人工呼吸器管理 基礎

人工呼吸器の管理

Ⅰ.人工呼吸器の目的 
呼吸不全に陥った患者に対して酸素付加と二酸化炭素排泄を人工的に代替あるいは補助すること。 
 ①肺胞換気量の維持、改善
    ②肺のガス交換機能の改善
    ③呼吸仕事量の軽減
    ④予防的人工呼吸

Ⅱ.適応疾患 
1.呼吸運動障害 
 ①中毒(毒物、ふぐ毒)
 ②神経筋疾患(ポリオ、ギランバレー症候群、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症) 
 ③筋弛緩薬使用中
2.肺自体の機能障害 
 ①新生児突発性呼吸障害症候群(IRDS)
    ②成人性呼吸窮迫症候群(ARDS)
    ③慢性閉塞性肺疾患(COPD)
3.他臓器の機能障害 
 ①左心室不全→肺水腫→肺性心
    ②静脈血栓→肺梗塞
    ③肋骨骨折(flail chest)
    ④胸壁穿通外傷
    ⑤中枢神経系疾患
4.代謝亢進 
 ①全身感染症(敗血症)
    ②外傷
    ③手術後回復期

Ⅲ.開始基準 

  1. 換気能力からみた適応

①呼吸パターン:努力性呼吸
②呼吸数:毎分6回以下または、35 回以上
③肺活量:10ml/㎏以下
④1秒量:10ml/kg 以下
⑤PaCO2:55mmHg以上
2.ガス交換能力からみた適応
 ①動脈血酸素分圧:酸素吸入下 60mmHg以下、室内気下50mmHg以下
 ②AaDo2:100%酸素吸入時 450mmHg 以上
 ③動脈血炭酸ガス分圧:55mmHg以上
 ④シャント率(FiO2:1.0):25%以上
3.理学的所見からみた適応 自覚的に強い呼吸困難を訴える 
他覚的著明な努力呼吸や換気パターン異常

Ⅳ.モード
調節換気と補助換気
  ①調節換気(Controlled Ventilation)
    調節換気とは、自発呼吸のない患者(全身麻酔、心肺蘇生中、重篤な患者)に用いる換気方式。呼吸回数、1回換気量、吸気・呼気のタイミング、吸入気酸素濃度など全て人工呼吸器に依存する。
    ②補助換気(Assisted Ventilation)
     補助換気とは、患者の自発呼吸に合わせて気道に陽圧を作り出す方式。患者の努力呼吸がなければ、人工呼吸器は作動しない。
   ③部分的補助換気(Assist/Control)
     補助換気だけでは、患者の自発呼吸が存在しなければ換気できないため、補助換気と調節換気を組み合わせた方式。一般的によく用いられる換気方式。

調節換気モード
【IPPV (間欠的陽圧換気)】
設定した回数だけ間欠的に吸気時に気道内を陽圧にする。呼気時は、圧を大気開放する。

【CPPV (持続的陽圧換気)】
 吸気時はIPPPV同様、気道内陽圧。呼気時は、大気に開放せず一定のPEEPをかける。

【IRV(逆比換気)】
 吸気時間を極端に延長させる。I:E=2:1など
 適応 :ARDSや肺水腫等のコンプライアンス低下重症呼吸不全患者
(閉塞性換気障害には禁忌)

【HFV (高頻度換気)】
 生理学的呼吸数を著しく超えた人工呼吸法。振動数は300前後。気道内圧の低下(肺損傷の予防、循環器系への影響軽減)や気道の振動(酸素化効率の改善、肺胞の虚脱の防止、気道分泌物の除去)の作用がある。

部分的補助換気モード
【IMV (間欠的強制換気)】
 人工呼吸器の回路を通し自発呼吸させながら、一定時間毎に設定された換気量を強制換気させる。
 問題点:自発呼吸後すぐに強制換気が入るとファイティングが起こる。
 適応:人工呼吸器からのウィーニング


【SIMV (同期式間欠的強制換気)】
IMVを患者の自発呼吸における吸気努力に同調させて行う。
 設定:一回換気量、同期させる回数、トリガー(圧orフロー)、I:E比
 適応:ウィーニングに用いる


補助換気モード
【PSV (圧支持換気)】
患者の自発呼吸に合わせて吸気時に呼吸回路に陽圧をかける。呼気相への移行は患者自身が決めること、自発呼吸のない患者には補助換気が行えない点でIMVやSIMVと異なる。
設定:トリガー(圧orフロー)、サポート圧
作用:呼吸仕事量の軽減(呼吸筋疲労の軽減)、換気量の増大
問題点:自発呼吸が小さいと作動せず、吸気トリガーの軽減作用はない。
適応:SIMV、CPAPを併用してウィーニングに使用

