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ソーシャルワーカーにとっての「ホーム」でありたい

「なんか『実家感』があるんですよね」
と言われた。Social Change Agency研修プログラムの過去の受講生にインタビューをしていた時に、研修プログラムの形容として出てきた言葉だ。
「実家感」という、捉えようによってはちょっとダサさもある、何とも言えない言葉にちょっと可笑しさを感じてしまった。うん、でも、これは、研修プログラムを表現するちょうどよい言葉かも、と内心思った。

まぁ「実家」に持つ印象は人によって異なると思うので、私なりに解釈すると「肩ひじを張らなくてよい、居心地のよい、温かな場だ」ということかなと思う。そう思ってもらえているなら本望だし、実際に卒業生の多くは研修プログラムの良さとして第一に「ソーシャルワーカーとの出会い」を挙げる。

すみません、名乗らず始めてしまいましたが、Social Change Agency研修プログラムの実践者ゼミの企画とファシリテーションを担当しています、齊藤直子です。

私は実は、2017年度に開催された研修プログラムの第1期目に受講生として参加し、翌年度の第2期からは縁あって企画側として本プログラムに携わっています。毎年本当に豊かな時間を過ごさせてもらっていて、今年度の実践者ゼミが始まるのも楽しみです。

実践者ゼミについては、リンク先を見てもらえれば概要が載っています。説明動画もあるので、かなり詳しめにお分かりいただけるかと思います。

ということで今日は、公にはまだwebページには載せづらい、私個人がこのプログラムを実施している中でどんなことを思っているのか、そしてその思いにどんな変遷があったのかをお話しできたらなと思います。

学習も提供したいけど…

もともと私がこのプログラムに関わり始めたのは、代表理事の横山さんに「私がこのプログラムを、もっと学習を促進するものにできます!」と直談判したことがきっかけです。若気の至りだなと今となっては思いますが(笑)、内省や対話といったこれまで本業でやっていた活動を、絶対に活かせると思いました。

もちろん今でも、その気持ちは変わっていません。変わらず、内省と対話はこのプログラムの中心であり、今年度は動画学習を取り入れるなど、毎年学習の側面は進化させてきたつもりです。しかし近年は「参加者であるソーシャルワーカーや対人援助職のみなさんのエンパワメントが第一」という指針を持っています。

それは、多くのソーシャルワーカーや対人援助職の参加者のみなさんの話を聞いて起こった、私の変化です。実践者ゼミでは、毎年必ず、しかも毎講義日にほぼ必ず実施する「リフレクション」のコンテンツがあります。ソーシャルワーカーの方々になじみがある言葉で言えば、「自己覚知」のコンテンツと言えるかもしれません。これは1ヵ月の間に支援の現場で起こった「感情が揺れた出来事」を振り返り、受講している仲間でそのストーリーを共有し、フィードバックや質問を投げかけることで、自身の行動や感情を振り返り、自身の固定観念や価値観などに気づきを得ること、さらにそれらを構成した過去の経験や社会構造に目を向けることを目的とした活動です。私はこの活動を通じて、必然的にみなさんの現場での出来事を聴くことになります。

そして、たまに思ってしまうのです。「個別支援でこんなに大変な人たちに、なぜメゾ・マクロのアクションまでやってもらう必要があるのだろうか」と。時には、本当に目を背けたくなるような現実を耳にします。これはプログラム内に限った話ではないですが、ソーシャルワーカーの方から耳にする話はコロナ禍でさらに、切迫感が伝わってきます。疲弊する医療現場、貸付金・支援金業務による忙殺、食料支援等のニーズの急増、露呈した住宅問題への対応…など、枚挙に暇がありません。

それでも、このプログラムに来てもらえる人に、まずは少しでも参加することで元気になってほしい、と今は強く思っています。そして新たな知見や視点を獲得し、現場で活かしてもらえれば、これほど良いことはありません。

まずは個別支援から、だ

また当初はそこまで明確に思っていたことではないのですが、徐々にクリアになってきたのは、メゾ・マクロに対してのアクションという、いわば「変革」を起こすことを意図したプログラムであるにも関わらず、私たちは「まずは個別支援から」という考えを持っているということです。この「まずは」というのは、個別支援を究めてからじゃないと変革をしてはいけません、という意味ではなく、「ソーシャルワーカーとして、個別支援の対象であるクライエントを通じて見える社会を変革してほしい」という願いの表れと受け取ってください。

社会の変革を担う社会活動家や社会起業家などの方々の存在感は、増しているように思います。もちろんその存在は重要で、実際に変更された法律や制度は多くあります。これまで排除されていた人々が、新たに包摂される契機を生み出すアクターは、以前に比べて増えているように思います。

そして、だからこそ「個別支援」は重要性を増す、と感じます。といっても、仮説なのですが…
・新たに包摂される人がいるということは、その包摂から漏れる人がいるということとセット。それが避けられないのであれば、新たな包摂の裏にある新たな排除にすぐに気づけるのは個別支援者ではないか
・新たな包摂が本当に包摂足りえているのか、困難を抱える当事者の視点でフィードバックが必要で、それができるのは個別支援者ではないか
・個別支援者は、当事者の視点から社会を眺め、当事者からの一次情報をもとに変革を“デザイン”できるのではないか

つまり、個別支援に軸足を置きながら変革を成す、あるいは変革をサポートする存在が必要なので、「個別支援」は重要性を増すのではないかと思うのです。

だから私たちは、社会起業家養成をすることも、アドボケイト養成をすることもありません。目指す姿は、参加者がこれまで出会ったクライエントによって変わるはずだからです。もちろんその結果、起業を選ぶ方もいらっしゃるかもしれませんが、それはみなさんが最適な手段を選んでもらえればよいだけです。

最初の一歩はむしろ小さく、だけどこのプログラムに来たからには、みなさんが現場にいるだけではなかなか思いつかないようなアクションを取ってもらえるよう、尽力します。あなたが出会ったクライエントだからこそ感じられた課題を、あなたらしい方法で、取り組んでみませんか?ソーシャルワーカーの「ホーム」で、お待ちしています。

実践者ゼミコースの過去の受講生の方との懇談会を9月17日(土)20:00~21:00に行いますので、ご参加を検討くださっている方はぜひ。お待ちしています!