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社会的背景とは何だろう

人間はみんな十人十色の個性があって、そう考えると行動選択も十人十色になるように思える。けれども、実際に観察してみると、同じ社会に属している人間は同じような行動パターンを採っていることが多い。

これはどうしてだろうか。まず思いつくのは、法律や会社の規則などで決められているから(ご褒美や罰則があるから)。あるいは、その行動選択が一番得をするから。けれども、他にも原因となるものがある。

たとえばエスカレーター。あなたはどう使う? 左側? 右側? 真ん中? 歩く? 歩かない? 関東地方では、ほとんどのひとが左側に乗って歩かない。でも関西ではそれが右側になる。なぜか?

ペナルティがあるわけじゃない。エスカレーターは片側ばかり乗られると壊れやすいので、一番お得なのは両側や真ん中をみんなで使うのが一番だ。でも人びとは、そう聞いてもきっとそうはしないだろう。なぜか?

これはモニタリングと呼ばれるものが働いているからだ。周囲の行動を観察(モニター)し、自分にとって最適と思われる行動を選択していく。若者言葉ふうにいえば、「空気」とか「圧」と呼ばれるものだ。

このようにして、人は人びとの間に居ることで、ペナルティも損得も関係なく、「規制」を受けている。そのせいで、人びとの行動はみんな少しずつ似てきてしまうのだ。

でも、周囲に誰も居なくてもこうした「規制」を受けることもある。たとえば、古民家をきれいに直したコテージに宿泊したとしよう。恋バナなどに花を咲かせつつ夜は更けていく。日が変わる頃に電気を消して寝る。

30分の後、あなたは「あつい!」といって起き上がる。他のみんなはぐっすりと寝ている。あなたは枕を引きずって、建物の中で一番涼しい場所を探しあてる。上下二段の、小さくてあまりものが入らない謎の押入の前。

ああ、これ元々は仏壇があったところだろうなとあなたは気づく。昔はお葬式をみんな自分の家でやっていた。仏壇の前に亡骸を安置して式を進めた。その場所がどうやら一番涼しいようだ。さてあなたならどうする?

①わたしは仏様が仏罰を与えることを信じているのでそこでは寝ない。
②わたしは幽霊が祟りを与えることを信じているのでそこでは寝ない。
③わたしは仏様も幽霊も信じていないのでそこが涼しいならそこで寝る。
④わたしは仏様も幽霊も信じていないがなんとなくそこで寝るのは嫌だ。

多くの人が④を選ぶ。どうしてだろう。ペナルティもないし、損得でいえばそこが一番涼しいし、後で友人たちが「お前そんなところで寝たの?」とあきれたりすることもないとわかっているのに。

実はわたしたちの多くは、21世紀に生きる合理的な人間なのだけれども、仏教を含めた日本の伝統的な死生観が身体に染みついてしまっているのだ。だからそこで寝ることがどうしてもできない。

このようにわたしたちは、①具体的な損得勘定ばかりではなく、②周囲の人を観察した結果や、③生まれ育ちの中で得た文化・道徳・宗教などの社会的背景の影響を受けながら行動を選択している。

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