【CPAP (持続気道陽圧)】
自発呼吸患者の自発呼吸全般にわたって気道内に陽圧をかける。肺胞虚脱、無気肺の防止。

【APRV、BIPAP】
2つのPEEPレベルで高いPEEPレベルの時間が長く自発呼吸が可能であるが、低いPEEPでは短時間で自発呼吸をするほどの時間的余裕がない換気モードを作ることができる。呼気時間が短くauto-PEEPが発生しやすく、気道抵抗が大きい病態では禁忌。
BIPAPは、低いPEEPがAPRVより長い
高圧相と低圧相の2つの圧を設定できるCPAPのことであり、実際上は高圧相が吸気圧、低圧相がPEEPとなる。SIMVと似た動作であるが、自発呼吸が強制換気の吸気相でも可能な点で異なる。

人工呼吸器(陽圧換気)による合併症
【気管挿管の合併症】

  1. 皮下気腫

  2. 声門浮腫

  3. 気道狭窄

 【肺の圧損傷による合併症】

  1. 気胸

  2. 皮下気腫

  3. 縦隔気腫

 【肺加圧による循環器合併症】

  1. 胸腔内圧が上昇し静脈還流(中心静脈圧・右房圧)減少

  2. 心拍出量及び血圧低下

  3. 腎血流量の低下により尿量低下

  4. 脳灌流圧が低下

  5. うっ血による肝機能障害

【ファイティング】

  1. 分泌物貯留

  2. 鎮静不十分

  3. 換気過多・過小

  4. 人工呼吸器のモードの問題

【アラーム発生要因】
 高圧:呼気側回路閉塞
呼気弁の故障
換気量過剰
PEEPのかけ過ぎ
ファイティング
 低圧:呼吸回路の外れ
呼吸回路、加温加湿器のリーク
気管内チューブのカフリーク
無呼吸の発生

Ⅴ.看護

  1. 人工呼吸器とモニターの観察

人工呼吸器の設定、アラームの確認、回路の確認(リーク、閉塞、結露)、加温・加湿器(水の量、温度、湿度)、ECGモニター、Spo2モニター、血ガス


  1. 呼吸器装着患者の観察

  1. 呼吸器:胸郭の動き、左右差、肺音、体動、気管チューブの位置、カフ圧、レントゲン所見、血ガス

  2. 循環器:血行動態の急激な変化、不整脈、尿量、体温

  3. 中枢神経:意識レベル、精神状況、筋弛緩剤・催眠剤の使用時間と持続時間の把握、  睡眠状況

  4. 消化器:胃出血(ストレスによるもの)、下血・便潜血の有無、腸蠕動音、排ガス、腹部膨満感の有無、消化器症状(経管栄養中など)

  5. 代謝:栄養補給方法、カロリー、体液、電解質バランス、血糖値


  1. 患者の日常生活様式とコーピングパターンの把握

 4.身体的援助
  ①気管チューブの固定、圧迫による潰瘍の予防
  ②加温・加湿(35から37度)加湿は相対湿度で最低70%以上に設定。回路の結露が吸気側に軽度出現する程度(相対湿度100%)に温度と湿度を設定し、患者の気道分泌の粘調度を確認
  ③吸引 肺理学療法
5.清潔保持
  ①口腔ケア:ケア前後での呼吸音の確認。舌苔の除去。舌の乾燥防止。唾液貯留のないように吸引。口唇の乾燥予防。
  ②眼:清潔な湿ガーゼで清拭し、角膜ビラン、潰瘍の防止に努める。場合に応じて眼軟膏の使用
  ③褥創予防
6.肺理学療法
 体位ドレナージ

  1. 仰臥位:S1、S3、S8

  2. 腹臥位:S6、S10

  3. 側臥位:S9、患側上の肺野

  4. 側臥位(前方へ45度傾ける):S2(S6,S10)

  5. 側臥位(後方へ45度傾ける):S4、S6

    • 側臥位は40~60度が必要

 7.運動療法
   廃用予防
   ROM訓練
   呼吸筋の維持、強化
   ①吸気抵抗負荷法
    a.人工呼吸器のトリガーを最大吸気圧の30%に設定する。
    b.吸気ラインに吸気抵抗を取り付ける(p-flexなど)
    c.Abdominal pad(腹部のおもり負荷)を利用
   ②過換気法
    a.人工呼吸器の1回換気量と呼吸数を見せてゆっくりとした腹式呼吸を指導
    b.吸気ラインにインセンティブスパイトメトリーや流量計をつけて呼吸訓練を行う
   ③胸郭可動域訓練
    助間筋筋力低下や、筋の萎縮により胸郭の可動性が低下する。胸郭の柔軟性を高めるため徒手郭伸張法を行う。
シルベスター法:背臥位で膝を軽く立てさせる。一側の手で対象者の両前腕を持ち、他側の手は下胸部全面に置き固定する。深呼吸をさせ、両腕を頭上に上げ、呼気時に下制する。

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