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戸田市教育委員会のトライ&アプローチ②~リーディングスキルテスト導入について~

連載企画第二弾、戸田市教育委員会の取組について、です。
前回は、リーディング・スキル・テスト(以下RST)の導入のきっかけ、RSTで初めて可視化された実態についてお話をいただきました。今回は、導入にあたって、学校現場と如何に協働したのか、今後への課題や想いについて、お話をいただきました。
前回同様、もしもっと聞きたい!ここはどう乗り越えたのだろう?等あれば、コメント欄もしくはメッセージでお知らせください。戸田市に対する応援メッセージも大歓迎です。
※前回の記事は、こちら


【想いを語ること&Class Labという土壌】
○事務局 前回、国立情報学研究所の新井紀子先生と戸ヶ﨑教育長がもともとお知り合いだったことが、RSTの導入のひとつのきっかけであったとお話がありましたが、学校現場との関係など、導入までのプロセスを、具体的に教えてください。
●新井指導主事 戸田市教委として学校に一方的に「RSTというものがあるからこれを各学校で実施してください!」と突然通知しても、学校は対応が難しいと思います。それに、教科書を読めない子供たちが多いなら、基礎学力を付けなくては!とむしろ知識偏重になったり、真逆の方向に向いてしまったりすることもあります。
 そこで戸田市では、戸田市の校長会で校長先生に理解をいただくことから始めました。十分に理解した校長先生のリーダーシップのもと、校内でしっかり指導したから実施することができたと感じています。特に、小学校でRSTを行うのは6年生だけですが、中学校は全学年とあって、日程調整だけでも大変だと思います。そこは、校長先生のリーダーシップでうまくやっていただくことができました。

●教育長 すべては校長が如何に教師の心に火を付けられるか、にかかっています。私は校長会で、教科の本質を如何に理解してもらうか、これを身に付けるための土台がリーディング・スキルであり、それが身に付けられているかを測る、「問うべきを問う力を育む」テストがRSTなんだと訴えました。加えて、「校長が自校の先生たちに説明するときには、それぞれが、学校の課題と結び付けて、校長自身の言葉で語ってほしい」と伝えました。教科の本質や「問うべきを問う」ということは、反対する人が殆どいない根本の教育観です。教師は、教育委員会から「やれ」と言われても動きません。校長がそれぞれの学校の課題と結び付けて必要性を訴えかけて初めて、その必要性が教師に伝わります。
 また、戸田市には、センター研究員という制度があります。これは、教師の自発的な勉強会なのですが、そこで、RSTの作問を行うという研修を行いました。与えられた問題を児童生徒に解かせるだけではなく、実際に自ら作問を行ってみることでRSTへの理解が一層深まるといった声も聞こえてきました。

 
校長による自校の課題に結び付けての訴えかけ、そして作問を通じたセンター研修という2つの方向から、教師のRSTへの理解を深めていくことができたと考えています。

○事務局 RSTの実施について細かいことで恐縮ですが、学校のどの時間でやるのでしょうか。また、必ずしもパソコンが揃っていない学校もあるとは思うのですが、その点はどうカバーされたのでしょうか。
●教育長 教育委員会ではそこまで指定はしておらず、学校のカリキュラムマネジメントにより実施しましたが、主に国語科で行った例が多く見られます。パソコンの台数については、戸田市の学校は、各学校40台はあるので、約1時間のテストをする際に、クラスごとにパソコンを回していった、という感じです。
 こうした新たなテストを導入するとなると、現場の教師の立場に立てば、どの教科の時間を使ってやるのだろう?これが何に繋がるのだろう?と疑問を抱くと思います。この点、戸田市はClass Labという意識の土壌があったことが大きいです。これは、私が課長時代(平成15年頃)から言い続けている考え方で、学校現場を産業界や学術界に開放して、実証の場としようとするものです。
 戸田市の教師は、このClass Labという考え方で、教師以外が教育現場に入っていくということに慣れていたからこそ、校長が語る想いに応える形で、RSTの導入を受け入れてくれたのだと思います。
○事務局 実施する学校はどのように選んだのでしょうか。
●新井指導主事 最初は希望する学校から導入する方式でしたが、昨年度からは全校実施です。最初の「希望校方式」も、最終的には全校展開を見越してのものでした。
 今は新井紀子先生の本も出版されて、追い風が吹いている状況にあると思いますが、ともすれば、周りからの「戸田市は凄いね」という評価と教師の実際の手ごたえとの間にミスマッチが生じているところもあるのではないでしょうか。RSTを実施したからといってそれですべてが解決する訳ではないと思います。RSTを受検した子供たちの力をつかみ、すべての学びの基礎となる基礎的読解力の育成という視点から、どのように授業改善を進めていけばよいのかを考えることが、戸田市の今後にとって大きなポイントです。

