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ウミヤツメと人類、進化の謎を紐解く脳の共通設計


ウミヤツメとは?

ウミヤツメ(Petromyzon marinus)は大西洋原産の寄生性の魚で、ヤツメウナギの仲間です。他の魚の血液やその他の体液を吸って寄生するウミヤツメは3億4000万年以上ほとんど変化せず、少なくとも4回の大量絶滅を生き抜いてきました。

ウミヤツメはウナギに似ていますが、関連性はなく、独特の口を持ちます。
彼らの口は鋭い角状の歯が剃刀のように鋭いヤスリ状の舌を取り囲む大きな口腔吸盤のような構造をしています。ウミヤツメは吸盤のような口で魚に付着し、歯を肉にガッチリと食い込ませます。しっかりと付着すると、ウミヤツメは鋭い舌で魚の鱗と皮膚をヤスリのように削っていき。ヒルが宿主から血を吸うのと同様に、血液の凝固を防ぐ酵素を分泌することで、魚の体液を食べていきます。

ウミヤツメは大西洋の原産地ではそこに生息する魚との共進化のおかげで、通常は宿主を殺さないのですが、そのような共進化の関連性がないアメリカとカナダの国境付近にある五大湖ではウミヤツメは捕食者として働き、1個体で12~18ヶ月の摂餌期間中に最大20kg以上の大きな魚を殺すことができます。

五大湖でウミヤツメが寄生するホスト魚は彼らの寄生に耐えられないことが多く、攻撃で直接死ぬか、攻撃後の傷口の感染症で死んでしまいます。
攻撃から生き延びたホスト魚でも体重が減少し、健康状態が悪化することがよくあります。ウミヤツメはレイクトラウト、ブラウントラウト、レイクチョウザメ、レイクホワイトフィッシュ、シスコ、バーボット、ウォールアイ、ナマズ、チヌークサーモンやギンザケ、ニジマス/スチールヘッドなどの太平洋サケ科の魚など、五大湖の大型魚のほとんどの種を餌にします。

五大湖でウミヤツメが最初に観察されたのは1835年のオンタリオ湖でした。
ナイアガラの滝は天然の障壁となり、ウミヤツメをオンタリオ湖に閉じ込め、残りの4つの五大湖に入るのを防いでいました。しかし、1800年代後半から1900年代初頭にかけて、ナイアガラの滝を迂回し、オンタリオ湖とエリー湖の間の船舶輸送を可能にするウェランド運河の改良により、ウミヤツメは五大湖の他の地域にアクセスできるようになりました。ほんの少しの間に、ウミヤツメは周辺の湖に到達し、1921年までにエリー湖、1936年と1937年までにミシガン湖とヒューロン湖、1938年までにスペリオル湖に広がりました。ウミヤツメは優れた産卵場所と幼生の生息地の存在、ホスト魚の豊富さ、捕食者の不在、そして高い生殖力のおかげで、五大湖に侵入した後に繁栄することができました。メスは最大10万個の卵を産むことができます

ウミヤツメと人類、進化の謎を紐解く脳の共通設計

ウミヤツメは5億年前から存在する、吸盤状の口と鋭い歯を持つ特徴的な動物です。ストワーズ医学研究所の新しい研究により、ウミヤツメと人間の両方の後脳(血圧や心拍数などの重要な機能を制御する脳の部分)が、驚くほど類似した分子と遺伝子の特徴を備えていることが発見されました。

ロブ・クルムラウフ博士の研究室から2024年2月20日にNature Communicationsに発表されたこの研究により、古代の動物の脳がどのように進化したのかを垣間見ることができます。研究チームはある重要な分子シグナルが脊椎動物の後脳発生中に非常に広く必要とされていることを偶然発見しました。共著者のヒューゴ・パーカー博士は、「この後脳の研究は本質的に遠い過去の謎を解き明かす手がかりで、複雑さの進化を理解するためのモデルとして役立ちます」と述べています。

ウミヤツメは他の脊椎動物と同様に背骨と骨格を持っていますが、顎がないという頭部の特徴が目立ちます。人間を含むほとんどの脊椎動物が顎を持っているため、ウミヤツメのこの顕著な違いは脊椎動物の特徴の進化を理解するための貴重なモデルとなります。

「約5億年前、脊椎動物の起源で無顎類と有顎類の分岐がありました」と、
クルムラウフ研究室の元予備課程研究者で、この研究の筆頭著者であるアリス・ベドワ博士は述べています。「私たちは、脊椎動物の脳がどのように進化したのか、そして有顎脊椎動物に特有のものが無顎類の親戚に欠けているのかを理解したいと考えました」

