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空飛ぶイカ、水中から空へ飛び出す際の推進メカニズムを解明

太平洋やインド洋に生息するアカイカは通称「トビイカ」とも呼ばれ、その名の通り水面から飛び出して滑空する能力を持つことで知られています。イカは優れた遊泳能力を持つ生物として知られていますが、一部のイカは水面から飛び出して滑空し、より速く移動したり捕食者から逃れたりする能力を進化させてきました。

これまで、海中でのイカの飛行行動を鮮明に記録することは困難で、水中から空へ移行する際のメカニズムは謎に包まれていました。今回の研究では、アカイカを対象に、流体力学に基づく数値計算手法であるCFD(Computational Fluid Dynamics)を用いて、水中から空へ飛び出す際の動作をシミュレートしました。その結果、イカがどのように推進力を生み出し水中から空へ飛び出すのか、その詳細なメカニズムが明らかになりました。

イカの飛行を支える2つの渦

シミュレーションでは、まずアカイカの3次元モデルを作成し実際のイカの形態や動きを忠実に再現しました。そしてこのモデルを用いて、異なる打ち上げ角度(水面に対する体の角度)でイカが水中から飛び出す様子をシミュレートしました。

その結果、イカは漏斗と呼ばれる器官から水を噴射することで推進力を得ており、この噴流が作る2種類の渦が重要な役割を果たしていることがわかりました。1つ目は「trailing jet」と呼ばれる噴射口から続く渦です。もう1つは「pinch-off vortex ring」と呼ばれる噴射口から離れて独立した渦輪です。これらの渦が周囲の水を巻き込みながら後方へ移動することで、イカは前進する力を得ていることがわかりました。

効率よりも推進力を優先

イカが生成する渦は推進効率は低いものの、瞬間的に大きな推進力を生み出すタイプの渦であることがわかりました。これは「formation number」と呼ばれる指標を用いて確認されました。formation numberは噴流の長さと直径の比を表す指標で、値が大きいほど時間平均の推進力は大きくなりますが、推進効率は低下します。今回のシミュレーションでは、アカイカのformation numberは5.22と比較的高く、イカは水中から空へ飛び出す際に推進効率よりも瞬間的な推進力を優先していることが示唆されました。

打ち上げ角度と飛行速度の関係

さらに、イカの打ち上げ角度と飛行速度の関係についても解析を行いました。その結果、打ち上げ角度が低いほど飛行速度が速くなるという、興味深い相関関係が明らかになりました。これは、打ち上げ角度が低い方が重力による速度低下の影響を受けにくいことによると考えられます。

引用元

タイトル:Locomotor transition: how squid jet from water to air
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-3190/ab784b/meta
著者:T G Hou, X B Yang, T M Wang, J H Liang, S W Li and Y B Fan

T G Hou et al 2020 Bioinspir. Biomim. 15 036014DOI 10.1088/1748-3190/ab784b


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