に伴う潜在的なリスクを考慮すると、細胞を多能性幹細胞に戻すのではなく、発生過程の一部だけを戻し、組織ごとの特殊な幹細胞に変化させるという方法が効果的である。

若返りのために、若い個体から輸血するということが考えられている。若い個体から輸血されたマウスは、筋肉や肝臓の細胞を回復させ、傷も治りやすくなった。逆に古い血液をもらった若いマウスは、神経細胞の数が減少し、老化細胞の数が急速に増加した。


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