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化学実験でのソーシャルディスタンス

 2020年、日本において最も多くの人に使われた横文字は「コロナウイルス」であることに異論はないだろうが、その次に多く使われたのはおそらく「ソーシャルディスタンス」であろう。デジタル大辞林によればソーシャルディスタンスとは「個人と個人との間、集団と集団との間における親密性・親近性の程度。」とのこと。人-人感染を起こすウイルスへの対策において、最も基本的かつ重要な概念として広く知れ渡ったといえる。ただし、このソーシャルディスタンスの考え方は何も感染症対策だけの話ではない、化学実験においても常に頭に入れておきたい概念だ。

 化学実験においてソーシャルディスタンスがなぜ大切か、理由は単純明快、邪魔だし危ないからである。例えば一つのドラフトで二人以上が異なる反応を仕込むような場面。大学の実験室ではたまに見られる(定期進歩報告会の直前など特に)光景であろうが純粋に危険だ。試薬を取り違えたりコンタミが起きてしまったり体がぶつかって器具を落としたり倒したり、不測の事態(反応の暴走など)が起きた際には無駄に被害者を増やすことにもなる。肩を寄せ合ってカラム精製なんてのもよくない。単離精製という化学実験において最も重要な工程で無駄に失敗のリスクを増やすのは賢くない。合成反応の実験においては仕込みから単離精製まで同僚とのソーシャルディスタンスを保って行うのが基本である。勿論これらの例は先輩が後輩の実験指導を行う、監督するなどの場合は例外なことは言うまでもない。

 しかしながら、私が言いたいのは実験中他者とはできるだけ距離をとるべきという話であって、誰もいないときに一人で悠々と実験するのが一番と言いたいわけではないということは注意していただきたい。特に大学での研究ではどうしてもそうせざるを得ない場面が出てきてしまうことは十分理解しているが、特に化学合成実験は爆発漏水火災などの危険があるものである。いざそのような事態に陥った時、例えば深夜で自分一人しかいないとなってしまっては対処が間に合わず被害が大きくなってしまう可能性が高い。そうなれば命に係わることだってありうる。デーモン・コア実験じゃあるまいし、無駄に自分の命を懸けてまで実験をすることはない。

―本稿執筆者―
中の人

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