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ランダムな3単語で物語を書く その3

何人かにかなり褒めていただけて嬉しいので、懲りずに続けます。

第3回のお題は「こたつ」「」「アイスクリーム」です。書いているうちにかなりセンシティブな内容になってしまったので、それだけご留意ください。




これは私にとって大いなる謎だ。

こたつに入りながら食べるアイスクリームは、どうしてこんなに美味しいのだろう。

知人にそう打ち明けたら、この幸せ者め、とだけ言われてまともに取り合ってもらえなかった。しかし、私は本気で考えているのだ。

冷と温の重なりにヒントがあることは何となく気づいていた。サウナ愛好家が、水風呂との交代浴によって「ととのい」なる境地に至るのと、原理は近いのではないかと感じる。ただ、私はサウナに対して衛生的な不安を抱いているので、試してみる勇気はなかった。

思うに、この現象の鍵はアイスクリームなんだと思う。アイスクリームを食べながら怒れる人を私は知らない。それだけ、アイスクリームには幸福度を上げる効能がある。環境的な快感とアイスクリームがもつ多幸感を組み合わせれば、きっと最上級の感情が味わえるに違いない。要するに、この状況をもっと極端にすれば、アイスクリームはもっと美味しくなるはずだ。

そう考えた私は、とある山荘に向かった。


冬の山はやはり強烈で、吹雪が舞う中を重装備で必死に歩き、何とか山荘に辿り着いた。このためだけに借りたのだ。

持ち込んだクーラーボックスを床におろす。中には、いつも食べている少しプレミアムなアイスクリームを、一つだけ入れてきた。いくつも食べられるわけがないことは分かりきっているからだ。

覚悟を決めるまでに、どれほどの時間を費やしてしまっただろう。その間にアイスが少し溶けてしまった。まあ良いや、食べ頃になったと思えば良いだけの話。そう思いながら、私は蓋を開けた。──ガソリンタンクの。

床や壁に向けて、丹念にガソリンを撒いていく。もう決心は揺るがなかった。これは最大級の快楽を得るための実験なのだ。それを確認出来たら、あとはどうなっても構わない。どうせその快楽を上回ることなんてない人生だ。

適度に汗もかいてきた。これはアイスが美味しくなるぞ。私は一息ついてから、アイスの蓋を開け、ラベルを剥がし、そして山荘に火をつけた。

火は忽ちのうちに四方を囲み、暗かった部屋を煌々と照らし始めた。そして私は手早くアイスを食べる。

思った通りだ! 極端に温度の低い屋外から遮断された、極端に温度の高い屋内で食べるアイスクリームは、これまで感じたことのないほどの美味だった。半分くらい溶けてしまっているが、そんな些事は気にならない。何しろ私は幸せなのだ。

しかし、その幸せも長くは続かなかった。気づいたときには、身に着けていた防寒具に炎が燃え移り、また気道も焼け始めてきたようで、痛くて苦しい。

二口目を食べられなかったことはとても悔しいが、それでもあの一口は、他の全てを犠牲にして得た甲斐があったと断言できる。最早私はのたうち回ることもしなかった。

しかしまさか、謎を探求した結果、私自身が大いなる謎を残すことになるなんて、夢にも思わなかったな。

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