クルムラウフ研究室とカリフォルニア工科大学のマリアンヌ・ブロナー博士の研究室による以前の研究では、ウミヤツメの後脳を構造化し細分化する遺伝子が人間を含む有顎脊椎動物のものと同一であることが特定されていました。

しかし、これらの遺伝子は後脳を正しく形成するために開始され、方向付けられる必要がある相互接続されたネットワークまたは回路の一部です。今回の新しい研究では、広範な動物の頭尾パターン形成を指示することが知られている一般的な分子シグナルが、ウミヤツメの後脳パターン形成を導く遺伝子回路の一部であることが特定されました。

ベドワ博士は「ウミヤツメの後脳発生にも同じ遺伝子と同じシグナルが関与していることがわかりました。このプロセスはすべての脊椎動物の祖先的なものであることを示唆しています」と述べています。

このシグナルは一般的にビタミンAとして知られるレチノイン酸と呼ばれています。研究者たちは、レチノイン酸が複雑な種の後脳を構築するための遺伝子回路に合図を送ることを知っていましたが、ウミヤツメのようなより原始的な動物では関与していないと考えられていました。驚くべきことに、ウミヤツメの中核的な後脳回路もレチノイン酸によって開始されることがわかり、彼らと人間が予想以上に密接に関連していることが証明されました。

「ウミヤツメは顎を持っていないので、後脳は他の脊椎動物のように形成されていないと人々は考えていました」とクルムラウフ博士は述べています。「私たちは脳のこの基本的な部分がマウスや人間とまったく同じ方法で構築されていることを示しました」

発生中の細胞の運命を知らせるシグナル伝達分子はよく知られています。
今回、研究者たちはレチノイン酸が脳幹の形成などの発生の重要な段階に合図を送るもう一つの主要なプレーヤーであることを発見しました。さらに、後脳形成がすべての脊椎動物に保存された特徴であるならば、それらの驚くべき多様性を説明するには他のメカニズムが存在している可能性があります。

「私たちはみな共通の祖先から派生しました」とベドワ博士は述べています。「ウミヤツメはさらなる手がかりを提供してくれました。今度は進化の時間をさらに遡って、後脳形成を支配する遺伝子回路がいつ最初に進化したのかを発見する必要があります」

無顎類

ヤツメウナギ

無顎類は顎のない魚で、ヤツメウナギとヌタウナギが分類されています。
無顎類の魚は、おそらく最も初期の脊椎動物であり、5億年前の後期カンブリア紀に生息していた無顎類の化石が発見されています。無顎類は鰭や胃がなく、成体と幼生は脊索を持っているという特徴があります。脊索とはすべての脊索動物に見られるもので、胚発生段階で生物の体の主な支持体となる柔軟な棒状の細胞の索です。
ほとんどの無顎類は軟骨でできた骨格と7対以上のエラ嚢を持っています。
ヤツメウナギはウナギのように見えますが、顎のない吸盤のような口を持ち、これにより魚に噛み付き、寄生虫のように付着した魚から組織と体液を吸い取ります。ヤツメウナギの口にはそれを支える軟骨の輪と、魚に取り付くために使う角質の歯が列をなしています。ヤツメウナギは温帯の川や沿岸の海に生息し、幼生の時には淡水で生活しています。幼生期には通常、川や湖の泥底にいて微生物をろ過して食べています。幼生期は7年にも及ぶことがあり、幼生期の終わりにはヤツメウナギはウナギのような生物に変化し、
泳いで魚に噛み付いて栄養をとるようになります。現存するヤツメウナギの種は約50種で、ヌタウナギはスライムフィッシュとも呼ばれています。

ヌタウナギ

ヌタウナギには体の両側に粘液腺があり、厚くて粘着性の高い粘液を分泌して、防御機構として利用しています。ヌタウナギは体をねじって結び目を作ることもでき、この行動は粘液を取り除いたり、捕食者から逃れたりするときに行います。

ヌタウナギはほとんど完全に目が見えませんが、優れた触覚と嗅覚を持っています。口の周りに触手の輪がありそれを使って食べ物を探ります。顎のない口から舌のような突起があり、この突起の先端には歯のようなヤスリがあり、食事の時に利用しています。

資料

https://www.sciencedaily.com/releases/2024/02/240221160425.htm
https://en.wikipedia.org/wiki/Sea_lamprey
http://www.glfc.org/sea-lamprey.php
http://www.glfc.org/sea-lamprey-lifecycle.php
https://nhpbs.org/wild/Agnatha.asp

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