【すべてを授業改善に繋げる】
○事務局 RSTの結果を踏まえて、進められている授業改善等の実践、また今後の課題について具体的に教えてください。
●新井指導主事 ちょっとわかりにくいかもしれませんが、RSTを活かした授業改善と、リーディング・スキルを伸ばすための授業に向けた研究とは違うと考えています。RSTを活かした授業改善については、主に苦手な子への支援を中心に、ユニバーサルデザイン化の視点から授業づくりを考えています。具体的には、読み取りづらい文章について、必要に応じて主語や述語を問うたり、簡単な絵や図をかきながら読むように指導しています。
 一方で、リーディング・スキルを伸ばすための授業に向けた研究では、RSTの正答率が高い子には、RSTが高いこと以外の特徴はないか、こうした子供たちの共通点、例えば普段どのような学び方をしているのかなどを調べています。また、比較的長い文章を読んで、自分の考えを書く場を設定したり、キーワードで問題を解いたりしないように、条件不足や条件過多の問題文をあえて提示したりすることも考えています。
 これまでは、教科ごとの学力テストしかありませんでしたので、例えば数学の点数が悪ければ、数学という科目の中での減点の箇所からその原因を探って、その部分の知識を提示して、知識を補充していくという方法がありました。一方、RSTが導入されて、数学の知識だけではなく、そもそも問題文が読めていない、教科書が読めていないという可能性があることが分かりました。
 ただ、RSTの結果を聞いただけでは何も始まりません。教育委員会として、RSTの結果の使い方を考えていかなければなりません。RSTはテストを受ければ何かが変わる、といった魔法のテストではありません。テストを受けたあとにそれをどう活用していくかを教育委員会として考えていくことが大切です。それは、とても時間と労力のかかることです。しかし、そのプロセスこそが最も大切であり、その点をしっかりと踏まえれば大変有意義なテストであると考えています。
●教育長 いま新井指導主事も言っていた通りで、RSTは魔法のテストではありません。私は、こうした取組みは、単に産学官でやれば良いということではなく、教育現場こそが「どのような教育を実現したいのか」という教育意思を持って、最終的な目的に向けてトライ&アプローチ(試行接近)していくことが大切であると思っています。同じRSTでも、こちらが教育意思を持っていなければ、それをうまく活かすことはできません。教育意思があれば、全ての取組みは、トライ&エラー(試行錯誤)ではなく、最終的な目的に向けたトライ&アプローチ(試行接近)に繋げていくことができるのです。そういう教育意思は、全ての新しいことを始めるときの大切な根本です。私は公教育の最も重要な目標の一つは「より良い授業」だと考えています。一回一回の授業を少しでも良いものに改善すること、こうしたテストも産学官連携もその手法の一つであって、全ては「授業改善」に繋げるためにこそあるのだと思っています。その根本を私たち教育委員会がぶれずにメッセージとして伝え続けていたことこそが、現在の戸田市のRSTの普及及びそれを通じた各種教育活動の改善に結び付いていると考えています。



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