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「食堂で発見され、研究者が確認する前に全て調理されてしまった新種のトカゲがいる。」 ― 北白川かかぽさん企画に提供したネタの再説明と補足

初めに: この記事の主旨について

この記事は、2023年6月15日にお誕生日を迎えたVTuber「北白川かかぽ」さんの記念配信『かかぽにちょーだい!トリビアプレゼント🐤🥝』に対応した記事だよ。

科学コミュニケーターとして活動し、Sony Musicのバーチャルタレント育成&マネジメントプロジェクト「VEE」にも所属しているかかぽさんは、私が尊敬してやまないVTuber&コミュニケーターのおひとり!

で、今回はお誕生日記念配信でのトリビアプレゼントでネタを1つ提供したよ。それは「食堂で発見され、研究者が確認する前に全て調理されてしまった新種のトカゲがいる。」という内容!なんだけど、限られた時間の中では伝えきれないよ~!ってことなので、かかぽさんに許可をもらって、改めてトリビアの内容と補足事項を書かせていただいた、ってな感じだよ!

食べられちゃった新種のトカゲ発見記

食堂で新種の予感!?

ことの始まりは2009年、ベトナムのバリア=ヴンタウ省スエン・モック地域 (Xuyên Mộc) のある村でのこと。ベトナム科学技術アカデミーのゴー・ヴァン・トリ氏 (Ngo Van Tri) は、村のある食堂で、水槽に入れられた調理前の生きたトカゲを見て驚いたよ。というのは、どのトカゲもコピペかって思えるくらいそっくりな見た目をしていたからだよ!

爬虫類学者であるゴー・ヴァン・トリ氏は、平均体長11.5cmのそのトカゲが、アガマ科 (キノボリトカゲ科 / Agamidae) のバタフライアガマ属 (Leiolepis) の仲間であることに気づいたものの、だからこそその異常さに気づいたよ。バタフライアガマ属はオスとメスで非常に色が異なることを特徴としていることから、もしオスメスがごっちゃに混ざっていれば、どれもコピペに見えることはあり得ないからね!

この奇妙なトカゲの写真を撮ったゴー・ヴァン・トリ氏は、それをアメリカはラ・シエラ大学に所属する親子の研究者L・リー・グリズマー氏 (L. Lee Grismer) とL・ジェシー・グリズマー氏 (Jesse L. Grismer) に送ったよ。グリズマー親子は写真を見るなり、そのトカゲに新種の予感を感じたよ!ということで何はさておき、その正体をはっきりさせるためにすぐさまアメリカからベトナムまで飛んで行ったよ!

謎はディナーと共に消え…

すぐさま飛んだと言っても、場所は国際空港がある首都のホーチミン市からだいぶ離れていたよ。ということでグリズマー親子はバイクで2日もかけてその村に行ったよ! (8時間と記述する資料もあるけど、これは実乗車時間のことかもね、ちょっとわかんなかった) そして何より、新種であることをしっかりと示すためには、できれば生きている個体がいることが望ましいので、食堂の店主に電話をかけ、生きたトカゲを残しておくように予約をしておいたよ。

ところが、時間をかけて到着したグリズマー親子に悲劇が襲ったよ!なんと、予約した新種かもしれないトカゲは、全て調理された上で食べられてしまったよ!なんと、酒に酔った店主が予約のことをすっかり忘れてしまい、それを常連に振る舞ってしまったからだよ!全滅!!なんてこったい!!!

手ぶらで帰るわけにもいかず…

とはいえ、苦労して辿り着いた地で手ぶらで帰るわけにもいかないので、グリズマー親子は別の食堂を訪ね歩いたり、地元の子供たちの協力を仰いだよ。幸い、食堂で食べられているくらいのトカゲなので、それほど苦労せず、合計70匹ほどの生きた個体を集めることに成功したよ!

一度は調理で "全滅" した新種のトカゲは、レイオレピス・ゴーヴァントリイと命名されたよ。 (Image Credit: L. Lee Grismer)

腕部の大きな鱗と趾下薄板 (足の指先の鱗) の特徴を観て、グリズマー親子はこのトカゲが確かにバタフライアガマ属の新種であることを確認したよ!グリズマー親子は内容を論文にまとめ、2010年4月にその論文が『Zootaxa』に掲載されたよ。新種の学名は、発見のきっかけを与えたゴー・ヴァン・トリ氏に因みレイオレピス・ゴーヴァントリイ (Leiolepis ngovantrii) と命名されたよ!ちなみに、最後のiが2つ重ねなのは、人名を学名にする時には、男性なら-i、女性なら-aeを末尾にするという原則があるからだよ。

現地では食べられるほど馴染みのあるトカゲが実は新種だったというのは、生物学者にとって、地球にはまだ知らない生き物が多いことを示す1つの例だよ!

単為生殖をする新種と判明!

全部がクローン!

さて、冒頭のコピペに対する謎だけど、それは遺伝子解析によってすぐさま判明したよ。何しろ、全ての個体が同じ遺伝子を持っているメスだったからね!

