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中学理科現場雑感

Ⅰ 中学校教育の現場


 現在、多忙化する教員職場の情報が溢れています。特に、中学校は長時間労働につながる部活動のあり方や理不尽な校則などを包含して「ブラック職場」と言われています。現場に所属する私から見て、確かにその側面は、多かれ少なかれ否めません。強いて言うならば、各教職員はその職務を懸命に果たそうとして日々努力しています。けれども、その業務(授業も含む)の多くは「前年度踏襲」や「慣例」によるもので、PDCAサイクルの中で評価と改善が行われていないことが多いと思います。
 「PDCAサイクルに沿った改善を検討することにも時間が無いのではないだろうか。」と思います。
 社会構造が変化し、学校への社会的要請が変化してもなお「前年度踏襲」を基本とした小変更だけで対応しているので、小変更が積み重なるとやがて大きな歪みが生じます。多くの学校行事の見直しも、もっとスリムにできるのに「子どもが望んでいる」という、大変熱心な主張により継続されます。
 私は、教員の授業や仕事を「個人商店型職業」と呼んでいます。
 それぞれが、プロフェッショナルであり、日々子どもたちとともに授業や学級経営、行事、部活動に懸命に努力しています。けれども、(決して悪気は無いのですが)横のつながりが希薄で他教科の指導内容などに関係なく「自分の授業」を粛々と進める。ただ、授業以外の校務や生徒指導、保護者対応などにリソースを奪われ、最先端の教科教育技術や指導方法を積極的に取り入れて授業改善する時間と機会が無い傾向があります。
 本文は、「理科教育学」としての内容にそぐわないかも知れません。
 それでも、「多忙な現場」が、最先端の「理科教育学(教育学)」研究を少しでも吸収する土壌があれば、もっと業務が楽になるとともに、教師が「授業が楽しくなる」、そして結果として「子どもが楽しく学ぶ」学校になることを期待して執筆しています。(筆者は、ある人物との出会いでこれに気づきました)
 ですから、本文は現場の教職員も読んでもらいたい思いがあります

Ⅱ 新学習指導要領への認知度


  中学校現場への新学習指導要領完全実施まで1年あまりとなりました。今回の学習指導要領改訂は、これまでの「何を知っているか(知識内容:コンテンツ)」から「何ができるようになるか(行動特性:コンピテンシー)」の転換を理念のひとつとして掲げています。これは、学校現場における指導方法の大きな変革を迫るものと考えています。
子供たち一人一人に「生きる力」を育成するために、各教科等において、以下の三つの資質・能力を育成することとしています(「資質・能力の三つの柱」)。
 ・実際の社会や社会の中で生きて働く「知識及び技能」
 ・未知の状況にも対応できる「思考力,判断力,表現力等」
 ・学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力,人間性」
 これを目指す指導改善の工夫として「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点からの授業改善」と「カリキュラム・マネジメント」により、これらの三つの資質・能力をバランス良く育むことを目指しています。
1 理科の「見方・考え方を働かせて資質・能力を育む」ことに関して
 これをお読みになっている方々にとっては周知のこととですが、上記「資質・能力」は「各教科の見方・考え方を働かせて育む」こととされています。そして、上記の資質・能力に対応した評価観点として
①「知識・技能」
②「思考・判断・表現」
③「主体的に学習に取り組む態度」があります。            (*①~③は説明の都合上番号を付記している。)
ここでいう、理科の「見方・考え方」について整理してみます。

(1)見方について
 中学校学習指導要領解説「理科編」第1章第3節「(3) 理科の見方・考え方」を参考にすると、各領域で次のように記述されています。
 〇エネルギーを柱とする領域では、自然の事物・現象を主として「量的・関係的な視点」で捉える。
 〇粒子を柱とする領域では、自然の事物・現象を主として「質的・実体的な視点」で捉える。
 〇生命を柱とする領域では、生命に関する自然の事物・事象を主として「共通性・多様性の視点」で捉える。
 〇「地球」を柱とする領域では、地球や宇宙に関する自然の事物・現象を主として「時間的・空間的な視点」で捉える。
 〇この他に「原因と結果の視点」「部分と全体の視点」「定性と定量の視点」「多面的・総合的な視点」などの視点も考えられます。また主とする視点を他領域で用いる場合もあります。
(2)考え方について
 同上解説の文言に次のように記述されています。
比較する、関係付ける、順序付ける、分類する、関連付ける、多面的・多角的に見る、理由付ける、見通す、具体化する、抽象化する、構造化する

 筆者は、ここまでが中学校現場教員が「理解しておくべき新学習指導要領に関する認識」だと考えています。さらに、上記学習評価の観点「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」について、現在の評価観点との相違を正しく理解することが求められていると思います。

2 「主体的に学習に取り組む態度」の評価について
 筆者が危惧していることがあります。「主体的に学習に取り組む態度」の具体的な評価方法と評価エビデンスを高めるための評価資料集積の手立てです。

