胸腔ドレーン(chest tube)管理

Ⅰ.胸腔の解剖整理
胸腔とは、壁側胸膜と臓側胸膜に囲まれたスペースである。通常はごく   少量の胸水が存在し、潤滑油の枠割をしている。


Ⅱ.胸水貯留をきたす疾患
呼吸器の疾患のみならず、循環器疾患をはじめ、血液疾患など多彩である。




Ⅲ.胸水貯留に伴う症状
胸水の貯留がごく少量である場合には、自覚症状として感じずに経過することが多い。しかし、300~500ml以上の増加となると症状を自覚し始める。
(1) 胸痛・胸部圧迫感:深呼吸、咳、体動にて増強
(2) 呼吸困難感:胸水の増加に伴い増強する
(3) 咳:刺激性の乾性咳嗽で深吸気時に増強する
(4) 頻脈・脱力感・食欲不振・発熱などの身体症状
(これらの症状には個人差があり、症状を自覚しない人もいる)

Ⅳ.胸腔ドレーン挿入の適応
(1) 診断目的:胸水を採取し、肉眼的性状、生化学・細菌学的検査・細胞診などの結果で原因疾患の診断を目的とする
(2) 治療目的:①大量の胸水、手術後の排液・血液等のドレナージ目的
                 ②気胸の脱気
                 ③胸腔内への薬剤注入目的

Ⅴ.胸腔ドレーン挿入目的
(1) 気胸の場合

★気胸とは何らかの原因で胸腔に空気が貯留した状態
 ①自然気胸
 ②外傷性気胸
 ③医原性気胸(治療に必要な行為を行った結果生じるもの)
 ④緊張性気胸

空気を脱気する目的で胸腔ドレーンを挿入しているため、ドレーンは必ずオープンのままにする(他疾患に於いてもこれは原則となる)→クランプするとドレーンを挿入していない状態と同じ環境になってしまう
緊張性気胸⇒気胸の原因を問わず、胸腔内圧が陽圧となるため、心臓を含め縦隔を圧迫し、他側肺へも影響し、呼吸・循環系へ悪影響となる

気胸の分類

気胸の場合は、吸い込んだ空気が胸腔内に漏れ出すため、ドレーンより空気の漏れが認められる(air leak)また、airスペースが大きい時には呼吸性移動の動きも大きくなる⇒改善とともにこれらは消失する

★Air leak
呼吸性移動(大きいほど膨らんでいない肺胞がある。小さくなったらX-P、24Hクランプして症状がなければ抜去)

(2) 胸水及び手術後排液ドレナージの場合

貯留物のドレナージを目的としているため、基本的にはオープンのままとする
ただし、
① 大量の胸水が貯留している場合、急激なドレナージによる体液バランスの崩れや縦隔のシフト等を来す可能性がある時(医師の指示に従う)
② 移動やバックを体幹以上に上げる時、バック交換の時
③ 呼吸性移動が大きく、バック内の排液が逆流する時

★胸腔ドレーン挿入後の状況
 手術後にみられる呼吸性移動の変化
 気道閉塞・無気肺があるとき→大きい
 肺拡張orドレーンの閉塞→小さいorない

術後は胸腔内に血液などが貯留することにより、残存肺は圧迫を受け再膨張が妨げられる。胸腔内圧が高くなり胸部圧迫感や縦隔シフト等がおこることがある。このためドレーン挿入により肺拡張を促し胸腔内圧を正常に保つ。


Ⅵ.胸腔ドレーンの取り扱い方法
<ベッドから他へ移動する場合>
① ドレーン鉗子2本で左右よりクランプする
② ベッドを低くする
③ 胸腔ドレーンバックを引き上げ、倒れないようにして持ち歩く

<他からベッドへ戻る場合>
① ベッドを一番高くする
② ドレーン鉗子をはずす

*胸腔ドレーンバックの種類によってはベッドと胸腔ドレーンバックの高低差を配慮しなくてよい製品もあるため、採用物品を確認すること
*気胸の場合は持ち歩くときはオープンにしておくため、チューブの先が水面よりも下になるように注意する(胸腔ドレーンバックの種類によっては不要)クランプ時間は最小限とする

Ⅶ.胸腔ドレーンの固定方法

様々なテキストで方法が記載されていたり、物品も複数あるが、所属先の医療機関での基準手順に準じて行う(医療安全マニュアルに関連することが多い)

Ⅷ.問題発生時の対応方法
(1) ドレーンの接続が外れた・ドレーンを切ってしまった・胸腔ドレーンバックを倒した
⇒患者側のドレーンにガーゼなどを挟みクランプする。胸腔ドレーンバックを交換し咳嗽をさせる。医師へ報告し、必要に応じてX-P
*胸腔内圧は大気圧よりも約5㎝H2O陰圧であり、これによって肺は胸腔内で膨張した状態を保つことができる。このような状態において胸腔と大気が交通すると胸腔内圧は平圧となり肺は虚脱してしまう。または虚脱のみにとどまらず緊張性気胸となり致命的になりうる。ドレーン鉗子でクランプすることでドレーンの破損(穴があく)可能性がある。そのため、ガーゼ等で挟むことでドレーンの損傷を予防する

(2) 胸腔ドレーンバックを体幹よりも上げてしまった・胸腔ドレーンの排液が体内へ逆流した
⇒咳嗽させ、医師へ報告
*一度ドレナージされた排液が逆流することで細菌感染を起こし膿胸となる可能性がある(抗生剤の適応)

(3) 胸腔ドレーンが屈曲していた
⇒ドレーンの固定をし直す
*気胸の場合は、胸腔ドレーンが細いため体動や身体の向きによって屈曲やねじれが生じやすい→緊張性気胸となる可能性がある

 Ⅸ.その他
(1) 胸水の違い

鑑別診断上、特に重要な胸水検査項目


(2)   呼吸性移動とair leakの意味
①     Air leak:何らかの原因で肺に穴が開き、胸腔内に空気が漏れ出す。胸腔ドレーンは水封であるが、漏れ出した空気の圧により、バック内に泡となって空気がみられる
②     呼吸性移動:肺の伸縮には胸郭の容積の変化によって受動的に行われているところと、肺自体の弾性により、肺組織の容積が増すごとに内に向かって引き付ける力によって成り立っている。このため胸腔という外部から遮断された中では、肺は容積を増すにつれて、その牽引力だけ胸腔内を陰圧にしている。よって、吸気運動で胸腔が広がると、胸腔内は陰圧となり肺胞内圧と胸腔内圧の差が増すため、肺は広がり空気が入り込んでくる(吸気)。逆に胸腔が狭くなると、陰圧も減少し、肺が収縮するため空気が押し出される(呼気)。このような胸腔内圧の変化を示すものが呼吸性移動として現わされる。
胸腔内圧の正常値 -5~-10cmHg


*全身の血液が心臓に戻るためには、重力に逆らって血管の中を流れなければならない。静脈には弁の機能があるが、胸腔内が陰圧であるため、血流が容易に行われる。

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