そう分かってしまえば単純明快。レイオレピス・ゴーヴァントリイは、メスが単独で勝手に子供を作る単為生殖をする種である、ということになるよ!単為生殖は交尾を必要とせず、オスからの新たな遺伝子が入らないから、必然的にクローンしか生まれないことになるよ!レイオレピス・ゴーヴァントリイは知られている限りオスが見つかっていないことも、単為生殖であるという仮説を補強するよ。

お仲間にも単為生殖が見つかっている

実は、単為生殖をする爬虫類というのは、ありふれているとまでは言わなくても、結構見つかるよ。特にレイオレピス・ゴーヴァントリイが属するバタフライアガマ属は、9種中4種が単為生殖をすることが知られているよ!層であることが初めて知られているレイオレピス・トリプロイダ (Leiolepis triploida) は1971年と結構早く発見され、残り2種も1993年に見つかっていることも、レイオレピス・ゴーヴァントリイは単為生殖の新種ではないか、と早めに気づかれるきっかけとなったポイントだよ。今のところ、レイオレピス・ゴーヴァントリイはバタフライアガマ属で見つかった、最も新しいの単為生殖種だよ。

レイオレピス・ゴーヴァントリイの母親であるレイオレピス・グッタタ。 (Image Credit: KHOA GIÁO)
レイオレピス・ゴーヴァントリイの恐らく父親であるレイオレピス・グエンサーペターシ。上下は種としては別だけど、それにしたって色が全く違うよね?これがバタフライアガマ属全体に共通するオスメスの明確な違いだよ。 (Image Credit: KHOA GIÁO)

このような単為生殖種が発生する理由には様々なものがあるけど、異なる種の交雑によってハイブリッド種が生まれるのが理由の1つだよ。生息地はビンチャウ・フックブー自然保護区に近く、そこは低木林と海岸砂丘という、全く異なる2つの自然環境に挟まれているよ。そういう環境は、異なる生態を持つ種が交雑し、自然発生でハイブリッド種が生まれる環境ができているよ。レイオレピス・ゴーヴァントリイの場合、ミトコンドリアDNA (母方からのみ遺伝する遺伝子) の解析から、母方はレイオレピス・グッタタ (Leiolepis guttata) であることが確定しているよ。一方で父方は、恐らくレイオレピス・グエンサーペターシ (Leiolepis guentherpetersi) であると推定されているよ。

レイオレピス・ゴーヴァントリイの生息地と保全状況。総個体数は不明ながら、単為生殖種という脆弱性から、IUCNは危急種としているよ。 (Image Credit: IUCN Red List of Threatened Species)

レイオレピス・ゴーヴァントリイは食堂で食べられていることから、意外と個体数は多いのかもしれないけど、このような単為生殖種は生物保護の観点から言うとかなり危ないよ。全てが同一のクローンであることは、遺伝子の欠陥や弱点も共通しているということになるよ。なので、たまたま罹りやすい病気や感染症があった場合、一気に絶滅するリスクがあるよ!このためIUCN (国際自然保護連合) は、2017年にレッドリストにレイオレピス・ゴーヴァントリイを登録し、保全状況を危急種としているよ。

危急種 (大半のキーウィはこれに該当) は、絶滅危惧種のカテゴリーの中で最も緩いランクだけど、少し状況が悪化すれば簡単に絶滅危機種 (トキ) や絶滅寸前種 (カカポ) になる、結構危ないランクに位置するものだよ!食べている場合じゃないかもしれないよ!

で、味は?

さて、誰もが (?) 気になることとして、食べ物としてのレイオレピス・ゴーヴァントリイはどんな味がするんだろうね?ちょっと調べた限りではどんな料理か分からなかったんだけど、実際に食べた感想と、新種として調べるのに不都合があることを考えると、恐らく焼き料理、次点で煮るという、いずれにしても加熱調理だと思うよ。全体を加熱してしまえば、外観が変質してしまう上に遺伝子も破壊してしまうからね!

さて、実際に食べたグリズマー親子は、それを「鶏肉と似た味」だとしているよ。ただ、これは珍しい肉を食べた時の感想としてよく使われる "あるある" な表現なので、額面通りに受け取れないというのが正直なところだよ。

しかも、グリズマー親子は続けて「それをビッグマックなどの代わりにしたいとは思わない」「食堂の店主の目の前で礼儀正しく振る舞うために、息を止めていなければならなかった」「一口食べると、それは古くて死んだ味がした」と、鶏肉と似た味なんかよりはずっと豊かな表現をしているよ!まぁ、もしかするともっとうまい調理法があったのかもしれないけど、少なくとも現地ではこういうものだったんだよってことがわかるね。

参考文献

  • Jesse L. Grismer & L. Lee Grismer. "Who’s your mommy? Identifying maternal ancestors of asexual species of Leiolepis Cuvier, 1829 and the description of a new endemic species of asexual Leiolepis Cuvier, 1829 from Southern Vietnam". Zootaxa, 2010; 2433, 22. DOI: 10.11646/zootaxa.2433.1.3

  • Jesse L. Grismer, Aaron M. Bauer, L. Lee Grismer, Kumthorn Thirakhupt, Anchelee Aowphol, Jamie R. Oaks, Perry L. Wood, Jr, Chan Kin Onn, Neang Thy, Micheal Cota & Todd Jackman. "Multiple origins of parthenogenesis, and a revised species phylogeny for the Southeast Asian butterfly lizards, Leiolepis". Biological Journal of the Linnean Society, 2014; 113 (4) 1080-1093. DOI: 10.1111/bij.12367

  • Brian Walker. (Nov 11, 2010) "Scientists discover unknown lizard species at lunch buffet". CNN.

  • Dan Nosowitz. (Nov 9, 2010) "Scientists Discover Self-Cloning Lizard Species On Vietnamese Restaurant Menu". Popular Science.

  • KHOA GIÁO. (Nov 10, 2010) "Bí ẩn loài nhông cát trinh sản". SGTT. (archive)

  • Grismer, L. & Nguyen. "Ngo Van Tri’s Lady Butterfly Lizard". IUCN Red List of Threatened Species, 2018; e.T99931318A99931327.

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