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クラスに多様な視点を育む新たな試み ~生成AIを活用した見方・考え方を働かせるための授業設計~

近年、生成AIは飛躍的に進化し、私たちの生活にさまざまな影響を与えています。

2023年には、文部科学省から教育現場における生成AI技術の活用指針となるガイドラインも発表されるなど、子供たちの学びの可能性が広がっています。
では、生成AIは具体的にどのように教育現場で活用され、より良い学びや、より良い社会につながっていくのでしょうか?

本記事では、教育現場における生成AI活用の最前線として、当社コードタクトの「教育総研」が2023年に生成AIを活用し行った実証実験とその成果についてお伝えします。

実証では、児童生徒の見方・考え方を広げるための授業設計に向けて、スクールタクト上で生成AIによる意見生成を取り入れた授業を行いました。


教育総研とは

当社コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、当社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。
また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

本実証の目的

中央教育審議会*は、令和3年(2021年)に発表した「令和の日本型学校教育」構築に関する答申の中で、各教科特有の見方や考え方を生かすことや、異なる意見を組み合わせる協働学習の重要性について述べています。

しかし、多くの公立学校では、同じ地域に住む同じ学年の児童生徒で学級が構成されており、似たような経験や価値観を持つ子供たちが集まることから、多様な意見に触れる機会が限られています。
学校の小規模化が進む現代では、クラス替えもなく、常に同じクラスメートと学ぶ子供も増えています。

これらの課題に対応するため、本実証では小規模校となるA小学校5年生(児童数2名)を選定し、生成AIによる意見生成を授業に取り入れることで、児童の視点や考え方を広げるための試みを行いました。

*中央教育審議会は、文部科学省に設置されている審議会の1つ。教育に関する重要な政策や制度について調査・審議し、文部科学大臣に意見を述べる役割などを担う。


多世代、多国籍、偉人とも学べるシステムを開発

大規模言語モデルを持つ生成AIは、入力したテキストの内容を読み取り、文章を生成するAIです。一般的な知識であれば文章を生成することができますが、教材に特化した内容をそのまま生成することは難しい現状があります。

そこで、コードタクトでは、授業の教材情報と発問を予め入力することで、生成AIが教材に合わせた意見を生成できるよう独自のシステムを開発しました。(図1)

図1 生成AIによる意見の画面イメージ

また、授業の目的に応じ、以下の5つの意見モードを選択することで、それぞれのモードに沿った意見が生成できるようにしました。

①標準モード:
児童生徒の発達段階において想定される意見を生成するモード
②多様モード:
児童生徒と異なる文化や価値観を持つ多様な意見を生成するモード
③世代モード:
10代、30代、50代など各世代を代表するような意見を生成するモード
④世界モード:
さまざまな国の多様な価値観を踏まえた意見を生成するモード
⑤偉人モード:
歴史上の人物の生い立ちや思想などを背景にした意見を生成するモード

さらに、生成される意見が発達段階によって適した表現となるよう、意見の書き方を小学校中学年、小学校高学年、中学校、高校、大人から選択できるようにしました。(図2)
本実証ではこれらのシステムを使い授業を行いました。

図2 生成AIの設定画面


生成AIと意見を交換

授業では、道徳科の「おじいちゃんとの約束」という題材を取り上げ、「おじいちゃんが最後に言葉をかけた『せいいっぱい生きる』とはどう生きることなのか」という中心発問に対し、標準モード、小学校高学年の書き方設定で、生成AIによる5名分の意見を生成しました。

児童には、これらの意見が生成AIにより作られた意見であることは伏せ、「先生の友達」の意見と伝えました。その上で、授業に参加した児童a、bの意見と共に、スクールタクト上で共有しました。(図3)

図3 共有された児童と生成されたAIによる意見

また、授業の後半には、児童aとbに対し、共有された意見の中から、学級で紹介したい意見を選んでもらい、その理由を発表してもらいました。

授業の録画を分析したところ、児童aは、AIの意見を通して、自分にはなかった視点から考えを深めている様子がうかがえました。また、児童bは、自分の意見と比較して新たな気づきを得ながら、自己の生き方について考えを深めている様子が見られました。(図4)

図4 児童の考察

このように生成AIを活用することで、小規模校においても、多様な意見に触れ、自己の生き方について考えを深める機会が提供できることがわかりました。

まとめ

本実証は、2024年3月に神奈川大学 横浜キャンパスで開催された情報処理学会第86回全国大会で発表されました。この実証を通じて、同質性の高い学級でも生成AIを活用することで新たな視点を提供し、児童生徒の思考を広げ、深める可能性が示されました。

発表を聴講した方々からは、「生成AIであると知ったときの児童の反応はどうだったのか」、「性別の設定によっても表現方法が変わるのではないか」など、多くの質問や意見が寄せられ、教育現場における生成AI活用への高い関心がうかがえました。

一方で、生成AIが生成する意見は必ずしも正確とは限らず、ハルシネーション(幻覚)と呼ばれる現象が起こることがある点にも注意が必要です。この特性を理解し、情報の正確性を見極める能力を育むために、批判的思考を養う教育にも生成AIを活用できると考えられます。

教育現場での生成AIの活用はまだ始まったばかりです。今後も教育総研では研究と実証を重ね、その成果を多くの子供たちのより豊かな学びにつなげていきます。



それではまた。
学びとマナビが、ひびき合う。
スクールタクトでした。


参考

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