あきらめられないひと
最近のわたしの占星術の相談は、8割方が恋愛か結婚の悩みが含まれる。さらに占星術を除いても、これまであちこちで恋愛話を聞かされたり相談をされることが多かった。
個人的には最もそれから遠い存在であるはずなので、どうしてそんな人物に相談してくれるのかが長年の不思議であった。私が最後に恋愛らしい恋愛をしたのは21歳の時で、それが家族の事情でことごとく潰されてからは全てに興味を失ってしまった。しかも恋愛に関する妄想は10代で使い果たし、イメージすら沸かないまま年を取って今に到るのである。このときの失恋は私の人生を大きく変えてしまったので、その後は恋愛映画すら避けるようになってしまった。今までに見たその系統の映画はかなりマニアックなもの3本だけで、理由は英語の勉強のためであった(恋愛ものが一番会話が聞き取りやすいので)。
だからなおさら、どうして私に?と毎回不思議に思うのである。アセンダント水瓶座かつ1ハウスに土星が鎮座する私の誕生図を見れば、概ね地味で性別不能な見た目というのは想像に難しくないし、同業者に女子力ゼロと言われてもまあそうだよねとすんなり認めてもいる。確かにどう見ても色気があるようには見えないし服装も1ハウスカスプの特徴や外見に合うように選んでいるからなおさらである。(見た目研究者っぽいとよく言われるし少なくとも狭いスペースで占いをするようには見えないと思う)
恋愛に関する相談は、幼稚園の年齢から私より遙かに上のシニア世代まで様々であるが、私は問題解決のヒントを出すことはほとんどなく、話している途中で相手が”あ、そうか”と気づいたところで終わる。私個人はそれが一番良い方法だと思うので、”それで大丈夫”と後押しをするのが私の役目だと思って今まで話を聞いてきた。結果がどうであれ本人が自分で決めることが大切だと思うし、私がそのためにできることはその場に立ち会う事くらいなのだろう。
そんな恋愛から大幅に遠ざかっているはずの私であるが、こちらが意図していないにもかかわらず時々余所様の恋の駆け引きに巻き込まれる事がある。できるだけフラットに言うと、特定の人に「勝手にライバル認定される」事があるのだ。私に対象者への恋愛感情が全くないので不条理なのだが、いくらこちらが明確に態度で表しても納得していただけず、ライバルの役を降りたくてもなかなか降りさせてもらえないこともまれにある。
もう時効なので書けることだが、昨年転勤した時に職場にいわゆる王子様系のイケメン社員のひとがいて、その人を指名してくるお得意様が何人もいらしたのである。その中の一人は私に対する当たりが相当に強く、私が受付に出ると”あなたじゃないわよ、○○さんに代わってちょうだい”と冷たくあしらわれたりもした。そしてお目当ての社員さんが代わりに出てくると満面の笑みで、幸せそうな表情でおしゃべりを始めたのである。まだ転勤したての、1週間くらい経った頃の事件であった。まだ誰ともまともに話もしていないし右も左も分からない状況だったので、最初は相手の態度にもやもやしたが、あまりの豹変さに深い闇のようなものを感じたのでその時の事は誰にも話さず自分の中だけにしまっておいた。
その後も度々その方はお客様として来られていたので、その件以来私はその方の対応をお目当ての社員さんか別の男性社員に任せて裏方に徹し、極力対面を避けるように気をつけたがそれでも時々刺さるような視線を感じる事はあって、奥で私が何をしてるのかをじっと見られてる感はあった。しばらく時間を置いてからもう一度その方の接客に出たが、彼女の態度は全く同じであったのでそこで私の心配は妄想ではなかったとはっきり分かったのである。結局二度目の転勤までの半年間に当該社員さんとはそこまで親しくもなくまあまあ話をする程度の関わりであったので、私の方は全く気にするまでもなかったのだが、相手にしてみれば私が一緒の職場にいるだけでも嫌だったのかもしれない。
そのときのご本人の心情をすべて推し量ることは不可能だが、相手に対してはかなり本気モードだったのだろうと思う。残念なことに当の社員さんは既婚者であり、全く関心はなかったようなのでその方の一方的な感情なのだと後になって知った。確かに魅力的な人物で物腰の柔らかい人なので、これからも時々彼に恋する女性は現れるだろうなとも感じた。職場には他にも同じくらいの年の女性もちらほらいたけれど、おそらく同等の立場で働ける関係というのが、その方の何かを刺激したんだろうかとも考えた。一番競争相手にならなさそうな人物を競争相手として見るというのは理解はできないが、本人にしか分からない何かがあってそうするのだろうと、最後はそういう結論に落ち着いた。
これは一例であって他にも似たようなことが今までに何度かあったが、そのどれもに共通しているのは、私を競争相手とみなしてくる相手が”なかなかあきらめられない人”であるという点であった。上記の方も恋愛ごとに限らずかなり細かいこだわりのある人物であったし、相手がどういう立場であろうと自分の思いを何とかして遂げたいというかなり強い執着があるのを感じた。今回の事に限った話ではなく相手から一方的にライバル視されるような過去の状況を思い返してみると、(それが恋愛であれ実務能力的な事であれ共通する心理として)おそらくは自分の立ち位置をより有利にしたいというよりも私という”障害物”を置くことで、特定の対象への執着をやめない理由にしているのかなと、少し深読みをしてみたりもするのであった。仮想敵とは本人にとってはまさに燃えさかる炎に投げ込まれる固形燃料のような存在なので、それが恋を続ける動機付けになるのは十分あり得る話なのである。
私が直接関わらない事でも、周りを見渡してみると時々たわいない会話をしているようでも見えないところで結構しんどい駆け引きをしているなと感じる事がある。わりと最近だが、のれんに腕押しのようにのらりくらりと交わす彼氏に何とかして自分の事を認めてもらおうとあの手この手でアプローチをしている彼女のカップルを見たときに、好きな気持ちをストレートにぶつけられる相手がいる羨ましさとともに、明らかに気がなさそうなのにそれでもやめない執拗さにちょっと怖さを感じた。幸せとは本人が決めるものだから、それでいいならいいのだけれど。
個人的には恋愛そのもののもたらす良い面として、人の心を満たしたり場合によっては癒やすこともあるのでその人にとって必要なものであるならぜひその気持ちは大切にしていただければと思っている。いくつになっても恋ができるというのはそれだけその人に心の自由さがあるという事でもあるのだろうと思う。(だからよけいうらやましいわけで)
ただそこに第三者を敵役として無理矢理置こうとする理由があるとすれば恋愛とは少し違う次元にあるのかもしれないと、そういう見方をしておいた方が私の気が楽なのであった。