春と秋に水を張る田んぼがシギ・チドリを守る

海外文献の紹介 第2回
Golet, G. H., Low, C., Avery, S., Andrews, K., McColl, C. J., Laney, R., & Reynolds, M. D. (2018). Using ricelands to provide temporary shorebird habitat during migration. Ecological Applications, 28(2), 409-426.

調査地

サクラメントバレーは、カリフォルニア州のセントラルバレーの北部を形成しており(図1)、米国で最も肥沃な農地が含まれている。毎年約300万羽のヒドリガモと50万羽のシギチがセントラルバレーを利用している(Shuford et al.1998、Collins et al.2011、Dybala et al.2017)。

冬期に水田は水鳥の狩猟のために湛水されるが、猟期がおわると排水され、春の植え付けの準備のために通常乾燥させられる。稲の収穫後は晩秋まで湛水されない。春と秋の渡りの時期に湛水するため、農家に補助金を提供して湛水への参加を募った。金額はオークションによって決定した。湛水期間は春は2月1日から3月28日まで、秋は9月1日から10月28日まで(2014年)、8月16日から10月28日までとした。

春期間については、アメリカヒバリシギ[Calidris minutilla]、アメリカダイシャクシギ[Numenius americanus])については、その地域を通るピークに対応できたが、ヒメハマシギ[Calidris mauri] 、チュウシャクシギ [Numenius phaeopus]については対応できなかったと考えられた。秋期間については、ほとんどの種の渡りのピークに対応したが、オオキアシシギなど一部の種の渡りのピークには遅れたと考えられた。

湛水区の条件は圃場面積の70%以上が湛水し、水深は10cm以下であることとした。

シギ・チドリ類調査

2014 年と 2015 年に合計 769 点の調査ポイントを設置した。内訳は、登録水田11,536haに処理ポイント603箇所(78%)、未登録水田5,416haに対照ポイント166箇所(22%)である(表1)。1週間あたり平均148ポイントを調査した(処理区113ポイント、対照区35ポイント)。個々のポイントは平均8.5回調査され、合計6,059回の調査が行われた(Golet et al.2017)。調査は平均 5.9 分で完了した。

2014年と2015年の4回の調査期間中に、登録されたフィールド(処理)で325,952羽のシギ・チドリを数えた。合計で19種が観察された。2014年春に13種、2014年秋に17種、2015年春に14種、2015年秋に18種であった(表3)。春は、最も多く観察されたシギ・チドリは ハマシギ (Calidris alpina) で、全体の 80%にも及んだ。秋は、オオハシシギが最も多かったが、遅い日程ではハマシギも多く記録された(図4)。

処理区で実施された調査(n = 4,583)における個々の種の総計は、ゼロから6,000個体(ハマシギなど)までの範囲であった。年および季節を通じた複合的な種の密度は、1ヘクタールあたり平均18.2 ± 75.2 (平均 ± SD)羽であり、その範囲は0羽から717羽までであった。種の豊富さは調査ごとに平均1.21±1.54種で、範囲は0~11種であった。シャノン多様性は平均0.21±0.34(SD)で、範囲は0~1.7であった。処理区で観察された個々のシギ・チドリ類の平均密度は、各年とも非常によく似ていた(図4)。

水深10cm未満では、より深いフィールドでも観察された足の長い2種、クロエリセイタカシギBlack-necked Stilt(Himantopus mexicanus)とアメリカソリハシセイタカシギAmerican Avocet(Recurvirostra americana)を除くすべての種で最も利用率が高かった(図5)。また、脚の長い他の2種のシギ・チドリ類、オオキアシシギGreater YellowlegsとアメリカダイシャクシギLong-billed Curlew,は、深い水田で観察されることはあまりない。オオハシシギ属Dowitchersは、広い水深範囲で比較的高い密度で観察された。シギ類の中で最も脚が短いハマシギは、最も浅い水田で多く見られたが、深いフィールドの浅いマイクロハビタットも利用していた。


プログラムの効果

処理区は対照区と比較して、シギ・チドリ類の平均密度、豊かさ、多様性が高かった(図6)。

処理区では、9月上旬から10月にかけてと、3月中旬から4月中旬(モニタリング終了時)にシギ・チドリ類の密度が最も高くなった(図6)。また、種数は9月と3月中旬から4月中旬に最も高くなった(図6)。両期間とも、処理区は対照区よりシギ・チドリ類の密度、種数、多様性が著しく高かったが、秋にはその差が大きく、密度(F3,34 = 6.5, P < 0.01) 、種数(F3,34 = 4.1, P < 0.05) 、多様性( F3,34 = 3.9, P < 0.05 )に処理区と季節が顕著に相互影響していた(図6)。

2014年、秋登録のフィールドは、春登録のフィールドと比較して、利用可能な深さの範囲において、シギ・チドリ類の密度、豊かさ、多様性が高かった(図7)。一方、2015年は春に比べ、秋の方が豊かさと多様性だけが高いようである。最も多様な種による利用が多かったのは、水深が10cm未満のフィールドであった(図7)。

考察

シギ・チドリ類の密度は、サクラメント・バレーの水田で行われたこれまでの研究(その多くは冬、そして1例では晩春に実施されていた)で報告されている値よりもかなり高い(表6)。平均密度は、過去に報告された最高値と比較して、春の実施期間では約2倍、秋の実施期間では3.5倍高かった。例外は、Elphick and Oring (2003)が報告した、稲わらをディシングやチゼルで機械的に土壌に埋め込んだ3つの湛水田での高密度で、これは我々のプログラムで推進している実践である。

本研究や他の研究者の研究は、春、特に3月下旬から4月にかけてサクラメント・バレーにシギ・チドリ類の生息地を追加することが有益であることを示唆している。農家は通常、水鳥の狩猟シーズンが終了した後の2月初旬から中旬にかけて、冬に水を張った水田を排水し、田植えの準備を開始する。この排水期間は、地域全体でかなり同期的に行われる。また、田畑を縦横に走る排水溝によって、排水は急速に進むことが多い。この排水は典型的な雨季の終わりと重なるため、4月は開水面を持つ湿地の割合が年間を通じて最小となる時期である(Dybala et al.2017)。これは、ほとんどの場合、3月と4月にピーク時に谷を渡ってくるシギ・チドリ類にとってはタイミングが悪い(Manolis and Tangren 1975, Shuford et al.1998, Sullivan et al.2009, Barbaree et al.2015, Reynolds et al.2017 )。

水田は10月以前には水鳥の生息地を提供できないとされてきたが(CVJV 2006)、我々は稲作農家と協力し、一時的に休耕していた水田に8月中旬という早い時期に湛水生息地を作り出すことに成功した。さらに、湛水期間を4月上旬まで延長し、通常の稲作よりも1カ月以上長くした。

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