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恐竜の羽毛の生え変わりから、鳥類の進化の謎に迫る

鳥類は恐竜が絶滅した白亜紀末の大絶滅を生き延びた唯一のグループであり、その祖先は羽毛を持つ「ペンナラプトラ類」と呼ばれる恐竜のグループに属します。羽毛は鳥類において飛行、体温調節、ディスプレイなどの生存に不可欠な役割を担っています。しかし、傷ついた羽毛は自然に修復することはなく、新しい羽毛に生え変わらなければなりません。この羽毛の生え変わりのプロセスは「換羽」と呼ばれ、鳥類は基本的に年に一度、全身の羽毛を完全に生え換えます。

この羽毛の換羽はいつ、どのように進化したのでしょうか?興味深いことに、現生の鳥類の間では、換羽の頻度にほとんど違いは見られず、熱帯地方に生息する種でも約1年間隔で換羽を行うことが知られています。これは、換羽が鳥類にとって非常に重要なプロセスであり、換羽を行わないことによるリスクが換羽に伴うコストを上回るためと考えられます。

しかし、鳥類以外の恐竜における換羽の記録は非常に少なく、進化の過程を解明することは困難でした。これまで、鳥類以外のペンナラプトラ類で換羽中の個体であると明確に判断されていたのは、ミクロラプトルの1つの化石だけでした。

ミクロラプトルの換羽と鳥類の換羽の違い

シカゴのフィールド自然史博物館の研究者たちはこの謎を解明するため、鳥類以外の恐竜における換羽の証拠を調査しました。彼らは、中国科学院脊椎動物古脊椎動物古人類学研究所(IVPP)に所蔵されている羽毛恐竜の化石標本と科学文献に発表されている標本を合わせ、合計92点のペンナラプトラ類の化石を分析しました。その結果、これらの化石のうち、換羽中であると明確に判断できたのはやはりミクロラプトルの1つの標本だけでした。

さらに、現生の鳥類の標本を用いて、換羽の期間と換羽中の個体の発見率の関係を調べました。換羽にはすべての風切羽をほぼ同時に落とす「一斉換羽」と、古い羽根を順番に新しい羽根に生え換えていく「順次換羽」の2つのタイプがあります。分析の結果、順次換羽を行う種は一斉換羽を行う種に比べて、換羽中の個体が標本中に占める割合が高いことが明らかになりました。これは、順次換羽の方が換羽期間が長いため、換羽中の個体に出会う確率が高くなるためです。

次に、化石標本における換羽中の個体の割合を現生の鳥類のデータと比較しました。その結果、化石標本における換羽中の個体の割合は現生の鳥類で一斉換羽を行う種(マガモ、アメリカカイユ、ムラサキバン)の標本における割合とほぼ同じであり、順次換羽を行う種(ツメバケイ、ナゲキバト、クロチュウハシコウ)の標本における割合よりも有意に低いことがわかりました。

研究結果が示す鳥類の祖先における換羽の特徴

これらの結果から研究チームは2つの可能性を提示しています。

  1. ペンナラプトラ類の恐竜ではこれまで考えられていたよりも一斉換羽が一般的だった可能性。

  2. ペンナラプトラ類の恐竜は順次換羽を行っていたが、換羽の周期が現生の鳥類よりも長かった可能性(例えば、1年以上)。

1つ目の可能性については、大型の鳥類や水鳥のように、安全な環境に生息する種で多く見られる一斉換羽が飛行能力の低いペンナラプトラ類で一般的であったとは考えにくいとされています。

一方、2つ目の可能性は白亜紀のペンナラプトラ類の化石で、羽根の摩耗が激しいものが散見されるという事実とも一致しています。もし換羽の頻度が低ければ、羽根はより長く使われることになり摩耗も激しくなるからです。

引用元

タイトル:Rarity of molt evidence in early pennaraptoran dinosaurs suggests annual molt evolved later among Neornithes
URL:https://www.nature.com/articles/s42003-023-05048-x
著者:Yosef KiatJingmai Kathleen O’Connor

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