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鳥類に見る驚異の毒:その多様性と進化

世界にはその身に毒を備えて捕食者から身を守ったり、他の生物と共生関係を築いたりする鳥たちが存在します。人間への毒鳥による被害は稀ですが、深刻な症状を引き起こす可能性もあります。この記事では、鳥類に見られる多様な毒のメカニズムとその進化、そして未だ解明されていない謎について解説した論文を紹介します。

多様な毒とその起源

鳥類が持つ毒はその種類も入手方法も様々です。代表的な毒鳥とその毒の特徴について詳しく見ていきましょう。

1. ピトフーイとアオボウシヒタキ

ニューギニアに生息するピトフーイとアオボウシヒタキは鮮やかな体色を持つ美しい鳥ですが、体内にバトラコトキシンという強力な神経毒を持っています。バトラコトキシンは、南米のモウドクフキヤガエルが持つ毒と同じものです。鳥類がどのようにしてこの毒を獲得したのかは未だ完全には解明されていませんが、彼らが餌とするメルリドカブトムシが毒源ではないかと考えられています。

ピトフーイとアオボウシヒタキの毒は主に胸部と腹部の羽毛に集中していて、捕食者を撃退するだけでなく巣や卵に毒を移すことで、卵を食べる捕食者からも身を守っていると考えられています。

2. ヨーロッパウズラ

ヨーロッパウズラは渡り鳥として知られていますが、秋にヨーロッパやアフリカで捕獲されたウズラを食べた人間が、横紋筋融解症を引き起こすことがあります。これはコトュルニズムと呼ばれる食中毒で、筋肉の痛みや脱力感、痙攣などの症状が現れます。重症化すると腎不全を引き起こす可能性もあります。

コトュルニズムの原因物質はドクニンジンに含まれるコニインというアルカロイド毒だと考えられています。ヨーロッパウズラは渡りの途中でドクニンジンの種子を食べるため、体内にコニインが蓄積されると考えられています。

3. ケンセイモリクイナ

サハラ以南のアフリカに生息するケンセイモリクイナはカンタリジンという毒を持つツチハンミョウを食べることで、体内に毒を蓄積します。カンタリジンは皮膚や粘膜に炎症を引き起こす毒で、重症化すると脱水症状や心血管系への影響が現れることもあります。

4. エリマキライチョウ

北米に生息するエリマキライチョウはグラヤノトキシンという毒を持つカルミアを食べることで、体内に毒を蓄積します。グラヤノトキシンは神経毒性と心臓毒性を併せ持つ毒で、めまい、吐き気、嘔吐、不整脈などの症状を引き起こします。

5. ブロンズバト

オーストラリアに生息するブロンズバトはモノフルオロ酢酸という毒を持つ植物を食べることで、体内に毒を蓄積します。モノフルオロ酢酸は細胞呼吸を阻害する毒で、痙攣、嘔吐、下痢などの症状を引き起こします。重症化すると心停止に至ることもあります。

6. ヤツガシラ

アフリカ、アジア、ヨーロッパに生息するヤツガシラは、尾腺に共生する細菌が硫化ジメチルなどの揮発性化合物を生成します。これらの化合物は悪臭を放ち、捕食者を撃退する効果があります。

毒への耐性:進化が生み出した驚異のメカニズム

毒鳥はなぜ自身の毒で中毒を起こさないのか? これは、生物学者たちを長年悩ませてきた謎です。現在、以下の様な仮説が立てられています。

  • 毒に対する耐性を持つ遺伝子変異

  • 毒物を無毒化する代謝経路

  • 毒物を隔離するための特殊な器官

例えば、モウドクフキヤガエルは自身の持つバトラコトキシンに対する耐性を持つように、ナトリウムチャネルの遺伝子が変異していることが分かっています。鳥類においても同様のメカニズムが働いている可能性があります。

引用元

Yeung, K.A., Chai, P.R., Russell, B.L. et al. Avian Toxins and Poisoning Mechanisms. J. Med. Toxicol. 18, 321–333 (2022). https://doi.org/10.1007/s13181-022-00891-6
URL
 : https://link.springer.com/article/10.1007/s13181-022-00891-6


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