 中教審「児童生徒の学習評価に関するワーキンググループ論点整理(2018.12.17)」では「現行の『関心・意欲・態度』の観点について、挙手の回数や毎時間ノートを取っているかなど、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解が払拭し切れていない」とあります。
 「主体的に学習に取り組む態度」観点の基本的な考え方として、各教科等の「主体的に学習に取り組む態度」に係る評価の観点の趣旨に照らして、知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりするために、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価することが重要としています。

Ⅱ 完全実施初年度に現場で何が起こるのか


 筆者がこの点を危惧している理由は、現行学習指導要領における「関心・意欲・態度」観点の評価として、ノートやワークなどの提出物を評価資料とする事例が、現場において多く見られることです。
 もし、新観点「主体的に学習に取り組む態度」に移行後も、現行同様の評価資料を収集し評価を行うならば、それは、新学習指導要領における資質・能力を測定した結果とはいえないと思われます。
既述論点整理で掲載されている事例には、現行指導要領の4観点評価の「1番目を関心・意欲・態度」としたときの、評価として「ABBB」や「ACCC」について述べられています。この場合の評価具体例として考えられるのは、「知識や思考に関しては低位であるが、提出物がきちんと出ている」ということになります。これまでの「関心・意欲・態度」観点が、どちらかというと学習内容の評価の側面より、学習規律や意欲の面を測定する割合が高いがために他の観点と関連性の低い評価となっていたと考えます。
 新学習指導要領での前項①②③の評価観点は、資質・能力の3つの柱に対応していることから、相互に関連性があります。
 例えば、ある学習領域について、基礎的な①知識・技能を身につけ、様々な学習課題について②思考し、判断した結果を図表やグラフあるいは文章によって表現する学習活動を通して、③主体的に学習態度がどれだけ身についたか、というような学習の過程をたどる相互関係性を持った評価となると考えます。中教審では、特に③について「毎回の授業で全てを見取るのではなく、単元や題材を通じたまとまりの中で、学習・指導内容と評価の場面を適切に組み立てていくことが重要」とあります。
 このことを勘案すると、①②③の観点別評価が「CCA」「AAC」という可能性は低いと考えられます。
 それでも、これまでの観点別評価と類似の評価となった生徒が続出した場合、どうすればよいのでしょうか。さらに、(あり得無いことと思いますが)同学年で違う学級を2人の教科担任が評価していて、一方は旧式の提出物評価、他方は、簡易的なパフォーマンス課題など、単元や題材を通じたまとまりの中で評価資料を集積していたらどうでしょう。
 また、保護者の反応を想定してみます。様々な家庭がありますから、新学習指導要領の理念を理解し、新しい評価観点について理解している家庭と、関心が低く、これまでと同様の評価方法ととらえる家庭もあると思います。前者の保護者は、提出物による評価について妥当性を学校に問い合わせます。後者の保護者は、これまでと変わらず、子どもの評価が低いのは提出物が出ていないからだと判断します。
 学校として、どのような対応が求められるのでしょうか。

Ⅲ 学校としての対応準備


 筆者は、「提出物を評価資料とする」ことを否定しているわけではありません。もし、提出物を評価資料とするとして、教師は、その提出物のどの部分が「主体的に学習に取り組む態度」として見取ることができるのかを明らかにして、説明責任ができるかどうかが重要だと考えています。
 新学習指導要領完全実施初年度は、各学校が「評価説明会」などを開催して保護者への説明を行うと思います。その際に、「資質・能力の3つの柱」と「新しい3つの評価観点」について概要の説明をします。このとき、「各教科の見方・考え方を働かせて資質・能力を育む」と「全教科が同じ観点」が共通していることも触れると思います。その際に、「主体的に学習に取り組む態度」に関して、大まかな評価資料の集積方法について説明できる準備があるとよいと思います。
 

Ⅳ そして、今、何を…


 以上のような事柄について、「現状を確認」して、「新しい評価の概念や方法」を知り、「具体的な評価方法と内容」についてできるだけ早い段階で検討を開始することが大切だと思います。多忙な現場ですが、教員がどれだけ研修を通して知見を得て、新学習指導要領の完全実施までに他教科教員と共通理解をはかることが現段階での課題だと考えています。
 さらに、できれば、現行の4観点評価(国語科は5観点)の状況で、現行の「関心・意欲・態度」観点について「主体的に学習に取り組む態度」に照らし合わせた具体的な評価について試行してみることも大切だと考えています。

 さらには、「主体的に学習に取り組む態度」に関する「自己調整」という文言に関わって。大学の研究者、特に心理学や教育学等の学問的な裏付けについて現場教師が知る機会が増えるとよいと考えます。例えば、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考の過程等を客観的に捉える力(いわゆるメタ認知)など、学習に関する自己調整にかかわるスキルなどについて、積極的に専門家の意見に耳を傾けたいと思います。


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