【映画】皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇

あらすじ:麻薬戦争まっただなかのメキシコ、アウダー・フアレス。年間3000件を超える殺人事件が起きる町で、マフィアの脅威にさらされながら警察官として働くリチ・ソト。アメリカで麻薬カルテルを賞賛する"ナルコ・コリード”を歌い、声望を得ていくエドガー・キンテロ。ふたりを通してメキシコの麻薬戦争を描くドキュメンタリー。

ほんとにドキュメンタリー?ほんとにノンフィクション?とても信じられない世界の話だった。

原題はNarco Cultura(麻薬文化)。「皆殺しのバラッド」はふたりの男を主人公にして、麻薬戦争をめぐる社会とカルチャーを描いた映画だ。

アメリカとの国境に位置するアウダー・フアレスは、伸張する麻薬カルテルの抗争の舞台となっており、民間人も含め年間3000件以上の殺人事件が起こっている。警察は多すぎる殺人事件を調査することができず、ほとんどが野放しとなっている。リチ・ソトは、そんな無法地帯で「町を良くしたい」という思いをもって警察官として働いている。

警察官もつねにマフィアからの強迫にさらされているような、暴力が常態化している町では、健全な産業は枯れてしまいまともな就職先はない。死が日常にある滅び行く町の絶望的な情景が、警察官リチ・ソトと共に描かれる。

いっぽう国境を超えたアメリカでは、ナルコ・コリードという新興のジャンルが盛況を博している。麻薬カルテルのボスやマフィアを讃え、殺人や暴力を肯定する過激な歌詞が人々にウケているのだ。エドガー・キンテロは売り出し中の若手ナルコ・コリード歌手で、マフィアに強くあこがれている。メキシコに行ったことがないキンテロは、ネットやマフィアが話す情報をもとに歌詞を作っていて、いつかはメキシコに行きたいと思っている。

キンテロのバンドはクラブで大人気で、大勢の客の前で暴力的で残虐な歌詞を歌い、喝采をうける。国境を越えたメキシコでは、実際に血が流れ人が死んでいるが、アメリカのクラブでは罪悪感もなく娯楽としてナルコ・コリードを楽しんでいる。

ソトとキンテロ。アウダー・フアレスでの悲惨な状況に苦しむ人々と、アメリカのクラブでのナルコ・コリードに酔いしれる騒々しい人々とが交互に描かれ、麻薬戦争を巡る現実の一片が鮮やかに描かれていた。


蛇足だが、ナルコ・コリードはメキシコでも人気があるが、ラジオはテレビでの放送は禁止されているという。犯罪者を賛美するような歌とはいえ、政府が規制していいのだろうか?もし、日本で同じようなジャンルの歌が流行ったら規制もしかたないと思うだろうか?ということをとりとめもなく考えていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?